ワシントンの公文書など世界中の古文書、修復に和紙が活躍…優れた耐久性「千年単位の歴史が証明」
2025年5月5日(月)18時29分 読売新聞
ジョージ・ワシントンが議会に宛てた文書も和紙で修復が施された(米メリーランド州カレッジパークで)=山本貴徳撮影
【ワシントン=山本貴徳】米ワシントンの国立公文書館で、日本の和紙が歴史的文書の修復に活用されている。和紙は軽くて丈夫で水にも強く、美しい風合いも備えている。正しく保管すれば1000年以上の保存に耐えるとされることから、国際的な文書保存の現場で高く評価されている。
1934年設立の同館は、独立宣言や合衆国憲法の原本など、135億ページに上る文書を保存している。日本製の紙は20世紀初頭から保護材として使われてきた記録が残されており、80年代には、和紙は保存や修復の分野において欠かせない素材となっていたという。
和紙の技術は、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されており、ルーブル美術館や大英博物館など、世界各地で文化財修復に利用されている。ウクライナの国立歴史公文書館でも、古文書の修復に使われている。
和紙の価値は芸術の観点からも注目が集まっている。米ニューヨークを拠点とする日本画家・千住博さんは「和紙は耐久性に優れており、千年単位の歴史がそれを証明している。単なる文化にとどまらず、文明としての価値が認められている」と語る。
データ劣化や機器消滅で増す「原本」の価値
米ワシントンの国立公文書館は、2026年までに約5億ページの資料をオンラインで公開する大規模なデジタル化計画を進めているが、「原本」の保存も依然として重視している。そこで重宝されているのが、日本の和紙だ。
同館によると、デジタル化が始まった初期にはカラーでのスキャンが行われておらず、印章や色インクといった情報が記録されていなかった。停電やファイル破損といったリスクも懸念される中、「紙に立ち返ることができる」という安心感が、修復士たちの大きな支えとなっているようだ。
「私たちの修復作業に和紙は欠かせない。きちんと作られた和紙はずっと使えるからだ」。修復士のユンジュ・ストラムフェルスさんはこう力説する。劣化しにくく、環境変化にも比較的強い和紙の特性は、記録保存において高い信頼を得ている。
初代大統領ジョージ・ワシントンが議会に宛てた文書を修復したというストラムフェルスさん。作業では、補強のために貼られていた絹布を除去し、破損箇所に極めて薄い和紙を使ったという。貼り付けた和紙は文字を損なうことなく、まるで見えないように自然になじんでいた。
修復に活用する和紙のうち、
日本画家・千住博さんは、「デジタル化が進む中で、保存メディアの劣化や再生機器の消滅により、中身が取り出せないという問題が顕在化している。そうなると、機材がなくても読める紙に回帰する」と指摘する。その上で、「デジタルの時代だからこそ、和紙の多面的な魅力が改めて認識されている」と述べ、人類の記憶を未来へつなぐ素材としての意義を強調した。