理研など、マイクロ流体デバイスを用いてクモの紡糸プロセスの模倣に成功

2024年2月1日(木)16時55分 マイナビニュース

理化学研究所(理研)と京都大学(京大)の両者は1月31日、マイクロ流体デバイスを利用し、自然界でクモが行う複雑な紡糸プロセスを模倣することに成功したことを共同で発表した。
同成果は、理研 環境資源科学研究センター バイオ高分子研究チームの沼田圭司チームリーダー(京大大学院 工学研究科 教授兼任)、同・チェン・ジャンミン特別研究員(研究当時)、同・マライ・アリ・アンドレス上級研究員、理研 開拓研究本部 新宅マイクロ流体工学理研白眉研究チームの土田新テクニカルスタッフII、同・新宅 博文 理研白眉研究チームリーダーらの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
クモの糸は、鉄よりも強度があるなどの力学特性が知られており、それに加え、生体適合性と生分解性を備えていることも知られているため、再生医療や環境循環型材料開発において多大な可能性を秘めた生体高分子として期待されている。
しかし現代の技術をもってしても、クモの糸と同等の性能を持った人工繊維を開発することは困難だとされている。その理由として、クモの糸の力学特性がタンパク質「スピドロイン」から成る複雑な階層構造に大きく依存している点が挙げられるという。クモの体内では、化学的・物理的要因の複雑かつ段階的な変化により、スピドロインの自己組織化が引き起こされているが、これまでは再現できなかったとのこと。そこで研究チームは今回、マイクロ流体工学を利用することで、クモの紡糸機構という複雑なプロセスを模倣することを目指すことにしたという。
今回の研究では、まずマイクロ流体デバイスを設計。このマイクロ流体デバイスは3つの流入口にそれぞれ、(1)可溶性タンパク質前駆体(組換え生産された「MaSp2スピドロイン」)溶液、(2)イオン交換勾配を作り出す液-液相分離(LLPS)トリガー、(3)pH勾配を作り出す繊維化トリガーが導入され、流出口に向かって粘弾性せん断応力を加え繊維の形成を促進する仕組みが備えられた。
流出口に陰圧を加えることにより流路内に入った可溶性スピドロイン溶液は、セクションAにて、ナトリウムイオンと塩化物イオンが豊富な溶液から、カリウムイオン、リン酸イオン、および関連イオンが豊富な溶液へと置換される。これにより、可溶性スピドロインが不溶性繊維に変化するために欠かせない中間段階であるLLPS現象が促進される。
続くセクションBでは、pHを弱塩基性から弱酸性に変化させる。これが網目状の微小な繊維(ナノフィブリル)構造体が自己集合する引き金となり、その後のセクションCにて、スピドロインの分子構造の変化を誘起するとされるせん断応力が加えられ、スピドロインから成るナノフィブリルを配向(繊維方向と同じ方向に沿って並ぶこと)させることで繊維化が達成される。
さまざまな実験条件の最適化を経て、マイクロ流体デバイス中で人工クモの糸の形成が試みられた。さまざまな顕微鏡を用いて、マイクロ流路内での段階的な繊維形成が観察が行われた結果、スピドロインの希薄な溶液から始まり、LLPSによるスピドロインの液滴への凝縮(セクションA)、pH5までの酸性に暴露(セクションB)することで、直径5〜10マイクロメートルに形成された細い繊維が出口に向かって伸びている(セクションC)ことが観察された。
なお、最適化された条件下では、マイクロ流体デバイス内での繊維形成は高い再現性が示されたという。しかも、完全な水中条件で生産されたにもかかわらず、マイクロ流体デバイスで組み立てられた人工クモの糸は水に不溶であり、蒸留水中でも有意な構造変化は認められなかったほか、組み立てられた繊維には繊維軸方向に配向した束状のナノフィブリルから成る構造が確認されており、階層構造の形成が示唆されているとする。
今回の研究成果は、環境に優しい条件下で、自己集合化の過程を経て複雑な階層構造を持つ人工クモの糸を大量生産するための出発点となるとする。人工クモの糸の生産に限らず、高分子材料を環境低負荷なプロセスで成形加工することは、多くの産業分野で求められており、新たなグリーンテクノロジーとして、さまざまなな高分子素材を製造するアプローチの開発に大きな影響を与えることが期待されるとしている。

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