米企業の月着陸機「アシーナ」、月面に降り立つも姿勢に問題発生か

2025年3月7日(金)19時5分 マイナビニュース


米宇宙企業インテュイティヴ・マシーンズは2025年3月7日(日本時間)、月着陸機「アシーナ」の月面着陸に挑んだ。しかし、月面には到達したものの、横倒しになっている可能性が高いとみられている。アシーナは、月の水の探索や小型探査車の展開などを計画していたが、その実現は不透明な状況にある。
アシーナの月面着陸ミッションの背景
アシーナ(Athena)は、米国テキサス州に拠点を置く民間企業インテュイティヴ・マシーンズ(Intuitive Machines)の月着陸機で、同社の「ノヴァC級」と呼ばれる月着陸機の2号機にあたる。ミッション名は「IM-2」(Intuitive Machines-2)と名付けられている。
ノヴァC級の1号機「オディシアス」は2024年2月15日に打ち上げられ、同月23日に月面に到達した。しかし、レーザー高度計などのトラブルが原因で正常に着陸できず、機体は横倒しになった。それでも、太陽電池による発電や通信は機能し、搭載機器もほぼ稼働するなど、不完全ながらも民間初、そして米国にとって約半世紀ぶりの月面着陸を達成した。
今回の2号機アシーナは、オディシアスの教訓を踏まえて改良され、確実な着陸とミッション遂行の成功をめざしている。
また、米国航空宇宙局(NASA)の観測機器や、日本を含む民間企業の着陸機、実験装置などを搭載し、月に送り届けるとともに、月に存在する可能性がある水の探査と、その活用を見据えた技術実証も目的としている。
このミッションは、NASAの商業月面ペイロード・サービス(CLPS)計画の一環として実施され、また長期的な有人月探査を目指す「アルテミス」計画とも関連している。
機体は横倒しに?
アシーナは日本時間2月27日、フロリダ州にあるNASAケネディ宇宙センターから打ち上げられた。その後、3月3日にメインエンジンを噴射して月の周回軌道に入り、同月6日19時33分には着陸地点へ向かう降下軌道に乗った。
そして、着陸目標地点の上空にさしかかったところで、ブレーキをかけるようにエンジンを噴射し、機体を垂直にして降下した。降下から着陸は完全に自律的に行われ、装備されたカメラとセンサーを使って着陸予定地点に向かうと同時に、大きな岩などの障害物があれば自動で回避し、別の安全な場所を探して降りるよう設計されていた。実際、今回の降下時にも、予定の着陸地点を回避したことがわかっている。
計画では、日本時間7日2時32分ごろに着陸することになっていたが、着陸機からのテレメトリー(機体の状態を示すデータ)が途絶えたり乱れたりし、いつ、どこに着陸したのか、正確な状況は不明だった。
着陸から約3時間半後に開かれた記者会見で、同社CEOのスティーヴ・アルテマス氏は「着陸はしたが、月面上での姿勢が正しくないようだ」と述べた。着陸機の慣性測定装置(IMU、機体の向きや動きを測定する装置)のデータによると、機体は横倒しになっている可能性が高いという。
正常に着陸できなかった理由についても調査中としたうえで、「レーザー高度計がノイズの多いデータを送ってきていた」と述べた。このノイズは月周回軌道上での試験中から発生していたもので、降下、着陸時の動作に影響を与えた可能性があるとした。
一方、着陸後のアシーナは、太陽電池による発電がある程度できており、地上局へのテレメトリーの送信、双方向の通信もできているという。運用チームは、搭載機器を適時オン・オフするなどして、状況の把握を続けているとした。また、降下中や着陸後に撮影した画像についてもダウンリンクを始めているとし、そうしたデータ、情報を踏まえ、着陸機の状態の把握や、運用の優先順位の検討を行っていくとした。
正確な着陸地点もまだわかっていないが、会見に登壇したNASAのニッキー・フォックス氏は、「着陸した場所がどこであっても、できるだけ多くのデータを取得するよう努める」と述べた。また、NASAの月周回探査機「ルナー・リコネサンス・オービター」を使い、着陸場所付近の画像を撮影し、着陸場所や機体の姿勢を把握することを計画しているとした。
今後の見通しは不透明
アシーナが着陸を目指したのは、月の南極から約160km離れたところ(南緯85度、西経31度)にそびえる標高約6,000mの台地「ムートン山」(Mons Mouton)だった。過去の月探査ミッションの中で最も南極に近い場所である。
また、その地形と、南極地域特有の太陽の位置によって、一年を通して日の光が当たらない「永久影」が生じている場所があり、その内部には水がある可能性も示唆されているなど、科学的に興味深く、将来の有人探査の拠点となることも期待される場所である。
アシーナには、NASAが開発したドリルや分析器を備えた装置「PRIME-1」が搭載されており、月の地下1mからレゴリス(土壌)を採取し、水や揮発性物質の調査・分析が計画されている。
また、月面をジャンプして移動できる探査機「マイクロ・ノヴァ・ホッパー」や、日本の民間企業ダイモンが開発した小型探査車「YAOKI」なども搭載しており、月面に展開することが計画されている。通信大手ノキアなどが開発した、携帯電話と同じ技術を使って月面で通信できるか実証する装置も搭載している。
7日昼の時点で、こうした科学ミッションや、YAOKIの展開などが実施可能かどうかは不透明となっている。
アシーナは、2025年に打ち上げられた3機の民間月着陸機のうち2機目にあたる。1機目のファイアフライ・エアロスペースの「ブルー・ゴースト」ミッション1は、1月15日に打ち上げられ、3月2日に無事、月面への着陸に成功した。
ブルー・ゴーストとともに打ち上げられた、日本企業ispaceの着陸機「レジリエンス」(RESILIENCE)は、時間はかかるものの燃料消費が少なく、効率よく月へ行ける軌道を航行しており、6月6日に月面着陸に挑む予定となっている。
○参考文献
IM-2 | Intuitive Machines
Missions - NASA
Intuitive Machines IM-2 Mission Landing Live Stream - YouTube
Intuitive Machines-2 Lunar Landing News Conference - YouTube
鳥嶋真也 とりしましんや
著者プロフィール 宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。 宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 この著者の記事一覧はこちら

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