産総研、衛星画像を用いて九州北部の斜面災害リスク地域の可視化に成功

2024年3月19日(火)18時0分 マイナビニュース

産業技術総合研究所(産総研)は3月18日、地球観測衛星「だいち2号」が取得した複数時期のマイクロ波を干渉させる「時系列干渉SAR(合成開口レーダー)」技術を用いた解析により、九州北部において過去7年間の微小な斜面の地形変動を捉え、斜面災害リスク地域を可視化することに成功したことを発表した。
また、地質・地形情報との統合解析により、九州北部の地域特有の高リスクな地質・地形素因を解明し、急斜面よりも、過去の地すべり堆積物により形成された緩斜面での地すべりの発生リスクが高いこと、地質構造の傾斜方向と一致する北西向きの斜面では、地すべりのリスクが相対的に高いことなどが明らかになったことも併せて発表された。
同成果は、産総研 地質調査総合センター(GSJ) 地質情報研究部門の水落裕樹主任研究員、同・宮崎一博招へい研究員、同・阿部朋弥主任研究員、同・川畑大作主任研究員、同・岩男弘毅研究部門付、同・松岡萌研究員、同・宮地良典副研究部門長、GSJ 活断層・火山研究部門の星住英夫テクニカルスタッフらの共同研究チームによるもの。詳細は、地形に関する全般を扱う学術誌「Geomorphology」に掲載された。
近年の気候変動や土地利用の変化により、斜面災害の激甚化・頻発化が懸念されている。斜面災害のリスク評価では、発生場所の条件(素因)の分析が重要とされており、現在、航空レーザー測量技術などが発展してきたことにより、地形的な条件については高精度な解析が可能となっている。ところが地質的な条件については、岩石の種類・年代・風化の度合い、地層の構造など、さまざまな要因が複雑に関与することから、斜面災害リスク評価に資する情報の整備・活用は十分に進んでいなかったという。
GSJでは、2020年の閣議決定および関連する経済産業省の「第3期知的基盤整備計画」を受け、「防災・減災のための高精度デジタル地質情報の整備事業」を2022年度から実施しており、今回の研究もその一環として、斜面災害に関わるリスク評価のための地質情報整備が実施されたものだ。特に、近年整備・蓄積が進んでいる時系列の地球観測衛星データを解析することで、斜面の変動や災害の履歴を広域で捉えるための研究が進められてきたとする。
今回は、複数時期のマイクロ波のデータを干渉させることで、地表面の微小な変位を捉える干渉SARの中でも、多数の時系列データを統計的に処理して長期の変動傾向を捉える「時系列干渉SAR」という技術を用いることにしたという。
時系列干渉SARは、統計処理によってさまざまなノイズを低減させ、マイクロ波の波長以下(cmスケール)の微細な長期変動を検知することが可能。そのため、近年は災害監視の目的で活用が進んでいる。同手法で得られた7年間(2014〜2021年)の斜面の長期変動マップを基にして判読や画像処理が行われ、変動の大きな地域が合計42地点抽出された。アクセス困難だった地域を除いて現地での調査も実施され、約6割の地点で実際に人工物の割れなどの変動の痕跡が確認できたとした。
さらに、抽出された42地点の変動の大きな地域の分布を、地質図や地形図と比較し、斜面災害のリスクとなる素因の分析を実施(地質図は、GSJが公表している20万分の1日本シームレス地質図を編集したものが用いられた)。その結果、変動の大きな地域は、従来、斜面災害リスクが高いと考えられてきた急傾斜の地域よりも、むしろ緩傾斜の地域に多く分布していることが判明したという。たとえ緩斜面の地域であっても、堆積岩と玄武岩の地質境界付近の上、過去の地すべりで堆積した玄武岩砕屑物からなる斜面の場合は、リスクが高いと考えられるとした。
この傾向は、過去の地すべり被害で報告されている今回の地域の特性(北松型地すべり)とも一致するため、得られた斜面変動マップは将来の地すべりの兆候を捉えている可能性があるという。また、地質構造の傾斜の向きと一致する北西向きの斜面でより多くの変動地域が発見されたとした。なお今回の分析には、1989年にGSJが実施した地質調査(5万分の1地質図幅「佐世保地域の地質」(松井ほか、1989))の情報が活用された。
従来の斜面災害リスク評価(急傾斜地崩壊危険区域など)は、主に傾斜などの地形要素に基づいて行われてきたという。しかし、今回実施された研究は、地質要素を考慮する重要性が示されているとした。同様の解析を全国の斜面災害リスク地域に拡大することで、国や自治体の防災・減災計画に貢献できるとしている。
今後はGSJ「防災・減災のための高精度デジタル地質情報整備事業」をさらに推し進め、調査地域の拡大、解析結果データの公開や、AIを活用した斜面災害リスク推計マップの作成と公開、地質災害時の斜面災害発生推計システムの高度化などに結びつけるとしている。

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