カレー沢薫の時流漂流 第346回 昔「知らない人にはついていかない」今「知らない電話には出ない」
2025年4月7日(月)22時30分 マイナビニュース
若者の多くが、電話を取る業務を苦手としているそうだ。
逆に得意な奴がいるのかという話であり、そもそも業務内容以前に「仕事は得意か」の時点で9割が脱落しているだろう。
そこからさらに電話が苦手じゃない奴を選抜しようと思ったら104期生よりも生き残らない。
ただ私の友人に、あのページに雑コラされても誰も気づかないような面構えをした者がおり、「接客業以外は無理」と強いことを言いながら大手音楽系小売業のお客様相談的仕事をしているのだが、今の若者はすぐ辞めてしまうという。
「若者は電話が苦手」というのは語弊があり、正確には「今の若者は電話機で電話を取った経験がない場合さえある」そうである。
うわぁ! 急に知らない人が話しかけてきたぁ! という自然な反応
聞いたことのない鳴き声を断続的に発する未知の物体にいきなり素手で触れというのは無理がある。しかも触った結果初手で「特典のクリアファイルに俺じゃなきゃ見逃す傷がついてるぞ」と、知らないおじさんやおばさんに噛みつかれる恐れまであるのだ。
こんなムツゴロウさんしか笑顔でこなせない仕事を新卒の若人にやれと言っても無理だろう。
しかし、罵詈雑言ではなく「相手が関西弁だった」というだけでショックを受けて辞める人もいるらしいので、昔よりも人々の電話の苦手化は進んでいるのかもしれない。
逆に言えば、電話対応というのはスキル以前に適正を要する難易度の高い仕事であり、できない奴は本当にできないのだ。
それを求人票には書いてなかったがオフィスに入って来たならやるのが当然、後々フォークリフトを運転してもらうことになるがとりあえず新人は電話取りからと、誰でもできる基本スキルのように扱うことに無理があり、逆に初手フォークリフトの方が離職率が下がるのではないかと思われる。
もはや電話対応は専門職としてできる人間がやっていった方がいいと思うが、何せ適性がある人間が少ないので、苦手だができなくもない人間や、ギリギリできるが精神に大きな負荷がかかり、電話を切ったあと3分のクールダウンと家に帰ってからの脳内大反省会が必要な人間もせざるを得ない、というのが現状だ。
意外にこれ知られてないんですが、スマホって電話なんですよね
しかし「電話専用機」という古代生物に接したことはなくても、スマホだって電話機能がついた板であり、そもそも「携帯電話」と呼ばれる代物だ。
若にとってスマホは物心ついた時から接してきた機器だし、むしろスマホを手放すことができない令和版ライナスの方が多数派だ。
ただ形状が違うというだけで、若だってスマホを使った電話経験は普通にあるだろうと思うが、最近の若は通話機能を滅多に使わないそうだ。
しかし逆に、LINEとかだとすぐにスクショされてしまうため、若は一周回って通話で要件を伝えるようになったという説もある。
どっちの説が正しいかは不明だが、これは老がどれだけ考えても答えがでない。
しかし老的にも、通話よりLINEの方が楽であり通話は滅多に使わない。ただ70以上の本老になってくるとメッセージよりも電話をかけてきがちだ。
しかし、現代人がスマホの電話を使わない、かかってきても取らないのは、ただ苦手だからではなく「詐欺電話」の恐れがあるため、知らない番号からの通知は無視するというのが一般化しつつあるからだ。
今の時代、わざわざ電話してくるのは詐欺師だけなのか
私も知らない番号の電話はまず出ない。
ちなみに出版社や担当の番号も登録しないので、かけてきたところで「知らない番号」として無視するので業務連絡はメールで行って欲しい。寝ている時間以外はスマホかパソコンを見ているので同じことだ。
もはや、何のためらいもなく出るのは実家からの電話のみになりつつある。
実家からの連絡は、家族の誰かが意識不明になったなど、本物の緊急連絡の可能性があるからだ。
間違って詐欺電話に出てしまった時は「こちらからかけなおす」が有効である。最近は発信番号すら本物に偽装してくる場合もあるようだが、コールバックすれば本物にかかるので問題ないという。
しかし、それも詐欺だと怪しまなければできないことであり、「知らない番号には出ない」以上の安全対策はない。だが、知らない番号からの電話が全て詐欺とは限らない。普通に知り合いからの着信かもしれないし、ガチ警察や消防からの「今あなたの家が燃えています」という超重要連絡の可能性もある。
携帯電話が普及したことで、どこにいても連絡が取れるようになったはずなのに、悪が蔓延ったせいでまた連絡が取りづらくなってしまったということだ。
悪貨が良貨を駆逐だが、もう貨幣じゃなくてキャッシュレスでいいじゃない
電話だけではなく、悪のせいで何もしていない人間が不自由を強いられるというのはよくある話である。
しかし、連絡手段も多様化しているので電話だけの連絡にこだわらなくてもいいとも思う。
むしろ電話という得意不得意がはっきり別れるような方法をデフォルト連絡手段にしてストレスを与えるのは得策ではなく、社員各自が最も楽にホウレンソウができるツールを使わせるべきだろう。
ちなみに電話が苦手な人間は聴覚情報処理能力が低い傾向にあるという説もあるのだが、そういう人間のことを「ならば視覚には強い」と思うのもやめたほうがいい。
凹があるなら凸があると思ってはいけない。世の中には、凹と平坦に近い凹、そしてブラジルまで貫通している凹しかない人間もいる。
そういう人間を叱責し努力させるより、便利なツールに凹埋めをさせて何とか働かせるのが合理化というものである。