慶大など、量子測定で理論的な限界である「ハイゼンベルグ限界」を達成

2025年5月8日(木)18時49分 マイナビニュース


慶應義塾大学(慶大)と東京大学(東大)の両者は5月7日、量子コンピュータ上で実現される量子状態に対し、多数の物理量を効率的かつ高精度に測定する「適応型量子アルゴリズム」を開発し、理論的な限界とされる「ハイゼンベルグ限界」の精度を達成すると同時に、計算時間や必要な量子ビット数についても大幅な改善を実現したことを共同で発表した。
同成果は、慶大大学院 理工学研究科の和田凱渡大学院生、慶大 理工学部 物理情報工学科の山本直樹教授、東大 素粒子物理国際研究センター(ICEPP)の吉岡信行准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する量子情報科学と技術を扱う学術誌「PRX Quantum」に掲載された。
量子コンピュータは、従来(古典)のコンピュータと比較して圧倒的な性能を実現できる可能性があるとして期待されている。しかし、計算結果を得るためには、量子状態から情報を読み出す最終工程であり、全体のパフォーマンスを左右するプロセスである「測定」が極めて重要だ。特にその測定により、多くの計算タスクにおける最終出力である、複数の物理量の「期待値」(ある量が平均的に取る値)を高精度に読み出すためには、従来の手法では計算時間や量子ビット数といった多くの量子リソースを必要とすることが課題だった。そこで研究チームは今回、量子リソースの効率的な配分と物理量の埋め込み手法を再設計することで測定精度を高め、量子ビット数の大幅な削減を同時に実現する、新たな量子アルゴリズムを提案した。
今回の研究では、多くの物理量に関する期待値を、高精度かつ効率的に読み出すため、量子回路を動的に更新する適応型アルゴリズム(測定結果などに応じて次の操作を柔軟に変えていく計算方法)が構築された。このアルゴリズムは、量子状態に埋め込まれた関数の変化率(微分)を効率よく測定する既存手法が基盤となっている。そして反復ステップを重ねるごとに、対象となる各物理量の期待値に生じる微小な変化をより正確に捉えることが可能だといい、この工夫により、使用する量子リソースの総量に対して非常に高い精度の測定が実現できたという。
またこのアルゴリズムでは、ターゲットとなる量子状態の準備に必要な量子回路の使用回数が、目標とする精度に対して逆比例の関係を示すことが確認された。これは、量子性を最大限に活用した場合に達成可能な理論限界である「ハイゼンベルグ限界」が達成されていることを示す。それはつまり、通常手法が達成する「標準量子限界」での逆二乗の関係と比較した場合、高精度測定で必要な量子リソースを大幅に削減できることを意味するとした。
さらにこのアルゴリズムは、従来よりも多数の(2乗ほど多くの)物理量を量子リソースの総量を増やすことなく測定できることにも成功。このアルゴリズムでは適応的な構造を採用したことで、測定精度の向上において追加で必要な量子ビット数も、従来手法と比べて5分の1程度(もしくはそれ以上)まで削減できることも示されたとする。
量子シミュレーションの可能性が示されて以降、現代では生み出された量子データから「どうやって物理的特性を効率的に取り出すか」という点が次の焦点となっている。今回の研究により、その回答として、シミュレートされた量子状態の多様な物理特性を極めて効率よく測定できる汎用的手法が実現された。その汎用性から、材料設計や創薬など、量子計算を活用するあらゆる分野でこのアルゴリズムは有効であり、誤り耐性量子計算の実用化を加速することが期待されるとしている。

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