地中の漏水を衛星データで探索 - 宇部市が取り組む夢の新技術への期待

2025年5月20日(火)6時1分 マイナビニュース


安心して使える水道の維持のため、これまで人が現地を歩いて1件ずつ膨大な労力をかけながら行っていた、老朽水道管の漏水調査。そんな骨の折れる作業を削減するため、人工衛星のデータを利用する動きが広がっている。2024年には、岸田前首相が愛知県豊田市で衛星データを用いた水道管の漏水調査を視察したことで話題になった。
漏水には、地上に水道水が噴出して明らかになるパターンと、知らない間に地中で漏れているパターンがある。明らかに水が漏れていれば地域から通報が寄せられるため、水道を管理する水道局側も緊急対応が可能だ。しかし、知らない間に漏れている地下漏水の検出は、水道の維持管理にとって大きな課題になっている。
山口県宇部市では、2022年度から宇宙航空研究開発機構(JAXA)の先進レーダ衛星「だいち2号(ALOS-2)」による取得データを活用した地下漏水調査の実証事業が始まった。地表から見えない地下のことが衛星からのデータでわかるなんて、まるで夢のようだ。地下の水道管の状態が本当に衛星データからわかるのか、そしてアスファルトで舗装された道路で技術を有効にするにはどうすればよいのか。ブラックボックスになりがちな衛星データによる漏水調査の現実について、担当者に聞いてきた。
○水道のインフラと収益を守る“漏水調査”の課題
水道事業には「有収率」という指標がある。これは、浄水場から供給された水のうち、利用者のメーターで計測され、実際に使われたことが確認された量の割合のこと。上水道の有収率は全国平均で89.8%、給水人口10〜20万人の都市では90.3%となっている(日本水道協会 令和4年度水道統計総論より)。裏を返すと、残りの水は有効に使われていないということになる。一般的に都市部のほうが水道設備の更新が進み、有収率は高い傾向にある。
人口約16万人弱の宇部市では、2022年度には91.9%と高かった有収率が、2023年度は87.74%、2024年度には88.7%(令和6年11月時点)と突然低下し、水道管の老朽化が進行していることが顕在化してきた。宇部市水道局は、目標である92%に再び戻そうと奮闘しているものの、漏水調査に莫大な時間やコストはかけられない。現実的に人員は減る一方で、収入は伸びず水道管の工事が難しくなる中で、水道料金をどんどん上げるわけにもいかない。
宇部市内の水道普及率は99.4%で、約7万2000戸・約15万5000人に上水道を供給している。古い水道管の中には1960年代に敷設されたものもあり、設備の老朽化に加えて車両による振動、荷重が漏水を引き起こす。また鉛管やビニール管など管種の違いも、漏水のしやすさに影響するという。
これまでの地下漏水調査は、音聴棒という専用器具などを使って、水道管の音を聴いて判断する調査方式を用いていた。センサ付きの漏水探知機もあるが、風音の影響を受けやすく漏水の発見には熟練を要する。また、鉛管は聞こえやすい、ビニール管は漏水音が伝わりにくいなど水道管の管種による違いもある。調査は安全に配慮して2人1組で行われ、地図を片手に市内を歩き回る地道な調査だった。
そこに登場したのが、衛星データを用いた漏水調査の手法だ。「これまでの漏水調査の方法は、人が現地を歩いて音聴棒や探知機を使って1箇所ずつ潰していくという、労力も日にちもかかる作業になるんです。衛星を活用した手法が実用化されれば、本当に素晴らしい技術で、漏水調査に関しては画期的なことになるんじゃないかな、と思って技術協力しています」(宇部市水道局 上水道整備課 漏水防止係 村田裕敏さん)。地下で起きる漏水がなぜ衛星データからわかるのか、その取り組みについて詳しく見ていきたい。
○衛星での漏水調査のカギは“地面の湿り”
国は、水道施設の維持や修繕にセンサ技術やドローン、ロボットカメラ、衛星リモートセンシングなどを取り入れた省力化を推奨している。衛星リモートセンシングを利用した事例は海外の技術が先行する中、リモート・センシング技術センター(RESTEC)が国産の技術開発に取り組み、実証を重ねて徐々に成果を挙げてきている。2022年には、RESTECが経済産業省補助事業としてASTRONETSと共に宇部市水道局の協力のもと技術開発を行い、2023年に福岡市をはじめ全国12市町で実証事業を、2024年には22市町での実証を行っている。福岡市が行った有識者などで構成される検討委員会での評価は「スクリーニングとして効果あり」というもので、漏水が起きている可能性が高い場所をある程度まで絞り込める段階になってきたという。
海外にも同様の技術が使用されている例があるが、サービス開発を主導するRESTECの奥村俊夫さんによれば、「もともとはマイクロ波が地下まで透過しやすい乾燥・半乾燥地帯に向いた技術」とのこと。湿潤でマイクロ波がほぼ地下に透過することのない日本において、表層近くの湿り気を検知する技術を開発できないか、というのが基本的な考え方だ。
水道局によって、水道管地図のデータ形式や求められる漏水の推定結果の図面形式が異なる中、ASTRONETSはアルゴリズム開発支援に加えて地域向けのカスタマイズを担当し、地域に密着した顧客対応を行うという。
解析の土台になるALOS-2は、合成開口レーダ(SAR)という種類の地球観測衛星だ。SARは、アンテナから照射したマイクロ波が地表で反射し、衛星のアンテナへ戻って来る信号の強度を測るという仕組みであり、地表が湿っているとマイクロ波の反射が強く、地表が乾燥しているとマイクロ波の反射強度は弱くなる特性がある。それを活かし、ALOS-2のデータから、雨が降っていないのに地表が湿っていれば、地中から水が染み出しているのではないかと推定できるというのが基本的な原理だ。
この方法では、衛星データで分析できるのは“地面が湿っているかどうか”ということ。その湿り気が水道水の漏水によるのか、水道水以外の水なのかといった区別はつけることができない。水道管漏水検知は、衛星データを10m四方で解析した湿った箇所に水道管地図を重ね合わせて、怪しいところを浮かび上がらせ、漏水が疑われる場所をヒートマップで表現するという仕組みになっている。これは漏水が疑われる場所を絞り込む技術であり、魔法のように漏水箇所を検出するわけではないとはいえ、10m四方という粒度はこの分野ではトップレベルの細かさだ。
「中山間地域と町中では、同じ面積でも探す手間がまったく違うんでですね。中山間地域ならば水道管が1〜2本しか通ってないのですぐ歩けるのですが、街中では格子状に通っていますので、探す手間はもう5〜10倍になります。なるべく絞り込んでいただいた方が見つけやすい、というのが正直なところです」(宇部市水道局 村田さん)というユーザーの希望にも、しっかりと寄り添った粒度が実現されている。

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