メタバース2025 〜ブームの後に見えた本当の価値〜 第3回 ゼロから始めるメタバースプロジェクト:成功する企業の共通点

2025年5月29日(木)11時0分 マイナビニュース


メタバースのビジネス活用は、まだまだ先例が少ないフロンティアだ。ゆえに、成功へ導く上で参照すべきリファレンスも少ない。しかし、確実に押さえておくべきポイントはすでに存在する。本記事では、さまざまな企業のメタバース参入支援を手掛けてきた中で見えてきた、ゼロからメタバース事業を成功に導くために重要なポイントを紹介していく。
メタバース施策がうまくいく企業の3つの共通点
まず、メタバース事業をうまく推進できている企業には、明確な共通点がある。
1つ目は、「人のいるメタバース」に参入していることだ。うまくいかないメタバース事業を紐解くと、自前で新しいメタバースプラットフォームをつくるか、人がいないプラットフォーム上で空間を制作し、そこで事業を展開していることが多い。
新規プラットフォームに多くの人を呼び込むのは、完全新規のゲームタイトルでスマッシュヒットを狙うのとほぼ同義である。なにもない山奥に作ったリゾートホテルに客を呼び込むのは至難の業であることは、容易に想像できるはずだ。しっかりとユーザーが定着し、毎日のようににぎわっているプラットフォームを参入先に選ぶのは、必須条件と言っても過言ではない。
2つ目は、参入先のプラットフォームの理解度が高いことだ。どんな属性のユーザーがいて、どんな遊び方をしていて、どんなコンテンツが人気なのか……当たり前のような話に聞こえるが、事業参入にあたってはプラットフォーム選定と同じくらい重要なことだ。
とりわけ、しっかりとした成果を出している企業では、参入プラットフォームのネイティブユーザーがチームに所属していることがほとんどである。企業の代表がヘビーユーザーであることもめずらしくない。
このため、プラットフォームの特性を肌感覚で理解するために、事業参入前のフェーズに、実際にそのプラットフォームへ一個人として遊びに行くことをおすすめしたい。もちろん、事業を軌道に乗せた先達へ話を聞きにいくのもよい。
3つ目は、「メタバースありき」な事業を考えないことだ。ただメタバースを用いることだけを重視しすぎると、メタバースを採用する必然性がぼやけ、中途半端な施策に陥りやすい。
最も成功にたどり着きやすい事業は、「既存のソリューションより効率的だから」といった理由が敷かれているものだ。単なる話題性だけでなく、メタバースが採用されるべき本質的な理由をしっかりと考えることが、成功への着実な一歩となる。
KPIについても、定性的な面だけでなく、初期段階でも測定可能な定量的な数値についても検討し、初期は測定しにくい数値(事業であれば売上や利益、プロモーション活用であれば効果測定)についても考えていくことが大切だ。
適切な事業参入のフェーズと施策を理解する
事業参入の具体的なステップもご紹介しよう。この画像は、弊社の資料にも掲載している「メタバース参入ジャーニーマップ」だ。
まずは、事業参入前のフェーズについて。事業内容の検討はもちろんのこと、そのためのリサーチも重要だ。先程も述べた通り、一ユーザーとしてプラットフォームで遊び、そこで出会ったユーザーの声を直接聞き取るのも有効な方法の一つである。いずれにせよ、「メタバースありき」ではない事業を考えるために、参入前のフェーズはしっかりと行うのが望ましい。
そして、初期フェーズとして、具体的な最初の施策が実施される。その内容も、イベントの開催、ワールドなどの公開コンテンツの制作、アバターやファッションアイテムの制作販売、Discordサーバー運用など、多岐に渡る。どの施策が最初の施策として最も効果的かは企業によって異なるため、事前検討やリサーチが欠かせない理由はここにある。
初期フェーズで事業がストップするケースは多い。その背景の多くは、先ほどのロードマップを事前に引いていないことに起因する「ネクストアクションが見えていない」状態にある。
事業継続やプロモーション効果の最大化において重要なのは、イベント開催後の持続的なコミュニティ形成や公開されたワールドの運用、販売アイテムのプロモーションなどを通した、その会社独自の持続可能なコミュニティ形成や収益の基盤づくりだ。
初手の施策実施前からこれらを見据えて実施することでその後の展開がしやすい。もちろん、初期施策の実施前の仮説と実数値や反応が異なる場合もあったり、実施前は想像していなかったポイントに反響が集まったりすることもあるため、その結果を持って次の展開につなげていくことになる。
その後は、拡大フェーズへと移行する。商品の販売売上や、ユーザー数の拡大においてVtuberなどのインフルエンサーの起用やコミュニティと連動した施策が効果的になるのはこのタイミングであることが多い。
根強い「現地のファン」の支えがあってこそ、著名人の拡散力に説得力が生まれる。また、意外かもしれないが、メタバースユーザーにはオフラインコミュニケーションの欲求も強く、特に『VRChat』ユーザーはオフ会が盛んなため、オフラインイベントの開催も効果的な施策だ。
このように、事業フェーズごとに取るべきアクションは明確に異なる。自社のメタバース事業がどのフェーズにあるかを常に意識しながら、次の一手を模索していくこともまた、事業を軌道に乗せる上で重要だ。
「メタバースのほうが優れている」をどれだけ見つけられるか
より具体的な成功要因の分析のため、弊社で取り組んだ『VRChat』向け事業をいくつか紹介させていただく。
まず取り上げたいのは、2024年6月に公開した初心者向けワールド「VRC-JP 初心者プラザ(以下、ジェイプラ)」だ。ジェイプラは、日本人ユーザー向けに、基本的な操作内容を説明しつつ、初心者にもおすすめのワールドやサンプルアバターを紹介する、チュートリアル機能を備えたワールドだ。
このワールドの最初のコンセプトは、『VRChat』を始めたばかりのユーザーが、とりあえず訪れるオンボーディングワールドだ。というのも、友達が新たに『VRChat』を始めた際、その友達を最初に連れていける場所が必要だと考えていたからだ。
当然、そのようなワールドには初心者向けのガイドが設置されており、さらに最初に選ぶアバターの見本や、おすすめのワールドの入口も集約されているとわかりやすいはずだ。そして、「初心者がとりあえず訪れる場所」の中で継続的なコミュニティが形成され、まるでそこに住民がいるような世界観を構築できれば、自ずと継続的に人がやってくる——という仮説を立てた。
結果、ジェイプラはまったくゼロの状態から半年で20万人を超えるワールドへと成長し、著名な配信者の利用にもつながるなど、日本コミュニティ内で「新しい初心者向けワールド」として定着しつつある。
特に、アクセス数は現在に至るまで右肩上がりで成長を続けており、一過性の話題で終わらない施策になったことがわかる。ワールド公開からのコミュニティ化の事例として、ある程度の再現性を担保できるものとして紹介したい。
また、弊社は『VRChat』対応アバター向けのオリジナルバーチャルファッションブランド・ショップを複数展開しているが、その中のひとつで直近ではクオリティと販売戦略をしっかりと両立させたことで、発売後半日で原価コストを回収し、2週間で原価コストの5倍の利益を生み出すヒット商品が誕生した。
現在もこの商品は売れ続けており、自社toC向け事業における大きな成果となった。同時に、品質はもちろん、顧客需要の理解も重要になると証明された一例だ。
またビジネスシーンの事例として、100万アクセスを達成した人気ワールド「NAGiSA」を活用した採用パッケージ「NAGiSAスーパーカジュアル面談」を挙げる。
「NAGiSA」は、VTuberのエンジンかずみ氏が開発した、5分間隔のローテーションでさまざまなユーザーと会話ができるコミュニケーションワールドだ。
これをカスタマイズすることで、全国どこにいても参加でき、普段のアバター・名義で参加できることで「ユーザーの生活圏にきちんと企業側がアプローチしてくれた」という体験が心理的ハードルを下げた、より有意義な企業と求職者のマッチングの場になるという仮説のもと立案した次第だ。
そして、GMOペパボでトライアル開催したところ、応募倍率は7倍にものぼり、70人もの応募が殺到した。開催後には本選考へ進み、実際に採用に至った方も現れた。仮説の通り、メタバース上でのコミュニケーションとカジュアル面談が、見事な相乗効果を生み出した形だ。
いずれの事例も、「メタバースありき」で発想されたものではなく、既存のソリューションよりも、メタバースで取り組む方が単純にソリューションとして優れている要素がどれだけあるかを発見できたかが、成功のカギだ。
ジェイプラは「初心者がとりあえず訪れる場所」のコミュニティ化、自社のバーチャルブランドでは「在庫を抱えることなく、リアルの衣服よりも販売期間が長く売れるファッション」の収益性の高さ、「NAGiSAスーパーカジュアル面談」は上述の通り、メタバースで生活する先端的な学生やエンジニアへアプローチできることと、既存のユーザーシステムと採用面談という仕組みの相性の良さが、大きなファクターだ。
そして、うまくいかないメタバース事業は、メタバースによって既存のソリューションからどこか便利になったのかを、担当者自身も整理できていないことがほとんどなのだ。
著者 株式会社V 代表取締役 藤原光汰
AIレシピ提案アプリを開発するスタートアップを共同創業。その後、株式会社バンクに入社。即時買取アプリ「CASH」と後払い旅行サービス「TRAVEL Now」の立ち上げを担当したのち独立。2019年に株式会社Vを創業後、複数のコンシューマー向けサービスを開発。人気ゲームタイトルでアジア最大ユーザー数のコミュニティを運営。

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