IBMとHashiCorpが再定義する、AI時代のハイブリッド運用モデルとは
2025年5月30日(金)8時0分 マイナビニュース
米ボストンで5月6日〜7日に年次カンファレンス「Think 2025」を開催したIBM。本稿では6日に行われた「AI and automation in a hybrid world: What’s the rush?」(ハイブリッド世界におけるAIと自動化:何を急ぐのか?)と題した、IBM Senior Vice President, Software and Chief Commercial OfficerのRob Thomas氏らによる講演を紹介する。
AI時代のインフラとアーキテクチャが迎える“相転移”とは
冒頭、Thomas氏は「昨今、ハイブリッドクラウド、AI、データ、量子コンピューティング--。これらすべてが、ビジネスとテクノロジーにおける『相転移』とも言える変化をもたらしています。過去にも技術革新はありましたが、今ほど劇的ではありません。少し過去を振り返ってみましょう」と促した。
同氏によると、クラウドの登場は現代のエンタープライズテクノロジーにおける最初の“ラッシュ”であり、現在では企業の94%がクラウドを導入しているが、ROI(投資対効果)は約20%とやや不確かだという。
Thomas氏は「それはハイブリッドアーキテクチャが欠けていたからです。ハイブリッドアーキテクチャの俊敏性と精度を取り入れた瞬間、システムは調和のとれた動きに変わります。AIについても同じです。予測分析、機械学習、データサイエンス、そして現在の生成AIまで導入は進んでいますが、価値創出はまだ不安定です。良いときもあれば、そうでないときもある。AIは“達成”するものではなく、ビジネスに価値をもたらす手段なのです」との見解を示す。
また、同氏はドメイン特化型モデル、自社データで訓練されたモデル、小型言語モデルなどを導入することで、ようやく価値の爆発的増加が見えてくるとも語る。2028年には10億のアプリケーションが生成AIを基盤に構築されると予測されているが、その“居場所”が必要となっており、互いにシームレスに連携して対話し、これまでにないレベルの統合と自動化が求められているとのことだ。
そして、AIの価値を見出すために多くの企業が“実験”を行い、次に取り組んだものがRAG(Retrieval Augmented Generation:検索拡張生成)だ。ただ、同氏の見立てによるとRAGの成果もまだ不確かであり、多くのチャンク化(分割処理)や手作業が必要なことから、思ったような結果が出ないこともあるとのこと。しかし、ブレイクスルーが起きたのは、テクノロジーと運用に自動化を取り入れたときであり、そこからAIによる価値創出が本格的に始まったという。
AIによる価値創出の鍵は「データ」
では、AIで価値を生み出すには何が最大の鍵になるのだろうか?この点についてThomas氏は明確に「データ」だと話す。
同氏は「データこそがAIの力を解き放つのです。顧客体験の向上、コスト最適化、レジリエンス(回復力)の強化、ライフサイクル管理など、あらゆる価値創出の機会が皆さんの手の中にあります。ただし、その価値を引き出すには、テクノロジーの活用が不可欠です。AIファーストな企業になるためには価値創出のカーブをスケールさせる戦略的な取り組みが必要です。競合が先に実現すれば差が生まれ、逆に先行すれば大きなリードを得られます。では、どこから始めるべきか?」と、オーディエンスに問いかけた。
AIによる価値創出を進める第一歩として、まず“ハイブリッドインフラ”の整備が不可欠であり、オンプレミス、プライベートクラウド、データセンター、パブリッククラウド、エッジなどあらゆる環境を横断するハイブリッドインフラこそ、AIによる価値創出の“道”になるという。そのため、Thomas氏は以下の3つの要素から構成される「ハイブリッド運用モデル」の構築を提唱している。
ハイブリッドなインフラ
ハイブリッドなミドルウェアとデータに関する戦略
ハイブリッドな自動化とインサイト
これらの領域に対して、企業は意図的かつ戦略的なアプローチを取る必要があるとのこと。同氏は「価値創出のスピードが競争優位を決定付けます。そのため、IBMはRed Hat、TurbonomicやApptioなどの企業を買収し、ITの運用を自律的に運用する『IBM Concert』や『IBM watsonx Orchestrate』を開発しています。そして、ハイブリッドな自動化の最良の例がHashiCorpです」と説く。
IBMによるHashiCorp買収がもたらす運用モデルを再構築
IBMでは昨年4月に約1兆円でHashiCorpの買収を発表。HashiCorpの「Hashi」は文字通り日本語の「橋」を意味し、同社のビジョンは現在のテクノロジーとマルチクラウドの世界をつなぐ橋になることだ。製品群は、インフラのプロビジョニングやセキュリティ、ネットワーク、ランタイム管理において、業界で広く使われている。
HashiCorpの買収でIBMはオンプレミス、複数のクラウド、エッジ環境をまたいで、一貫したポリシーと自動化を実現できる力を手に入れたと言っても過言ではない。同氏は「これは単なる製品の統合ではありません。運用モデルそのものの再構築です」と断言する。
Red Hat、Turbonomic、Apptio、HashiCorpの製品群を組み合わせることで、インフラからアプリケーション、コスト管理、セキュリティまでを一気通貫で最適化できるようになる。これに加えて、AIエージェントなどを構築・運用するwatsonx Orchestrate、watsonx Code AssistantといったAIのツール群が運用をインテリジェントに自動化するという。
同氏は「これにより、企業は少ないリソースで多くの価値を生み出すことが可能になります。私たちは今、AI、ハイブリッドクラウド、自動化、量子コンピューティングといった複数の技術が交差する、かつてない時代にいます。そして、これらの技術をどう組み合わせ、どう活用するのかが企業の未来を左右するのです」と述べている。
HashiCorpが推進するハイブリッド自動化の進化
そして、Thomas氏の紹介で登壇したのはHashiCorp Co-Founder and CTOのArmon Dadgar氏だ。
同氏は開口一番に「マルチクラウド時代へと進んでいくことを前提に、ハイブリッドインフラがデフォルトになると考えています。それを支えるには、自動化のレイヤが不可欠なのです」と話す。
しかし、現実の企業環境を見てみると、そこには多くの課題があると指摘。同社はグローバル規模で数千社の企業に製品を提供しているが、チームやツールが断片化しているという。
断片化の問題が引き起こすこととして、「スピードの低下」「セキュリティの脆弱性」「コストの増大」の3点を挙げている。
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