宇宙から飛来する最高エネルギー宇宙線の正体は重い原子核の可能性、東大などが推定

2024年7月2日(火)15時21分 マイナビニュース

東京大学(東大)宇宙線研究所の荻尾彰一 教授らが参加するTelescope Array(TA)国際共同研究グループは、宇宙の物質構造をなす銀河から最高エネルギー宇宙線が発生すると仮定した場合、陽子ではなく電荷をもった重い原子核が宇宙磁場によって曲げられて地球に到来することが可能となるとの研究成果を発表した。
Telescope Array(TA)実験は、2008年より米国ユタ州に設置されたTelescope Array(TA)宇宙線望遠鏡を活用して宇宙線の観測を行う日本、米国、ロシア、韓国、ベルギー、チェコ、スロベニア、ポーランド、台湾の9か国・地域から32研究機関、142人の研究者が参画する国際研究。日本からも、荻尾教授のほか、東大 宇宙線研究所から﨏隆志 准教授や佐川宏行 特任研究員が参加しているほか、大阪公立大学 大学院理学研究科の常定芳基 教授、藤井俊博 准教授、大阪電気通信大学 工学部基礎理工学科の多米田裕一郎 准教授、神奈川大学 工学部応用物理学科の有働慈治 教授、池田大輔 特別助教、信州大学 工学部電子情報システム工学科/航空宇宙システム研究拠点の冨田孝幸 助教、理化学研究所 開拓研究本部の木戸英治 研究員らが参加している。今回の詳細はそうしたTA国際共同研究グループによるものとして、「Physical Review Letters」に掲載された。
2つの手法で地球に飛来する宇宙線を観測
宇宙から地球に降り注いでいる高エネルギー粒子(宇宙線)には、非常に高いエネルギーの宇宙線(最高エネルギー宇宙線)が稀に存在していることが知られており、どこから飛んできたのか、その起源の天体はどのようなタイプのものであるのか、などは銀河間空間の磁場の強さや向き(宇宙磁場)がランダムであることなどを理由に、まだ良く分かっていないという。
地球上でこうした高エネルギーの宇宙線を観測する手法としては、宇宙線が地球上空から大気に触れた際に発生させる多数の荷電粒子(空気シャワー)を生じさせる現象を活用して、地上に落ちてきた空気シャワー粒子を捕まえる「地表粒子検出」とカメラを使って、大気の発光を検出する「大気蛍光検出」の2つがよく用いられており、TA実験でもこの2つの仕組みを組み合わせて観測が行われてきた。
これまで今回の成果を発表した研究グループでは、主にTA実験の観測地の3カ所に設置された口径3mの大気蛍光望遠鏡38台を活用して観測を実施。これまでに宇宙線の到来数がエネルギー量が増加すると減少していくことや、最高エネルギー宇宙線はある方向から集中して飛んでくるホットスポットがあること、223EeVという観測史上2番目の極高エネルギー宇宙線「アマテラス粒子」を検出するなどの成果をあげてきた。
しかし、大気蛍光法の場合、晴天の夜、かつ月が出ていない時期という制約があり、観測統計量は地表検出器法の約10%程度と少なかったことから、低いエネルギー量の場合、その組成は陽子やヘリウムのような軽い原子核であることまでは分かったものの、エネルギー量が高くなり、10EeVを超すレベルになると、判別が難しいという課題があったという。
地表検出器法のデータを活用して元素核の決定に挑戦
そこで今回の研究では観測頻度が高い地表検出器による14年間の観測で蓄積された観測データを活用して、元素核の決定に挑むことにしたとする。具体的には、宇宙線源の分布を近傍の銀河分布と同じ、この場合は2MASSカタログの250Mpc(パーセク)以内の銀河の分布に従うと仮定(ある一定程度の距離に超銀河団があり、全体で宇宙大規模構造に従っていると仮定)した上で、宇宙線を検出した際にその源がどの程度ぼやけて見えるのかを広がり角θ(シータ)100で表現して仮定。θ100の値を変えていく到来方向の分布の予測と、実際の観測による到来方向分布を比較して、もっとも一致するθ100を選別する作業を実施。また、源の分布は同じと仮定しながら、磁場分布を仮定する場合や電荷を仮定する場合についても宇宙線を飛ばして伝播する疑似データを作り、その疑似データとθ100が一致する値の探索も実施し、実際のデータと疑似データそれぞれに最適なθ100を導き出したという。
その結果、銀河間磁場が無視できるほど小さいと仮定した場合、100EeV以上の最高エネルギー宇宙線データはいくつかの重い組成モデルがθ100=200°という結果を示し、これは鉄程度に重い原子核に相当する電荷を有していることを意味すると研究グループでは説明する。
また、研究グループでは、もし100EeV以上の最高エネルギー宇宙線が重い原子核であるとすると、起源天体の組成や宇宙線の加速機構を反映したものであると考えられることから、精密な組成比を求めることができれば、その起源解明のヒントになる可能性があると指摘。陽子の場合、宇宙空間を伝わってくる間に、エネルギーを消失してしまうというモデルがあるが、重い原子核の場合はそうではない可能性があり、源での加速限界を表している可能性があるとするほか、ニュートリノやガンマ線に対する期待値が減ることとなるため、荷電粒子を対象とした観測の重要性が増すことになるとしている。
ただし、今回のデータ解析は、重要な仮定として起源天体の分布が宇宙大規模構造に従ったものであるため、その仮定が間違っている可能性なども検討する必要があるともしている。
なお、今後については観測イベントを増やすべく、現在のTA実験の観測エリアの南北に検出器の増設を進め、地表検出器をさらに500台追加の全体1000台とし、検出面積を従来の4倍となる3000km2とする「TA×4計画」が進められており、2019年より一部が完成し、稼働が行われているとするほか、イベントごとに個別の粒子種決定も行っていきたいとしており、すでに大阪公立大の研究チームが2値分類DNNモデルを用いて陽子か鉄かを判定するAIモデルの開発を進めるなど、複数の研究チームがAIを活用した分類判定モデルの開発を進めているとのことで、こうした分類ができるようになると、その粒子がどこから来たのかをピンポイントで決めることができるようになるとのことで、そうした取り組みを進めることで、宇宙の極高エネルギー現象との関連性の解明などにつなげていきたいとしている。

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