“エリート”ではなかった三笘薫 「ドリブルは上手かった男」はいかに世界屈指のタレントへ変化を遂げたのか

2024年1月4日(木)6時0分 ココカラネクスト

いまや日本サッカー界の“顔”とも言える三笘。世界にその名を轟かせる男の源流を辿る。(C)Getty Images

 今オフにドジャースと10年総額7億ドル(約1015億円)の巨額契約を締結した大谷翔平。日常的に話題を提供する彼の存在感によって、野球界は大きな盛り上がりを見せている。

 では、サッカー界に実績や人気、知名度で二刀流スターに匹敵する選手は誰か。さすがに彼ほどとまでは言えないまでも、三笘薫(ブライトン)はいま、日本サッカー界で最も”お茶の間に浸透している”選手ではないだろうか。

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 20年に入団した川崎フロンターレで1年目から主戦として活躍。21年8月にベルギーへ渡った(1年目はブライトンからのレンタル)頃は”サッカーファンの中では有名人”という域を出なかったが、ここ1年間で三笘の名は飛躍的に知れ渡った。カタール・ワールドカップでは『三笘の1ミリ』が話題になり、彼がプレーするプレミアリーグでは世界屈指のDFたちを手玉に取るドリブルを披露。華麗なパフォーマンスで得点に絡む三笘は、いまや名実ともに日本サッカー界を代表する選手と言って良い。

 しかし、もともと三笘は突き抜けたエリート選手ではなかった。結論から言えば、彼は大学で一気に伸びた選手だった。

 小学生から高校生まで川崎の育成組織に在籍していた三笘は、もともと秀でたドリブルのスキルは持っていた。当時、指導を行っていた森一哉氏(現南葛SC U-18監督兼アカデミーダイレクター)が語った言葉がとても印象的である。

「薫は逆を取るのが昔から上手かったですね。たぶん、人に見えないものが見えているんですよね。例えば、ちょっとした重心の移動が見えて『もうこっちには動けないな』と判断してそこに入っていく、みたいな。敵が次にどう動くかの身体の動きと、おそらく心も見えているのかもしれないですね。だから先が読めて、スルスルスルっといける」

“足技を見せてゆさぶって抜きに行く”のではなく“逆を取る”のが三笘のドリブルだ。ユース年代でも逆を取る能力は突出していた。しかし、前述したように誰がどう見てもスーパーな選手だったかと言われると、首を立てに振れなかったのも事実だ。上手いが、強さや怖さがまだ足りない。そういう印象だった。

 その不足部分を補えたのが、筑波大学時代だと、筆者は考える。

「僕はこう見えて繊細なので(笑)。色々とけっこうこだわります」

筑波大学時代の三笘は、心身ともに大きく伸びた。その要因は本人のメンタリティーにもあった。(C)Getty Images

「薫の凄いところはスキル、ボールを扱うところもそうだけど、相手が“分かってても抜かれる”ドリブル。DFからすると止まっていたら仕掛けられるし、突っ込んだらかわされる。相手を見て自分の身体を変えられるところですよね。一言でどんな能力かと言われると、『相手と逆を取り続けられること』になると思うんですよね」

 筑波大学で三笘を4年も指導した小井土正亮監督は、こう評す。

 さらに水戸ホーリーホックで現役時代を過ごした指揮官は、「ドリブルはJ1でも通用する」とも語っていた。ただ、当時に課題となっていたのは、「守備」と「耐久性」だった。

 好きな攻撃は積極果敢にするが、それも90分は持たない。さらに三笘は組織として求められる守備でハードワークができなかった。そこは小井土監督も口を酸っぱく本人に伝えた。その結果、徐々に課題は改善されていった。

「守備はできなかったのができるようになったっていうレベルですけど(笑)、伸びたところで言うとやっぱり、身体のところですね。上手いけど90分持たなかったり、ちょっと当たられてしまったらへなって転んでしまったり。それが改善されたかなと思います」

 そう振り返る三笘は1年時からトップチームに名を連ねていたが、当時はジョーカー的な起用が多かった。しかし、徐々にタフさとプレー強度を備え始めると、先発での出場機会が増加。試合終盤でもドリブルで相手を揺さぶる場面も増えていった。

 彼が2年となった2017年の天皇杯2回戦のベガルタ仙台戦では2ゴールをマーク。その名を一気に轟かせたのは語り草である。

 関東大学サッカー1部はアマチュアレベルでは最高峰であり、一発勝負ならJ2、J1のチームに対してアップセットを起こすこともしばしばだ。プロ予備軍も多い。そのなかで揉まれ、かつ件の天皇杯の舞台でプロ相手でも通用するという成功体験が、三笘を大きく成長させたのは間違いない。

 また、大学時代には自ら栄養面や休養面について学び、実践する日々を送っていたのも大きいと言える。親元を離れ一人暮らしとなり、コンディションは自らの意識で整えなければいけなくなった。しかし、彼はプロ入りという目標のために自らを律していた。

「僕はこう見えて繊細なので(笑)。色々とけっこうこだわりますね。試合前日はあんまり動かないようにするというか、身体を休めることに集中する感じで、いつもの場所で晩御飯を食べたりとか、ルーティンを守るようにしています」

 チームメイトをはじめ、三笘の周辺人物は彼の真面目さ、ストイックさについてしばしば言及する。プロ入り前では最後の準備期間である大学サッカーの舞台で、心身ともに鍛え上げた結果として、今の活躍があるのだ。

[取材・文/竹中玲央奈]

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