元Jリーガーも逮捕。大麻とサッカー選手の“切っても切れない関係”とは

2025年1月27日(月)18時0分 FOOTBALL TRIBE

フェアー・モービー 写真:Getty Images

1月24日に横浜税関は、2014-2015年に当時J3のSC相模原に在籍し、現在アメリカ2部(USLチャンピオンシップ)モントレー・ベイに所属するDFフェアー・モービー(30歳)を、関税法違反(輸入未遂)の疑いで横浜地検に告発した。


モービーはニューヨーク生まれでアメリカとスイスの二重国籍だが、父はスイス人、母は日本人で7歳の時に東京都東久留米市に移住。東京ヴェルディユースや、スイスのFCバーゼルU-21で経験を積み、2011年のFIFA U-17W杯ではアメリカ代表にも選出された。2013シーズン、出場はならなかったもののMLS(メジャーリーグサッカー)ポートランド・ティンバーズに加入し、翌2014シーズン当時J3のSC相模原に移籍。2シーズンで59試合3得点の成績を残すも2016年1月に退団。ベトナム1部(Vリーグ1)の名門ホアンアイン・ザライ(2016-2018)を経て、2022シーズンからモントレー・ベイで活躍していた。


告発容疑は、知人を共謀して2022年1月、米国から国際小包郵便物で大麻リキッド4本(計約2.8グラム)を輸入しようとしたとしている。モービーによる罪の認否は明らかにされていない。大麻リキッド4本はプラスチック製の制汗剤の容器1個に隠匿されていたが、同税関川崎外郵出張所の検査で発見された。同税関は自己使用目的だったとみて調べている。神奈川県警は今年1月、モービーを改正前の大麻取締法違反(輸入)の疑いで逮捕していた。


モービーはアメリカのチームに在籍していたものの、報道では「東京都三鷹市在住」とされており、アメリカとスイスの二重国籍ながらも拠点は日本だったとみられる。ここでは、大麻とサッカー選手の“切っても切れない関係”について考察したい。




オランダのコーヒーショップ 写真:Getty Images

「大麻は海外では合法」の勘違い


まず大前提として、大麻によって逮捕された容疑者が決まって口にする「大麻は海外では合法」などといった詭弁は全くのデタラメであることを強調しておきたい。国連による「麻薬単一条約」は、特定の医療目的以外での嗜好品としての使用を禁止し、ほぼ全ての国連加盟国がそれを批准しているからだ。


中国、シンガポール、イラン、サウジアラビアといった国においては麻薬売買や所持、使用は死刑に至る大罪だ。2010年の中国では、麻薬密輸の罪で日本人4人が死刑に処された。


例えばオランダでは「Coffee Shop(コーヒーショップ)」なる看板を出し、街中で堂々と営業している店に、観光客が喫茶店と勘違いして入ってみたら、スーツ姿のビジネスマンがスパスパと大麻を吸っては出ていくという驚きの光景が見られる。


この事実によって「オランダでは大麻は合法」と誤解されているが、非犯罪化はされていても合法ではない。コーヒーショップの営業も政府の厳重な管理下に置かれている。もちろん、大麻の店外への持ち出しや所持、大麻を吸った状態での自動車の運転などは違法だ。


50州のうち34州が医療目的での利用を、24州が娯楽目的での利用を合法化しているアメリカでも、連邦レベルでは違法。カナダやウルグアイ、タイといった嗜好目的での使用を一部合法化した国も一緒だ。


ジェイ・エマニュエル=トーマス(アーセナル所属時)写真:Getty Images

サッカー界の大麻に関する処分や議論


かつてアーセナル(2008)などでプレーしたFWジェイ・エマニュエル=トーマスは、昨2024年、タイから末端価格60万ポンド(約1億1,000万円)相当の大麻を密輸しようとした疑いで逮捕された。国境警備隊が、バンコクからの航空便でロンドンに到着した2つのスーツケースから、60キロもの大麻を発見したという。逮捕後トーマスは、当時所属していたスコットランド2部のグリノック・モートンから即刻解雇された。


その一方でカナダでは、2022年10月、カナダプレミアリーグ(CPL)のクラブに所属する選手から禁止薬物に指定されている大麻が検出されたものの、カナダスポーツ倫理センター(CCES)は同選手の大麻摂取が試合時ではなかったことで、1か月の資格停止処分とした。国によってその処分の重さもさまざまだということが分かる。


また、日本を含め56か国が加盟している国際プロフットボール選手協会(FIFPro)に属するオランダ人弁護士のウィル・ファンメーゲン氏が「大麻はドーピング検査対象から外すべき」と発言し、物議を醸している。世界反ドーピング機構(WADA)は、大麻に関する規則を緩めているが、同氏は以下のように主張している。


「大麻には、選手のパフォーマンスを向上させる物質は含まれていない。もちろん大麻の摂取を奨励するわけではないが、ドーピング物質のリストに含まれるべきではない。現在、若い選手にとって大麻は、アルコールと同じくらい接触機会が多いものだ。大麻は問題視され、アルコールは許される。大麻を吸引してもほとんど正常であるのに、犯罪者と見なされてしまう」


これに対し、ドーピングに関する専門家で、ドイツ、ニュルンベルクの生物医薬研究所の所長を務めるフリッツ・ゼルゲル教授は「あまりにもバカげている」と一蹴。ドイツ紙『ビルト』にコメントを寄せ「残念ながら薬物は若者の間に出回り続けている。確かに大麻吸引を黙認している国や米国の一部の州も存在するが、日常的な吸引は間違いなく脳に悪影響を及ぼす」と主張した。


さらに同教授は「大麻をドーピングリストから外すことで、何かの変化があるのだろうか?少なくともドイツでは、大麻の取引でさえ禁止されている。チームドクターが大麻を与えるとでも考えているのか。ファンメーゲン氏は少し自分の考えを見直したほうがいいのではないか」と批判している。


これまでブンデスリーガでは、2001年に当時ボルシア・ドルトムント所属の元ガーナ代表FWイブラヒム・タンコが、ドーピング検査で大麻陽性反応が検出され問題になった。2003年には、ブレーメンの元U-21ドイツ代表GKアレクサンダー・ヴァルケが、大麻の吸引により7か月の出場停止を受けている。ドイツでは大麻使用に対し、サッカー界だけでなく法的にも厳しい処罰が待っている。それが世界のスタンダードだ。




大麻 写真:Getty Images

学生スポーツ界にまで入り込んでいる理由は


そもそも、サッカー選手がなぜ大麻に手を染めてしまうのか。大麻の茎や種子から抽出される「カンナビジオール(CBD)」には、ストレス緩和やリラックス効果、抗炎症作用、骨の成長促進、抗菌作用、睡眠の改善効果があるといわれている。


一方、同じ大麻由来の成分「テトラヒドロカンナビノール(THC)」には、幻覚や息切れ、喉の渇きといった副作用や、長期間の摂取による依存性が高いとされている。いわゆる“キマってしまう”状態になってしまうのだ。


大麻で捕まるスポーツ選手はサッカーに限らず、ラグビーやアメフト、格闘技選手に多い。いずれもボディーコンタクトが多く、ケガと隣り合わせのスポーツだ。多少の痛みを常に抱えながらプレーを続けることを強いられ、そこから逃れるため大麻に手を出してしまうケースが多いのだろう。格闘技イベントK-1の元3階級王者である武尊氏も、2023年にCBDオイルブランドをプロデュースしている。


また、大麻は現在、学生スポーツ界にまで入り込んでいる。2021年、近畿大学サッカー部員7人が、SNSを通じて購入した大麻を複数回にわたり自宅で使った上で部員らにも広めて退学処分となり、チームも無期限活動休止となった。清水エスパルスにも所属(1992-1993)していた元日本代表GKの松井清隆監督は退任を勧告され、辞任に追い込まれた。同学生は「新型コロナで暇になり興味本位でやった」と語っていたという。


2023年には、日本大学アメフト部の寮内で覚せい剤と大麻が発見され、部員数名が逮捕。これを受け、歴史ある同部は廃部となった。


昨2024年には、関西学院大学アメフト部の選手1人がU-20日本代表のカナダ遠征の際に、大麻成分を含んでいるものを所持使用したとして無期限資格停止処分となった。日本アメリカンフットボール協会は、関学大アメフト部の所属選手全員に毛髪検査を求めたものの、関学大側がこれを拒否。この要求に不満の意味を込めて頭を剃り上げた選手については、無期限の活動停止処分が科された。


大麻によって緩和される上記のような成分は、いまやドラッグストアで買えるサプリメントで代用できる時代だ。にも関わらず、なぜリスク承知で大麻に手を出してしまうのか。そこには、大麻を吸う行為自体が“ファッション性”を帯びてきていることが挙げられるだろう。大麻を使った布で製作された服が若者向けに発売されたり、大麻使用の低年齢化がそれを裏付けている。


日本における大麻の取り扱いは今、非常に中途半端な状態だ。「賛否両論」という言葉がピタリと当てはまる。そして「賛」の意見も力を持ち始めている危険な兆候も見られる。あくまで違法薬物として厳罰化しなければ、ますます大麻は広まっていくことだろう。

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