惜しくも皇后杯準優勝の浦和。猶本光、安藤梢不在でも見せつけた組織力

2024年1月30日(火)18時0分 FOOTBALL TRIBE

塩越柚歩(左)柴田華絵(右)写真提供:WEリーグ

皇后杯JFA第45回全日本女子サッカー選手権大会の決勝戦が、1月27日に行われた。ヨドコウ桜スタジアム(大阪府大阪市)でのこの大一番で、三菱重工浦和レッズレディースとINAC神戸レオネッサが激突。45分ハーフの前後半を終えた時点で、スコアは1-1。15分ハーフの延長戦では得点が生まれず、勝敗はPK戦に委ねられた。


PK戦では浦和のGK池田咲紀子が神戸のMF成宮唯のシュートを防いだほか、神戸のGK山下杏也加も浦和のMF塩越柚歩のシュートをストップ。両軍とも5人中4人成功とここでも激戦となったが、後攻の浦和の7人目キッカーMF伊藤美紀のシュートが失敗に終わった瞬間、神戸の優勝が決まった(PK戦スコア6-5)。


ここでは今回の皇后杯決勝を振り返るとともに、神戸を苦しめた浦和の戦いぶりに焦点を当て論評する。




浦和レッズレディースvsINAC神戸レオネッサ、先発メンバー

浦和が突いた神戸の泣きどころ


浦和にとって不安材料だったのが、MF猶本光とFW安藤梢が1月20日の皇后杯準決勝(サンフレッチェ広島レジーナ戦)で負傷し、今回の決勝戦に間に合わなかったこと。攻守両面のクオリティー低下が懸念されたが、浦和はこの2選手を欠いたなかでも、基本布陣[3-1-4-2]の神戸とキックオフ直後から互角に渡り合った。


[4-2-3-1]の基本布陣で臨んだ浦和がまず突いたのは、神戸の3バックと中盤の底を務めたDF松原優菜の間。前半3分に浦和のMF塩越柚歩がこのスペースでボールを受けたことで、同クラブにチャンスが訪れた。


トップ下を務めた塩越がこの場面で味方DF石川璃音(センターバック)からのロングパスを受け、軽快なターンでボールを保持。最終ラインから飛び出した神戸のDF三宅史織とボールの間に自身の上半身や足を入れ込み、なおかつ三宅に当たり負けしなかった塩越の屈強なフィジカルが際立っていた。塩越のラストパスを受けたFW島田芽依が、サイドネットを揺らす惜しいシュートを放っている。


前半5分には神戸のMF北川ひかる(左ウイングバック)の背後で島田がボールを受けてポストプレーを担ったほか、同7分には浦和のFW清家貴子(右サイドハーフ)がタッチライン際から内側へ立ち位置を移し、神戸のアンカー松原の両脇のスペースを突く。浦和は試合序盤に、相手の布陣の泣きどころを的確に狙えていた。


浦和レッズレディース MF塩越柚歩 写真提供:WEリーグ

緻密な守備から生まれた先制ゴール


この試合で浦和が特に抜かりなく行えていたのは、前線からの連動した守備だ。


神戸が自陣から攻撃を組み立てようとするやいなや、浦和のFW島田とトップ下の塩越、及び伊藤と清家(両サイドハーフ)の計4人のうち3人が神戸の3バックの前に立ちはだかる。この4人のうち誰が最前線に立つかはその時々で変わっていたが、3対3の数的同数の状況を常に作り、神戸の3バックによるボール運びを妨害しようとする意図が窺えた。


浦和は神戸の3バックに、3対3の数的同数で対抗した(前線の選手配置は一例)

神戸の3バックに睨みをきかせたうえ、右サイドからの突破が持ち味の神戸DF守屋都弥(ウイングバック)を、左サイドバックとして出場した浦和MF水谷有希が捕捉。キックオフ直後から守屋に前を向かせない守備、いわゆる鋭い寄せを水谷が披露したことで、神戸のストロングポイントをひとつ消すことに成功した。


この浦和の緻密な守備が、前半19分に先制ゴールという形で実を結ぶ。3バックの右を務めた神戸DF土光真代が自陣でボールを保持したこの場面で、浦和の左サイドハーフ伊藤が土光からの縦パスのコースを遮断。自陣後方に降りてきた守屋への横パスを誘発した。


土光のパスを受けた守屋は、浦和の左サイドバック水谷のプレスを浴び、バックパスを選択。これにより神戸の自陣からのパス回しが停滞すると、浦和がここぞとばかりに守備の強度を高めた。


この直後に三宅の縦パスを受けた松原に対し、浦和のMF柴田華絵と塩越が寄せる。塩越のボール奪取から浦和の速攻が始まると、清家が敵陣ペナルティエリア右隅から上げたクロスが神戸DF竹重杏歌理に当たり、軌道が変わったことでゴールマウスに吸い込まれる。神戸のオウンゴールで浦和が先制した。




浦和レッズレディース MF柴田華絵 写真提供:WEリーグ

浦和に足りなかったビルドアップの工夫


1点リードで迎えた後半アディショナルタイム、浦和はゴール前の混戦から神戸のFW田中美南にシュートを放たれると、このボールが自陣ペナルティエリア内にいたDF石川の手に当たり、ハンドの反則をとられる。これにより神戸に与えられたPKをFW髙瀬愛実に物にされたことで、延長戦に持ち込まれてしまった。


浦和があと一歩のところで優勝を逃した最大の原因は、追加点を奪えなかったことだと筆者は考える。浦和の速攻は鋭く、サイド攻撃にも厚みがあったが、GKや2センターバックを起点とするパス回し(ビルドアップ)に難があった。


この試合では浦和の2センターバック、石川と高橋はなの両DFが自陣でボールを保持した際、柴田と角田楓佳の両MF(2ボランチ)のどちらかが神戸の2トップの間もしくは斜め後ろに立ち、パスコース作りに注力。ここに立っていた柴田や角田へ、2センターバックからパスが供給されればチャンスに繋がっていたであろう場面がいくつかあったが、特に前半はこの縦パスが少なかった。


ゆえに浦和のビルドアップのパターンが、しだいにセンターバックからサイドの選手への横パスに偏り、攻撃が単調になってしまった感が否めない。2023/24シーズンのWEリーグ第7節終了時点で、首位の神戸と勝ち点差1の2位につけている浦和が逆転優勝に向けて着手すべきは、この部分だろう。


皇后杯優勝を逃したとはいえ、猶本と安藤を欠いたなかでも統制のとれたサッカーを披露し、神戸を苦しめた点は称賛に値する。持ち前の組織力を更に磨き上げれば、今2023/24シーズンのWEリーグのタイトルを手中に収められるはずだ。

FOOTBALL TRIBE

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