レッドブルが本腰を入れたパリFCは、PSGを超える存在となれるか
2025年2月21日(金)18時30分 FOOTBALL TRIBE

今2024/25シーズン、フランスのリーグ・ドゥ(2部)で現時点3位につけるパリFC。昨2024年11月に超大口スポンサーがついて注目されている。レッドブル・グループと、フランスでナンバーワン、かつ世界でもトップクラスの財力を誇る大富豪のベルナール・アルノー氏を筆頭とするアルノー一族だ。
パリFCがリーグ・アン(1部)に昇格すれば、来2025/26シーズン30数年ぶりに「パリダービー」が復活することになる。しかもかつては同じクラブだった過去を持つパリ・サンジェルマン(PSG)との“兄弟対決”だ。金持ちクラブ同士の首都決戦はフランスサッカー界に新風を吹き込んでくれそうだ。
ここでは改めてパリFCの歴史を振り返り、大口スポンサーについて、ホームスタジアムについて、パリダービー実現への期待を込めてまとめてみよう。

PSGと同一クラブだったパリFC
パリFCの創立は1969年で、同都市の世界的ビッグクラブ、パリ・サンジェルマン(PSG)の1970年よりも早い。この2クラブは、1972年までは同一クラブであり、分裂したという歴史がある。
世界を代表する大都市のパリには、1960年代ラシン・パリ、レッドスターFC93、スタッド・フランセ、アスレチック・パリなどのクラブがあった。しかし、1969年には降格や解散などでリーグ・アン所属のクラブがなくなり、“花の都”パリに見合うサッカークラブがないことを残念な思いでいた政財界の大物が立ち上がり、創設されたクラブがパリFCだ。そして翌年にスタッド・サンジェルマンと合併してPSGとなった。
PSGは1971/72シーズンにリーグ・アン昇格を決めたものの、スタッド・サンジェルマンがパリ西部にある近郊都市のサンジェルマン・アン・レイを本拠地としていたことから、パリ市が資金援助を渋った。結果、クラブや選手がパリFCとして存続する一方、PSGはアマチュアクラブとして3部リーグから再スタート。袂を分つこととなった。
その後、PSGはパリ社交界や、フランスを代表する俳優のジャン=ポール・ベルモンドなどパリ出身の著名人の出資を受け急成長。クラブ分裂からおよそ10年後の1981/82シーズンにはクープ・ドゥ・フランス(フランス杯)で主要タイトル初獲得。1985/86シーズンにはリーグ・アンを初めて制した。
テレビ局の『Canal+』がPSGを買収し、元ブラジル代表MFライー、元フランス代表FWユーリ・ジョルカエフ、鹿島アントラーズでも活躍した元ブラジル代表MFレオナルド、元フランス代表FWニコラ・アネルカ、元ブラジル代表FWロナウジーニョといったビッグネームを次々と獲得。リーグ優勝8回に加え、1995/96シーズンにはUEFAカップウィナーズカップ(現在UEFAヨーロッパリーグに吸収)で優勝。
一躍欧州におけるビッグクラブの仲間入りを果たしたPSGは、2011年には、カタール投資庁の子会社「カタール・スポーツ・インベストメント」が買収し、世界トップクラスの資金力を誇っている。
一方、パリFCは1973年にリーグ・ドゥに降格。PSGに反比例するかのように凋落の一途を辿り、1983年にはクラブが再分割され、一時は5部にまで降格した。

レッドブル・グループとアルノー一族
2010年代になって少しずつ盛り返し、2017/18シーズンにはリーグ・ドゥにまで復帰したパリFC。昨年、大きな味方が現れる。その1つが、当時J3の大宮アルディージャを買収し、「RB大宮アルディージャ」と改称させ、2025シーズンのJ2においてJ1昇格の有力候補の1つに押し上げたレッドブル・グループだ。
さらに、PSGの中東資本を凌ぐ大口スポンサーとして、大富豪のベルナール・アルノー氏を筆頭とするアルノー一族がついた。アルノー一族は、ルイ・ヴィトン、クリスチャン・ディオール、モエ・エ・シャンドン、ヘネシーなど数々のラグジュアリーブランドを総括するLVMHグループのオーナーで、その総資産は日本円で34兆円を超えるといわれている。これは、テスラCEOのイーロン・マスク氏、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏、フェイスブック社(現Meta社)の創業者マーク・ザッカーバーグ氏をも超える天文学的数字だ。
かくして、アルノー一族のグループ企業アガシュ・スポーツが52.4%、レッドブル・グループが10.6%の株を取得し、アルノー一族がパリFCの筆頭株主となった。これまで筆頭オーナーだったピエール・フェラッチ会長も引き続き30%程度の株を保有しそのまま会長職を継続しているが、2026/27シーズン限りでの引退を公言していることから、いずれはベルナール・アルノー氏の息子のアントワーヌ・アルノー氏が会長に就任することが確実視されている。
ベルナール・アルノー氏は大のサッカー好きとして知られ、過去にはセリエAのミランの買収に乗り出したこともあったようだ。パリFCの実務に携わるのは息子のアントワーヌ氏で、彼はPSGのサポーターであることを公言している。

パリFCのホーム全試合無料開放
パリFCは市民により関心を持ってもらおうと、昨2023/24シーズンからホーム全試合を無料開放している。その甲斐あって、一昨シーズンの年間平均4,000人から今2024/25シーズンは倍以上の8,800人と、リーグ・ドゥの中でも5番目に多い観客を集めている。昨シーズン2部にいた古豪のサンテティエンヌとの一戦では、約2万人収容のスタンドが満員となったようだ。
パリ市の南地区にあるホームスタジアムのスタッド・シャルレッティは、過去になでしこジャパン(サッカー日本女子代表)がフランス女子代表とフレンドリーマッチを行ったことがある。PSGの女子チームも以前はここを本拠地にしていた。
地下鉄の駅近くにありアクセスはいいのだが、惜しむらくはフランスでも珍しい陸上トラック付きのスタジアムである点だ。レッドブル・グループの総合ディレクターに就任したユルゲン・クロップ氏が視察に訪れた際には、「こんなに離れたところからサッカーを見たのは、テレビ観戦した時以来だ」とジョークで皮肉ったという。
パリFCもこのスタジアムではリーグ・アンに相応しくないと感じているようで、パリを本拠地とするプロラグビークラブ、スタッド・フランセの本拠地であるスタッド・ジャン・ブーアンをホームスタジアムにすることを狙っていると言われている。しかし、スタジアム使用に絡むスケジュール面や、芝を人工芝からハイブリッド芝に張り替える必要があるなど課題も多く、話し合いは難航しているようだ。
さらに同スタッド・ジャン・ブーアンは、PSGのホームスタジアムであるパルク・デ・プランスのすぐ隣で、PSGのオフィシャルストアもジャン・ブーアンの建物内にある。ライバルクラブのショップが本拠地にあることを許すわけにもいかない事情もあり、この辺りの調整も必要となるだろう。

パリダービーに期待
周辺都市を含めると約6,300万人もの人口を誇るパリ。これはロンドンの約6,200万人、ローマの約6,100万人に匹敵する数字であり、これまでダービーマッチが存在しなかったのが不思議なほどだ。
これまでフランスでのダービーマッチと言えば、PSG対オリンピック・マルセイユの「ル・クラスィク(フランスダービー)」だった。ル・クラスィクがフランス南北の“都市対抗戦”の色が濃い一方、パリFCがPSG並みの実力を付けた暁には、パリジャンたちを二分する真の意味での熱いダービーマッチが期待できる。
アルノー一族という超大富豪と、レッドブル・グループがタッグを組んで、フランスサッカー界に革命を起こそうとしているパリFC。数年後には欧州のサッカー界に君臨し、チャンピオンズリーグ(CL)の常連になっているかもしれない。それだけのポテンシャルを秘めているだけに、今季のリーグ・ドゥの順位表も注意深くウォッチする必要がありそうだ。