大谷翔平の“100盗塁計画”!? ドジャースコーチも証言 打者専念で生じた試行錯誤の「走塁改革」とは?【現地発】
2024年3月23日(土)12時0分 ココカラネクスト

ダルビッシュとの対決が注目された開幕戦。そこで決めた盗塁は「走塁改革」の賜物だった。(C)Getty Images
大谷翔平が新天地のドジャースで華々しいスタートを切った。
現地時間3月20日に行われたパドレスとの開幕戦では、相手の開幕投手であるダルビッシュ有から、第2打席で初安打と初盗塁をマーク。試合終盤では初打点となる適時打を放ち、今シーズン初のマルチ安打。開幕戦の盗塁も、メジャー7年目で初めてだった。
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走塁改革の成果をいきなり示した。初安打でスタジアム内のざわつきが収まらない中、相手バッテリーの隙を逃さなかった。3回2死一塁、3番フレディ・フリーマンの初球で二盗。パドレスの捕手ルイス・カンプサーノは慌てて座ったまま送球したが、大谷はその時にはすでに二塁ベースに向かってスライディングしていたほどの余裕を持って成功させた。絶好のスタートを切ったとはいえ、超速の二塁到達だった。
ドジャースに移籍後、手術した右肘のリハビリと並行し、オフから走塁改革に着手した。加速度や瞬発力の数値データをリアルタイムで確認できる「1080MOTION社」の最新機器を使用。ベルトを巻いた腰にワイヤーをつけて負荷をかけながら、一気に加速する短距離ダッシュに取り組んだ。大谷はキャンプ初日、今後に向けて重視していく点について「走ることと怪我をせずにしっかりと今シーズン乗り切れるようにコンディションを整えたい」と明かした。
今シーズンは打者専念。打撃だけでなく、走塁面での貢献にも意欲を燃やす。米アリゾナ州グレンデールのキャンプ序盤では、ブルワーズなどで監督を務めたロン・レネキーGM特別補佐らの助言もあり、第1リードの構えを変更。両足は一塁と二塁のライン上に対して並行ではなく、右足を後方へひいたオープンスタンスとなった。スタートを切る左足の1歩目を二塁ベースまで一直線に出来るよう改善。試行錯誤を繰り返した。
クレイトン・マッカロー一塁コーチとも意見交換を交わす姿があった。同コーチは「走ることにおいて、もっと試合で貢献したいと意欲的になっている。できるだけ早く、トップスピードで走れるように取り組んでいる」と証言。オープンスタンスのリードについては「直線で走れるように、そのスペースを作る。そして、走っている時に身体がブレないようにする」と、利点を明かした。大谷はオープン戦の試合前ウオーミングアップでは必ず、この構えからスタートダッシュを繰り返した。身体をほぐし、ただ走るだけではない。明確な意図で、入念な準備を重ねた。
1番ムーキー・ベッツ、2番大谷、3番フリーマンの打順にも、彼の走力の高さが関連している。
2月初旬のファン感謝デーでは「3番・大谷」を示唆していたデーブ・ロバーツ監督は、実戦では大谷を2番打者で起用。「フレディ(フリーマン)の前で、足の速さを生かすことができる。一塁から、盗塁する可能性があるだけでも、得点しやすい状況を生み出せると思う」と戦略を明かした。
ベッツ、大谷ともに俊足。足を警戒せざるを得ない状況で、相手バッテリーにプレッシャーをかける。その結果、失投が多くなれば3番フリーマンにも好影響が出る。「ショウヘイはいろんな形で相手を負かすことができる。その1つが、彼の足の速さだ」と、ロバーツ監督からの期待も高い。
開幕シリーズへの準備で韓国入りした翌日の16日、全体練習で大谷はほぼ室内で調整を行った。わずか10分足らずではあったが、フィールドで行ったのは走塁練習だった。一塁、二塁、三塁からの打球判断。戦いの舞台となった高尺スカイドームの内野の感触を確かめるように、意識的に走った。細かな準備が、本番の開幕戦で生きた。
投手ではリハビリに専念し、今季の登板はない。下半身への負担を考慮する必要がなく、試合で走ることに対する意欲は今まで以上に強い。逆に、積極走塁でピッチングの土台となる下半身強化につながれば、相乗効果となる。過去6年、シーズン最多の盗塁数は26。ここから上積みし、40盗塁と40本塁打以上をマークすれば、MLB史上5人しか達成していない「40—40クラブ」入りも現実味を帯びてくる。
[文:斎藤庸裕]
【著者プロフィール】
ロサンゼルス在住のスポーツライター。慶應義塾大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。プロ野球担当記者としてロッテ、巨人、楽天の3球団を取材した。退社後、単身で渡米し、17年にサンディエゴ州立大学で「スポーツMBAプログラム」の修士課程を修了してMBA取得。フリーランスの記者として2018年からMLBの取材を行う。著書に『大谷翔平語録』(宝島社)、『大谷翔平〜偉業への軌跡〜【永久保存版】 歴史を動かした真の二刀流』(あさ出版)。