「謙虚すぎる」と叱咤されたところから始まった変化 佐野海舟がドイツで描く日本代表への成長曲線【現地発】

2025年4月5日(土)7時0分 ココカラネクスト

タフな戦いの中で、己を磨き続ける佐野。各国の猛者たちとの闘いの日々は彼の刺激となっている。(C)Getty Images

主将も絶賛して順風満帆に見えるが……

 佐野海舟がドイツへ渡り、8か月以上の時が過ぎた。シーズン序盤は手探り状態が続いた時期もあったが、試合を重ねるごとにチームへ順応。いまやブンデスリーガ第27節終了時で4位につけるマインツで欠かせない戦力となっている。

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 シーズン序盤、ボー・ヘンリクセン監督は「佐野は謙虚すぎる。ボールをもっと要求しなきゃいけない。でもそれができたら本当にいい選手になる」と注文を口にしていた。だが、ここ最近は出場機会が限られる韓国代表MFホン・ヒュンソクを語る際に「いい選手だ。ただもっとやらないと。競り合いに踏み込めないとブンデスリーガではプレーできないと話している。カイシュウも最初はそうだったが、チャレンジするようになった」と指摘。佐野の成長を好例にあげ、変化のきっかけにしようとしていたのが印象的だ。

 まさに成長著しい佐野の現在地について、そしてこの先、競争の激しい日本代表の中盤に割り込むために伸ばすべきポイントはどこにあるかをプレー面にフォーカスをあてながら探ってみたい。

 ピッチ全てをカバーする運動量、守備における効果的なポジショニング、球際で寄せるだけではなく奪いきる1対1の技術、空中戦での強さ、セカンドボールへの反応。佐野のそれは、すでにブンデスリーガ全体で見てもハイレベルなのは間違いない。司令塔のドイツ代表MFナディム・アミリとの互換性が非常にいい点もプラス要素だ。

 今季公式戦16ゴールをマークしているマインツの主将ヨナタン・ブルカルトは、「うちにはインターナショナルレベルのダブルボランチがいる。佐野をスカウティングしてきた人は誇りに思っていい。本当に優れた選手だ」と称賛を惜しまない。このドイツ代表FWの言葉も、佐野の好調ぶりを推し量るものだと言っていい。

 順風満帆にみえる佐野。だが、本人は至って冷静に自身の課題を口にする。

「これから先も出来過ぎというシーズンはないと思います。いつでも自分と向き合っている中で、課題が無くなるというのはサッカーをしている以上ないと思う。向き合いながら日々やっていますし、一つずつクリアしていくことが大事だと思います。個人もチームも同様に日々課題が出ているので、それをクリアして次に進むという繰り返しかなと思います」

 では具体的にどこに課題を感じているのか。ヘンリクセン監督から佐野は「ボールを持った時にバックパスで逃げるシーンが少なくない」と攻撃への効果的な関与をポイントとしてあげられ、意識的に取り組んでいるという。実際、1-3で敗れたドルトムント戦(27節)では、中盤から爆発的な推進力でボールを運び、チャンスへ結び付けるシーンがいくつもあった。

「チームからも求められていました。最初はスペースがあってもパスで逃げてしまったりとかもあった。監督やチームから言われた時に、じゃあ自分がどうやればいいのかを考えて取り組んだ結果かなと思います」

マインツで確固たる地位を築きつつある佐野だが、現状に満足はしていない。(C)Getty Images

シュツットガルトの「伝説」となった遠藤のように

 相手選手が引き留めようとする手を弾き飛ばし、相手選手の間に割って入って突進する力もつけている佐野。さらにサイドから相手をうまくブロックしながら持ち運んで好クロスをあげるシーンも増えてきている。

 ただそこでも満足はせず。常にプラスアルファを求めている。

「あの局面での質だったり、自分でいききることも必要かなと思います。シュートを見せないとやっぱり(相手を)引き寄せることできないと思う。もうちょっと強気になる部分かな」

 その課題解決の大きなカギとなるのが、中盤センターでコンビを組んでいるアミリの存在だろう。

 昨季にレバークーゼンから移籍してきた28歳は、すぐさま中心選手としてチームを掌握。チームのブンデスリーガ残留に大貢献。今季は充実の時を経て、3月には待望のドイツ代表への復帰。さらにイタリア代表とのUEFAネーションズリーグ決勝トーナメント1回戦ファーストレグでいきなりスタメン起用と、これ以上ない上昇気流に乗っている選手だ。

 そんなアミリは、巧みなゲームメイクだけではなく、卓越したシュートで得点も決める点も魅力。その強みを佐野はつぶさに観察していることを明かしてくれた。

「本当にすごいし、勝負強さを出せるのが上に行ける選手、上でやっていく選手だと思う。いい見本が隣にいるのでしっかり見習いながら。でもナディムがいいプレーできるようにというのも考えて、自分のところでバランスがとれるようにできるといいなと」

 先述のドルトムント戦では、こぼれ球を拾った流れから躊躇せずに鋭いシュートを放つシーンがあった。枠は惜しくも外したが、タイミング的にはまさにアミリのそれ。ボランチとしてゲームを支配し、チームに安定感を与えるのが必要不可欠なタスクであるが、世界のトッププレーヤーは大事なところで発揮すると得点力やチャンスメイク力も併せ持つ。そんな意欲を体現しているように見えた。

「チームの勝利が一番なので。そこはぶらすことなく。でも(ゴールやアシストへのこだわりは)変わらずあります。狙っていかないとなと思います」

 シュツットガルト時代の遠藤航(現リバプール)が伝説となったのは、抜群のデュエル力だけではなく、自力残留をかけた大事なリーグ最終節、しかもアディショナルタイムに、劇的な決勝点を決めたからでもあった。あのころの遠藤は、さらに上のステージへ行くために、ボールの運び方、チャンスへの関わり方、ゴールへのこだわりを口にしていたのを思い出す。

 現時点で佐野はヘンリクセン監督に「リーグ最高のボランチの一人」と高い評価をされている。そこに得点力やチャンスメイク力も身についたらどうなるか。欧州トップレベルのクラブでも主力を張れる選手に成長できるだけの資質を秘めているといっても言い過ぎではないかもしれない。仮にそうなれば、日本代表での競争に割って入る可能性も高まっていく。

[取材・文: 中野吉之伴 Text by Kichinosuke Nakano]

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