【追憶のフローラS】95年サイレントハピネス トライアル勝ち馬が本番パス?馬優先を貫き“常識”壊した

2025年4月23日(水)6時45分 スポーツニッポン

 日本競馬が一気に強くなった、ここ30年。それは“常識を打ち破る戦い”ではなかったか。固定観念と言ってもいい。競馬の世界で信じられた頑固な考え、思い込みを振り払いながら、競馬は進化を遂げてきた。

 もしかしたら、この一戦は固定観念を打ち破った“はしり”かもしれない。何しろ、オークストライアルを勝った牝馬を管理する指揮官が「次走は(オークスでなく)ダービーかもしれない」と言い出したのだから。

 まだ、レース名が「4歳牝馬特別」だった95年。この年は混戦ムードだった。

 1番人気ジョージビューティはフラワーC2着からの臨戦。まだ新馬戦を勝っただけの1勝馬だ。2番人気ダイワグラマーは2勝馬だが、ダート1200メートルの新馬戦(2戦目)と芝1200メートルの桜草特別を勝ってのもの。忘れな草賞(芝2000メートル)3着からの臨戦とはいえ、距離への不安は拭えなかった。

 サイレントハピネスは3番人気。期待のサンデーサイレンス産駒だが、ダート1800メートル戦(1着)からの臨戦。初勝利は芝だったが、まだ万全の信頼を置ける馬ではなかった。

 だが、サイレントハピネスは強い競馬を見せた。4番手付近を追走し、4角では3番手の外。そこから力強く伸び、残り150メートルで先頭。追いすがるジョージビューティ、ジョウノカオルコを振り切った。

 会心の勝利。ところが藤沢和雄調教師の表情はさえなかった。「久々でマイナス10キロ。正直、馬体づくりに失敗した」と、思わぬ言葉で切り出した。

 確かに4カ月ぶりで10キロ減。だが、結果は快勝だったのではないか。気鋭の調教師には、それが“失敗”に見えるのか。ザワつく報道陣に指揮官は次なる言葉を投げた。「これでは中2週(オークス)でどこまで回復するか疑問だ。そこで1週待って、よりいい状態になるのであれば、ダービーへ登録することも考えたい」

 報道陣は顔を見合わせた。それまでの競馬界の常識、慣例が破られた瞬間だった。牝馬ウオッカがダービーを勝つシーンを見た現代の競馬ファンなら心理的な障壁なく受け入れるだろうが、当時の競馬マスコミにはそんな経験はない。慌てふためきながら、過去の牝馬のダービー挑戦例を調べたのだという。

 結局、サイレントハピネスはダービーにもオークスにも出走せず、体調を整え直して秋まで間隔を空けた。83年シャダイソフィア以来の牝馬によるダービー挑戦は幻となったが、トライアルを制した馬はそのまま本番に向かうという固定観念に一石を投じたことは確かだった。

 のちに筆者が藤沢和師に、この時のことを聞くと、表情を変えることなく、こんな意味の言葉を言った。決めつけるのが一番良くない。馬のことを第一に考え、さまざまな可能性を模索するべきだ。

 競馬界の革命家は凝り固まった考えから全く自由なのだと改めて感じた。

スポーツニッポン

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