衝撃ダウンは「感触がなかった」 名勝負を生んだカルデナスが告白した井上尚弥との8Rの舞台裏「戦い続けたイノウエは真の戦士だ」

2025年5月6日(火)11時30分 ココカラネクスト

井上に強烈なカウンターを見舞って、ダウンを奪ったカルデナス。(C)Getty Images

「あれこそPFPで最強の選手と言われる理由だ」

 大衆が「勝てない」と見込んでいた怪物を追い込んだ挑戦者が、衝撃を生んだ一戦の舞台裏を明かした。

 現地時間5月4日に行われたボクシングのスーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(大橋)の防衛戦は、「井上圧倒的優位」という戦前の下馬評を考えれば、“まさか”の激闘となった。

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 結果的に井上が8回45秒TKOで制した一戦にあって、とりわけ光ったのは、他でもない勝者に「映像で見ていたよりも、もっともっと強い選手だった」と言わしめたWBA同級1位の挑戦者であるラモン・カルデナス(米国)の健闘ぶりだった。

 歴史的なアップセットが人々の脳裏をよぎった。2回、接近戦を選択したカルデナスは、井上が左フックをスッと体勢を低くして交わすと、その刹那に狙いすまして左フックを炸裂。これが見事に相手の顔を捉え、ダウンを奪ったのである。井上が瞬間的に力なく倒れたこともあり、米ラスベガスのT-モバイルアリーナは騒然となった。

 ただ、打った本人には「行ける」という好感触などなかったという。米ボクシング専門メディア『Fight Hub TV』のインタビューに試合直後に応えたカルデナスは、「正直に言うと、見えてなかった。ダウンした瞬間はね」と告白。周囲の反応とは裏腹に井上に効かせたという衝撃を感じていなかった。

「パンチを打ったら、観客から叫び声が上がっていたから振り返ったら、イノウエが倒れているのが見えたんだ。説明が難しんだけど、ホームランを打つ時も『感触がない』みたいに言うでしょ? そんな感触だったんだ。ただゴングが鳴ってしまったから『行けるぞ』みたいな感じもなかった。もしもあれが、ラウンドの序盤とかだったら話は違ったかもしれないね」

 世界最強と言われる男に反攻の一撃を効かせた。ただ、そこからカルデナスは、防戦一方となった。

 距離を微調整し、カウンター対策を講じた井上は、強いジャブからのコンビネーションで主導権を掌握。パンチの雨を受けたカルデナスは守勢に回った。いや、回された。

「2回のあそこから戦い続けたイノウエは真の戦士だ」

 そう語るカルデナスは、井上について「正直に言ってしまうと、めちゃくちゃパワーがあるっていう感じはしなかった。『これはヤバいぞ』という感じではなかった」と指摘。その上で、主導権を握っていた自身をTKO負けにまでさせた怪物の凄みを論じている。

「どちらかというと、6、7、8発と矢継ぎ早に、バンバンと打ってくるから、その勢いにのまれた感じがあった。“一発で効いた”みたいなパンチはなかったと思うんだ。それよりも、あの勢いの方が凄かった。あれこそPFPで最強の選手と言われる理由だと思う」

「敗北の中にも見出せる価値はある」——井上に敗れて溢れたボクシング愛

 最終的に8回に井上の猛ラッシュを浴びて、リングに沈んだカルデナス。レフェリーに試合を止められた瞬間は「まだやれるとは思った」と悔しさがこみ上げたが、29歳の戦士は「ああいうことになる予感はあった。だから陣営には『戦場で散る覚悟はできてる』って伝えていたんだ」と素直に敗戦を受け入れている。

 敗れはしたが、世界が認めるほどの強さと気骨を見せた。そんなカルデナスは、ボクシングに対する熱き想いも口にしている。

「負けたけど、何があろうと戦い抜く証明はできたと思う。ただ、俺はボクシングを愛している。戦うのが好きなんだ。戦場に出向いて、自分の覚悟を示す。そうやって証明するんだ。ボクシングは死んじゃいないよ。

 これは“人気”を競う競技じゃない。インスタグラムのフォロワー数で勝負してるわけじゃない。ベストとベストが戦うことこそボクシングだ。負けたのは悔しいけど、イノウエや周りの人たちには感謝をしているし、今は幸せな気分だよ。敗北の中にも見出せる価値はある」

 敗れてなお、威風堂々と振る舞い続けたカルデナス。最後の最後まで清々しくい続け、井上を追い込んだ挑戦者には、観る者を魅了する覚悟があった。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

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