【NHKマイルC】アドマイヤズーム95点 ここまで進化を遂げた馬は珍しい
2025年5月6日(火)5時30分 スポーツニッポン
◇鈴木康弘氏「達眼」馬体診断
母の日のターフに咲くのは赤いカーネーションを想起させるボディーだ。鈴木康弘元調教師(81)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第30回NHKマイルC(11日、東京)ではアドマイヤズームをトップ指名した。達眼が捉えたのはカーネーションのように半年間で一変した急成長ぶりと赤い輝きを放つ毛ヅヤ。昨年の朝日杯FSに続くG1タイトルをつかみ、春の府中を鮮やかに彩る。
今週日曜の母の日を前にカーネーションの出荷が急ピッチで進んでいます。晩秋に発芽した小さな苗を寒さから守って冬越しすれば初夏には鮮やかに開花する。欠かせないのは日当たりや肥料、水やり。根が伸びればひと回り大きな鉢に移し替えるなど手間はかかりますが、発芽から半年足らずでつぼみを開く母の日の定番ギフトです。母ダイワズームの名をとってアドマイヤズームとネーミングされた鹿毛馬も半年足らずで驚異的な成長を遂げました。
昨年の朝日杯FS時とは体つきが一変しています。ボリュームが足りなかった肩と尻から臀部(でんぶ)にかけて大きな筋肉を付けた。つぼみが膨らむように張りが増しています。キ甲はカーネーションの根のように後ろに張り出してきました。腰は前方に伸びている。そのため、発達したキ甲と腰に挟まれて背中が短く映ります。典型的なマイラーの体つきになりました。
2歳後半から3歳前半にかけては競走馬の成長期にあたるとはいえ、ここまで進化を遂げた馬は珍しい。急成長ぶりは父モーリスよりも母方の影響か。加齢とともに後肢をパワーアップさせるハーツクライ(母の父)の血の威力かもしれません。
毛ヅヤも朝日杯FS時とは一変しています。当時は冬支度をするように毛足が少し長くなっていましたが、今回は冬毛も奇麗に抜けて、初夏の陽光に輝いています。日差しが強かったにせよ、鹿毛がこれほど赤く映るのは珍しい。母の日にふさわしい赤いカーネーション…とまでは言いませんが、間違いなく体調はピークに達しています。
顔つきは朝日杯FS時と同じです。相変わらず目つきがきつく、耳の立て方も強い。四肢にも力を入れて立っています。若馬らしい気負いは抜けていませんが、マイル戦ならこのぐらい気持ちが前に出ていても問題ありません。太い尾をごく自然に流しているので精神状態は安定しています。
今春はカーネーションに異変が起きているそうです。昨夏の記録的な暑さのせいで苗が“萎縮”してしまい、開花も遅れ気味とか。母の日に出荷が間に合うのか、不安の声を上げる生産者もいるようです。アドマイヤズームの不安材料も萎縮です。取りこぼした新馬戦(4着)、ニュージーランドT(2着)を振り返ると、初めて経験するコースに萎縮したように思えるのです。今回の東京も初経験。レース前の返し馬が重要になります。見知らぬ場所でも安心させるために他馬と一緒に返し馬をするとか、何らかの手を打ってくるのではないか。
萎縮さえしなければ、ターフに咲くのは赤いカーネーション。母の日に合わせるかのように急成長を遂げた馬体です。 (NHK解説者)
◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の81歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70〜72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94〜04年に日本調教師会会長。JRA通算795勝。重賞27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。