「遅すぎて驚いた」山下健太とタイヤ選択を悔やむ坪井翔。最重量で2位確保も満足しない王者1号車auコンビ
2025年5月9日(金)12時15分 AUTOSPORT web

開幕戦岡山で幸先よく勝利を飾り、前人未到のスーパーGT500クラス3連覇に向けて絶好のスタートを切った1号車au TOM’S GR Supra。坪井翔と山下健太が駆るチャンピオンカーは、5月4日に富士スピードウェイで開催された第2戦でも予選7番手を獲得し、持ち前の強さを発揮し2位表彰台を獲得してみせた。しかし「年間4勝してチャンピオンを獲る」という高い目標を掲げるふたりにとっては、今回の結果は100%満足できるものではなかった。レース後、坪井と山下に聞いた。
40kgのサクセスウエイト(SW)を搭載しながら予選Q1を突破した1号車auは、続くQ2で7番グリッドを得た。日曜の決勝では坪井がレース序盤のGRスープラ同士の中団争いのなかで順位を上げていき、最初のピットストップまでに3番手へ浮上。ピットイン後、第2スティントを山下に託した。
「タイヤ選択があまりよくなかったこともあって、結構いっぱいいっぱいでした。選んだタイヤが『柔らかい方向に行き過ぎたかな』という気はしたのですが、燃費も含めてセーブして走ったなかでもあまりにも遅すぎて自分でもびっくりしました」と語るのは、坪井からステアリングを引き継ぎセカンドスティントに出ていった山下。
「前後バランスなどクルマ自体のフィーリングはそんなに気にならず単純にグリップが低い感じで、コースインした直後から遅さを感じてチームに『ペースが遅い』と伝えていました。しかし、そういった状況でもなんとか頑張らないといけないので、周りのクルマのペースやどのように走っているのかを無線で聞きながら後続車をできるだけ抑える走りをして、『早い段階で坪井選手に交代させてほしい』とお願いしました」
3番手を走るau山下の背後からは3号車Niterra MOTUL Zの三宅淳詞が迫ってきていた。
「ピークのグリップがあまり感じられずペースが上げられないなか、後ろの三宅選手は自分を抜こうとかなりプッシュしていて、結構タイヤを使っている感じでした」と山下。
「それに比べると自分のタイヤも滑ってはいたものの、うまくタイヤのライフを残しながら相手の速いところを封じ込むかたちでブロックができていたと思います。ペースは遅かったですけど最低限の仕事はなんとかやり遂げたという感じのスティントでした」
■坪井が第3スティントでみせたハイペースの意味
スタートとフィニッシュパートを担当した坪井は、第2スティントのタイヤ選択についての課題を語った。
「どのタイヤを使うかはチームも僕もかなり迷いました。最初のスティントのペースがよかったので『そのまま同じコンパウンドで行ってもいいのではないか?』という考えもあったのですが、予選日は15時ごろから路面温度が結構下がったこともあり、スティント後半にキツくなるのを嫌って柔らかいタイヤを選びました」
「しかし路面温度が思ったよりも下がらず、結果的に少し外れてしまいグリップ感が全然なかったみたいです。第2スティントと第3スティントは同じコンパウンドでしたが、本当に微妙なコンディションの差でそんなに変わってしまうのか疑問なところもありますが、あそこで上の温度レンジのタイヤを選んでおけばよかったと思うのが正直なところです」
「もちろん僕からもインフォメーションは出していましたが、最終的に皆が合意して下のレンジを選びました。ドライバーとしては最初のスティントで調子が良かったので、あそこでもう少し勇気を持って『このまま同じコンパウンドでいったほうがいい』と言えたらよかったと思います。そこだけ後悔というか、この経験を次に活かしたいと思います」
そう後悔する坪井だが、第3スティントで乗り替わった1号車auはGT500クラス全車が2度目のピットストップを終えると2番手に浮上する。この時点でトップの38号車KeePer CERUMO GR Supraとは30秒以上のギャップがあったものの、ふたたびコクピットに戻った坪井はハイペースで追い上げていった。
「ペースは非常に良く1周1秒くらい速いラップもありました。残り30周ほど、タイム差は大きかったですが、どんなチャンスが巡ってくるか分からないのでプッシュし続けました」と坪井。
最後まで勝利を諦めないという意思の表れでもあったが、坪井によると1号車auの終盤のプッシュは別の意図も含んでいたという。
「他のライバルに『SWを40kg積んであれだけのペースで走られちゃ困るな』と思わせたかったんです。そうすると次に向けてクルマをいろいろと変えてくるところもあるかもしれない。変えた結果、それがいい方向に行くこともあれば逆に悪い方向に行く可能性もあるので、他陣営にプレッシャーをかけるという意味ですごく大事なスティントだったと思います」
そんなチームメイトの走りを見守った山下は、「完璧に速かった坪井選手に、もう本当にありがとうございますという感じ」と語った。
「正直、自分のスティントのペースが速ければ勝てていたかもしれなくて、それを考えるとちょっと申し訳ない気持ちになります。本当にひとりだけ遅くてだいぶロスしたと思うので……」
「この重量で2位という結果は普通に考えたら立派だと思うのですが、1号車に求められるレベルというかハードルは高いので、優勝が見えそうだったこともあって悔しいところはあります」
とはいえ、1号車auは開幕2戦を1位2位で終えシリーズランキングはもちろんトップ。ドライバーズランキング2位の38号車KeePer石浦宏明/大湯都史樹組に14ポイント差をつけ、チームランキングではTGR TEAM ENEOS ROOKIE(14号車ENEOS X PRIME GR Supra)を15ポイントリードしている。
TGR TEAM au TOM’SとしてGT500史上初の偉業に挑戦する山下は、「それに向けてはいま、良い流れで来ているように思います」と自信を覗かせる。
「第3戦は正直、上位に絡むのは無理だと思いますが、初めてこのクルマで戦うセパンのレースということで荒れる可能性もあります。しぶとく戦っていればポイントを取れる可能性もあると思うので、とにかく粘り強く戦いたいと思います」と次戦ひさびさの海外戦となるセパン・ラウンドへの抱負で締め括った。