クラッシュした角田裕毅とターン5の縁石の危うさ。1周保たないソフトすぎるタイヤとフェラーリの関係【中野信治のF1分析/第7戦】
2025年5月22日(木)21時5分 AUTOSPORT web

イタリアのイモラ・サーキットを舞台に開催された2025年F1第7戦エミリア・ロマーニャGPは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が今季2勝目/自身通算65勝目を飾りました。
今回は、マクラーレンの優位性が影を潜めた要因、角田裕毅(レッドブル)のクラッシュと決勝での戦い、そして柔らかすぎるタイヤのデメリットについて、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。
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エミリア・ロマーニャGPの初日から依然としてマクラーレン勢が速く、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)がポールポジションを獲得した予選を終えた時点では『今週もマクラーレンのレースになるのかな』と思いきや、終わってみればフェルスタッペンが他を圧倒したレースでした。
レッドブルはイモラでリヤサスペンションやエンジンカバーといった部分でアップデートを投入し、そのアップデートが効果を発揮したと思います。その上で、決勝のスタートでフェルスタッペンがピアストリをかわし、早い段階から首位に浮上したことでクリーンエアを手に入れ、タイヤのデグラデーション(性能劣化)をコントロールしやすい環境を手に入れたことが、大きかったでしょう。
さまざまな要因が重なった上ではありますが、レッドブルのクルマのポテンシャルが上がってきていることは事実だと感じる一戦でした。ただ、高速コーナーへ向けてはシャープに曲がるクルマになりつつも、半径が小さいコーナーに関してはアンダーステアが強いように見え、引き続き苦労していますね。
それでも、フェルスタッペンは特にセクター1で他を圧倒する走りを見せました。これは、ブレーキを少し残して速度を落とし切らず、リヤが軽くなった状態で入る難しい高速のS字コーナー(ターン2〜4のタンブレロ、ターン5〜6のビルヌーブ)がセクター1に多かったからでしょう。リヤがピーキーな状況でもコーナーに飛び込むことが得意なフェルスタッペンの技が、予選2番手、そして決勝での圧倒ぶりを支えたと思います。
その一方で、これまでマクラーレンが見せていた圧倒的な優位性が影を潜めたように思います。レース後に知りましたが、FIA国際自動車連盟がエミリア・ロマーニャGPに向けて、タイヤとブレーキの冷却に関する技術指令を出していたとのことです。もしマクラーレンがレギュレーションの裏を突いており、今回の技術指令の影響を受けて裏を突けなくなったとすれば、マクラーレンとレッドブルとのギャップが縮まった要因も説明できるのではないでしょうか。
レッドブルのアップデートの効果が出て、フェルスタッペンが見せた完璧な走りに加え、マクラーレンの翼から羽根が何本か抜かれた影響が現れたのがイモラのレースだったのかもしれません。
■イモラ・サーキットの難所。ターン5の高い縁石と角田裕毅の予選Q1でのクラッシュ
一方、裕毅は予選Q1でターン5(ビルヌーブカーブのS字ひとつ目/右コーナー)の縁石に乗ってクルマの姿勢を崩して、勢いそのままバリアにクラッシュしてしまいました。そもそもターン5はかなり背が高く跳ねるタイプの縁石があるコーナーです。一発の速さを競う予選では、ブレーキをギリギリまで我慢してスピードも残しつつ、右側に荷重が乗った状態で左側のかなり高い縁石に乗ります。これはクルマの姿勢を崩す条件がすべて揃った、と言える状況です。
ターン5の縁石に乗ることはレーシングラインとしては理想型ではありますが、縁石の高さや危うさを把握したドライバーたちは積極的に乗ってタイムを刻んでいこうとはしません。だからこそ、クラッシュを喫した裕毅は、自分自身に強い憤りを抱いたのでしょう。私には無茶なアタックには見えなかったですが、もう少し裕毅が冷静さを保てていれば防げたクラッシュだったと感じています。
予選後に裕毅もコメントしていたとおり、Q3を新品2セットでアタックするために、Q1は新品1セットで終わらせたい状況でした。何かを獲りにいこうとすれば、当然リスクは負わなければいけません。そのリスクを含めた、レッドブル『RB21』というクルマを乗りこなす上でのラーニングカーブ(学習曲線)としての結果ですから、予選でのクラッシュは裕毅にとっても大きな教訓になったのではないかと感じます。
決勝はピットレーンスタートから、タイヤのデグラデーションをコントロールしつつ無理せず順位を上げ、1ストップでトップ10入りできたのは裕毅だけという、彼らしいレースを見せてくれました。終盤もタイヤのコンディションに差があるフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)の猛追を防ぐために、エナジーストア(ES/回生エネルギーを貯めるバッテリー)をしっかり充電し、アロンソが接近してきたらそれまで蓄えた回生エネルギーのパワーを使って防御し、入賞圏内の10位を守り切りました。
この決勝での走りは評価されるべきだと思います。予選でのクラッシュは褒められたことでは決してありませんが、決勝はポイントを持ち帰ることができ、周りの期待値を保った、いいレースだったと思います。