【鷹論】嶺井の自戒トークに込められたフォア・ザ・チームの精神
2025年5月20日(火)6時0分 スポーツニッポン
母の日の数日後、ハスキーボイスで訴えかけてきた。この音域といえば…。振り返るとソフトバンクのベテラン捕手・嶺井だった。
「下手くそ、嶺井とか書いてくださいよ。パスボールはするしマスクをかぶった試合は毎回、防御率も高い。二盗も刺せない。“下手くそ”とか、もう少し厳しい視点でじゃんじゃんお願いします」
一方的な自戒トークが、しばらくの間、熱を帯びた。そんな紙面の見出しはない。そう思いながら、うまく聞き取ることはできた。
いやいや、頑張ってますやん、など軽い返答では嶺井は納得しない。バットで結果が出ても「いや、たまたまです」が第一声。ならば、あの美しきバット投げは何だと突っ込みたくなるが、捕手として守れなければ意味がない、チームが勝たないと意味がないという思いが根底にある。フォア・ザ・チームの精神が強い。だから失点を重ねると扇の要として自分が許せなくなる。
巨人に移籍した“元鷹の女房”こと甲斐と同じだ。念頭に「功は人に譲れ」との思いがある。縁の下の力持ちとして頼もしいタイプ。そのための準備を絶対に怠らない。「おっさんだから準備はしますよ。体が動かないですもん。マッキー(牧原大)の方が凄い」と照れるが、宮崎春季キャンプ期間中は毎朝5時半に起床し6時過ぎから室内練習場で始動していた。開幕後もナイター前の午前10時過ぎに球場入りしジョギングから始める。オフ日もドームで体を動かした後に、息子に野球を丁寧に教えている。
意外性があるのは打撃だ。14年にDeNAに入団し、17年までの4年間は両打ち登録だった。23年にソフトバンクにFAで加入。移籍3年目の今月11日、不意に覚醒した。「母には感謝していますが、チームの女房役にも母親役にもなれていません」。また辛口だがオリックス戦で自身初の2打席連続アーチを含むプロ最多3安打7打点でチームの全打点を叩き出した。それでも「投手と話し合って、失点を少なくすることだけ」と、とにかく守りの重要性を説く。
ソフトバンクの藤本前監督の名前「博史(ひろし)」は「博多の歴史」と受け取ることもできたが、嶺井の福岡上陸当時の売り文句は「博希」から「博多の希望」だった。小久保裕紀監督と同じ「ひろき」でつながる。その指揮官は「投手陣とのクッション役になってくれているし、得点を取るために今は嶺井を多く使うと決めている」と苦境打破へ、攻守両面で期待している。
博多名物のめんたいこみたいなピリリとスパイスの利いた嶺井の自戒トーク。いつでもお待ちしとります。厳しい目で見ておきます。 (井上 満夫)