勝利よりも理想の一打を追い求め 44歳のベテラン選手が語った“今と昔”【現地記者コラム】

2025年5月28日(水)11時30分 ALBA Net

岩田寛の“今と昔”の変化とは?(撮影:上山敬太)

<日本プロゴルフ選手権 最終日◇25日◇三甲ゴルフ倶楽部 谷汲コース(岐阜県)◇7337ヤード・パー72>

国内男子ツアーは先週、今年最初の国内メジャー大会「日本プロゴルフ選手権」が行われた。選手にとって「一度は手にしたいタイトル」だが、、その価値や重みは選手によって大きく異なる。特にこの大会で強く印象に残ったのが、「勝ち負け」ではなく「ゴルフとの向き合い方」だった。


その“象徴”のように感じたのが、メジャー1勝を含むツアー通算7勝で、今季7年連続17回目のシード選手としてツアーを戦う44歳の岩田寛だ。今大会も初日から上位につけ、13位タイでフィニッシュしたのだが、どのような想いでツアーに挑んでいるのか本人に話を聞いた時の言葉が、耳に残った。

2日目終了時点で3位タイと好位置についた岩田に、優勝への思いを尋ねると、「ないですね。昔はあったけど、年を重ねてから(勝ちたい気持ちは)あまりなくなったかも…」という答えが返ってきた。それよりも今は、「こういう球が打ちたい」、「もっと飛ばしたい」、「高い球を打ちたい」、「アプローチもうまくなりたい」、「パターをもっと入れたい」…など、技術的欲求のほうが強い。「勝ちたい」よりも、理想のプレーを追い求める気持ちが強くなっているという。

それゆえ、勝敗よりも自分が理想とするプレーができないときに、感情も大きく揺さぶられる。「怒りやすくなったかもしれない。それ(追い求めるプレーがなかなか出なかったら、すごくへこみますしね。へこむか、怒るか。『なんでこんなに下手なんだろう…』って思うこともあります」。それを一番感じるときが、現在世界ランキング1位に君臨するスコッティ・シェフラー(米国)のプレーを見ているとき。ショット力、ショートゲームのうまさなどを見るたびに、「自分の小ささ」を実感させられるという。

岩田は、他のプロのプレーをよく観察している。テレビ中継だけでなく、ラウンド中や練習場でもその目は鋭い。

「今週(先週)だったら、アメリカツアーに(金谷)拓実とかが出ていますし、コーン・フェリーツアーだったら(平田)憲聖で、全米シニアもやっている。陣(香妻陣一郎)がLIVに出ている時も見るし、スコアも見ています。朝の練習場でも、誰かがいい球を打っていたら『どうだったんだろう?』って気になります」

選手がどのように打つか、難しい状況をどう打開していくのか。ここに岩田は「めちゃくちゃ興味あります」と言い、調子の悪い選手の様子までチェックしているという。

「その人がどういう考えで打ったのか、聞くこともありますね。(学ぼうとか)そこまで貪欲ではないですけど」。そう語る岩田だが、その姿勢からは、プロ21年目にしてなおレベルアップを目指す意識が感じられる。

「結果」ではなく「納得感」こそが、岩田が今向き合っているゴルフの本質だと感じた。かつては勝利を求めていたが、今は“納得できるプレー”こそが自身のモチベーションを高めている。勝ち負けを超え、「こんな球が打ちたい」と思い、それを実現するために日々のゴルフに取り組む。その姿は、長く第一線で活躍する選手ならではの“次のステージ”のようにも感じた。

メジャータイトルの価値は、もちろん言うまでもない。ただ、岩田の姿を見ると、ゴルフという競技の本質は“どれだけ自分と向き合えるか”にあるのかもしれない、そう思った。この大会に出場した144人には、それぞれが抱く“想い”がある。優勝だけではないトーナメントの一面を見ることができた。(文・高木彩音)


<ゴルフ情報ALBA Net>

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