インディ500で発揮されたエリクソンの真価「次の目標はシリーズタイトルだ」

2022年6月4日(土)7時18分 AUTOSPORT web

 第106回インディアナポリス500マイルはマーカス・エリクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)が優勝した。


 ゴール前のラストスパートは見事で、同じスウェーデンのフェリックス・ローゼンクヴィスト(アロウ・マクラーレンSP)、そしてパト・オーワード(アロウ・マクラーレンSP)を続けてパスし、残り10周でトップに立った。


 その後もペースを緩めず、周回遅れをクッションにリードを広げて行き、その差は3秒に。しかし、彼のチームメイトのジミー・ジョンソン(チップ・ガナッシ・レーシング)がクラッシュして赤旗が出された。


 エリクソンにとっては、ほぼ手中に収めていた勝利を手放す可能性のあるリスタートが行われることになったわけだ。その一方で、勝利を諦め、2位の座を守れるかという不安に陥っていたオワードには大逆転優勝のチャンスが与えられた。


 絶対にミスの許されないリスタート、エリクソンはターン3を通過後に大幅減速し、自らのタイミングで加速。ストレート上ではラインを蛇行させてオワードの攻撃を凌いだ。バックストレッチでも蛇行を繰り返したが、最終ラップのターン1でオワードがアタック。アウト側から並びかけた彼はエリクソンより僅かに先行したほどだった。

エリクソンがトップをキープし残り1周のホワイトフラッグが振られる


 しかし、マシンが決まり切っていたエリクソンはインサイドのラインをスロットル全開でホールド。オワードはサイド・バイ・サイドのままコーナリングするリスクを避け、エリクソンの勝利が決まった。


 彼らがターン3に差し掛かる前に今度はセージ・カラム(ドレイヤー&レインボールド・レーシング)がクラッシュ。結局ゴールはイエロー下になった。


 エンターテインメント偏重ストックカーシリーズの悪き例に倣ったかのような”グリーン+ホワイト+チェッカー(=レース再開+残り1周+ゴール)という、本来なら必要なかった大試練を乗り越えて勝利を掴んだことで、エリクソンはさらにもう一段強いドライバーになった。


 F1グランプリで5シーズン戦ったが、優勝争いのできるチームからの出場ではなく、2019年にアロウ・マクラーレンSPの前身であるシュミット・ピーターソン・モータースポーツからインディカーシリーズに出場。


 アメリカでのデビュー年、所属チームの実力は決して高くはなかったが、デトロイトのレース2でチャンスを掴むとスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)を追い、ウィル・パワー(チーム・ペンスキー)を突き放しての2位フィニッシュして実力の片鱗を見せた。


 翌年にエリクソンはチップ・ガナッシ・レーシングに移籍した。フォードのGTプロジェクトが終了したチームはインディカーを3台体制へ拡大することを決め、そこにエリクソンのオファーが嵌まった。


 彼をアメリカへと呼び寄せたシュミット・ピーターソンはマクラーレンの影響力が強まってエリクソンの居場所はなくなる見込みだっただけに、絶妙のタイミングで移籍はなった。


 2021年、同郷のローゼンクヴィストがアロウ・マクラーレンSPへと移籍。代わりにガナッシ入りしてきたのはアレックス・パロウだった。その新入りスペイン人ドライバーはエリクソンより先にインディカー初優勝を飾り、さらに2勝を挙げてシリーズチャンピオンに輝いた。


 2020年は4位がベストだったエリクソンだったが、2021年にはデトロイトで初勝利を飾り、ナッシュビルで2勝目を挙げた。優勝したデトロイトから9戦連続トップ10フィニッシュと安定感も大幅に向上させた彼はシリーズランキング6位となった。


 しかし、彼のチームメイトたちはというと、6回もチャンピオンになっているディクソンと、スピードと安定感を備えた新チャンピオンのパロウ、そしてストックカーで史上最多位の7回ナショナルチャンピオンになっているアメリカでは知らない人のいないジョンソン。


 アメリカでの4シーズン目、ガナッシでの3シーズン目を彼は最も目立たない存在として迎えた。


 開幕戦セントピーターズバーグでは、予選8番手、決勝9位(予選:チーム内2番手、決勝:チーム内3番手)。第2戦テキサスは予選14番手、決勝3位(予選:チーム内3番手、決勝:チーム内トップ)。第3戦ロングビーチは予選8番手、決勝リタイア/アクシデント(予選:チーム内2番手、決勝:チーム内4番手)。


 第4戦バーバーは予選、決勝ともに12位(予選:チーム内2番手、決勝:チーム内3番手)。第5戦GMRグランプリは予選18番手、決勝4位(予選:チーム内2番手、決勝:チーム内トップ)。


 17戦中の5戦終了時点でポイントスタンディング8番手につけていた。


 今年のガナッシは少々苦戦気味で、第6戦にスケジュールされたインディ500がシーズン初優勝となった。ダブルポイントのレースを制してエリクソンのポイントランキングは一気にトップへジャンプアップ。


 エリクソンは、「次なる目標はシリーズタイトルだ」とインディ500の表彰式で力強く意気込みを語っていた。

インディ500ウイナーのメディアキャラバンでヤンキーススタジアムにも訪れたエリクソン


 チーム・オーナーのガナッシもエリクソンのパフォーマンス向上をおおいに喜んでいる。


 パロウがタイミングの悪いアクシデント(ジョンソンのものではない)によって勝利のチャンスを失い、トップを延々走っていたディクソンはピットスピード違反によって自らトップ争いから脱落した今年のインディ500。


 その後にエリクソンはトップに躍り出て、赤旗からのリスタートといる難関も突破してチームに2012年のダリオ・フランキッティ以来となるインディ500優勝をもたらした。

2012年以来の勝利にご満悦なオーナーのチップ・ガナッシ


「マーカスはキッチリと仕事をこなすドライバー。昨年から勝つことと安定して上位でゴールすることを両立させるようになった。インディ500のようにプラクティスを重ねて戦うレースは彼に合っているのだろう」


「今年の“500”での彼はマシンセッティングを一切変えることなくスタートからゴールまでを走り切った。最後のリスタートからはゴールまでアクセル全開だった」とガナッシは語った。


 勝利で得られる自信は大きい。インディ500ともなれば、それは普通のレースの何倍にもなる。現在31歳のエリクソン。これまで積み重ねて来たさまざまな経験を活かせる年齢でもある。インディ500の次のレース、デトロイトは彼が初表彰台に上り、初勝利を飾ったレース。そこで彼は昨年までより手強い存在としてレースを戦うことになるだろう。

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