WorldRX世界王者の兄が面目躍如、ティミー&ケイティのアンドレッティ組が初優勝/エクストリームE第3戦

2021年9月2日(木)11時55分 AUTOSPORT web

 2021年始動の電動ワンメイクSUVによるオフロード選手権『Extreme E(エクストリームE)』の第3戦“Arctic X Prix”が、8月28〜29日に北極圏グリーンランドに位置するカンゲルルススアークで開催された。


 同国初開催のモータースポーツ・イベントとして成功を収めた1戦は、北米の名門アンドレッティ・ユナイテッド・エクストリームEから参戦するWorldRX世界ラリークロス選手権の2019年王者ティミー・ハンセンと、ERCヨーロッパ・ラリー選手権などを戦ってきたケイティ・マニングスのペアがシリーズ初優勝を達成。開幕から連勝を飾っていたニコ・ ロズベルグ率いるロズベルグ・Xレーシング(RXR)のヨハン・クリストファーソン/モリー・テイラー組に待ったを掛ける、価値ある勝利を飾っている。


 気候変動の影響が顕著な地球上のあらゆる地域を訪問し、EVによるレースを実施することでモビリティ社会の持続可能性追求と、環境保全の啓蒙を推し進めるという壮大なビジョンを掲げてスタートしたシリーズは、男女平等社会を実現するとの観点も採り入れ、最大出力400kW(約544PS)の電動パワートレインを搭載したワンメイク車両『オデッセイ21』を、男女ペアが1周ずつ交代でドライブして勝敗を競うユニークなフォーマットを導入する。


 サウジアラビア・アルウラ砂漠での記念すべきオープニングラウンドと、西アフリカ・セネガルに位置するダカールラリーを象徴する海岸線、ラックローズの大海原を背景とした2戦を終え、この第3戦は地球温暖化の影響を直接的に体感できる土地、氷河の面積縮小が止まらない人口500名ほどの小さな村を訪れた。


 その永久凍土を臨む比較的開けた大地に設定された8.1kmのコースは、大きな岩から細かい氷河の堆積物など、あらゆるサイズの岩が混在するミックスサーフェースが特徴に。砂丘越えや氷河由来の水湖のほとりを抜け、風と水の流れが形作ったうねりのある路面を疾走する。


 また週末の区間最速ドライバーにボーナス5点が加算される“スーパー・セクター”が設けられたコース後半には、急角度で降りる2回のダウンヒルセクションを経て、大中の岩が散乱する“ロック・ガーデン”では、路面状況を読みながらの速度管理が求められるなど、プラクティスを終えた9チーム、18名のドライバー陣からも「周回ごとに、一度として同じ状況がない」「路面に対するスピードコントロールが難しい」「走行ラインや障害クリアに対する選択肢が多く、チャレンジング」など、概ね「素晴らしいコース設定」と評する声が挙がった。


 しかし未到の地の厳しい自然が育んだタフな路面は、最大出力400kW(約544PS)の電動パワートレインを搭載したワンメイク車両、オデッセイ21の耐久信頼性にも試練を与え、勝負は序盤からアクション満載の展開に。

JBXEを率いて参戦するジェンソン・バトンも現地入り。“雨”が降るカンゲルルススアークの氷河を目の当たりに
あらゆるサイズの岩が混在するミックスサーフェースが特徴の厳しいコースに、開幕2連勝中のRosberg X Racing(ロズベルグ・Xレーシング/RXR)、モリー・テイラーも苦戦
代役のエマ・ギルモアとペアを組んだステファン・サラザン(Veloce Racing)は、セミファイナル1で果敢なアタックに出るも……


■WRC9冠レジェンドが決勝でまずはリードを獲得


 セミファイナル1では、ステファン・サラザン(ヴェローチェ・レーシング)が現役F1王者ルイス・ハミルトン創設のX44から参戦する、9度のWRC世界ラリー選手権王者セバスチャン・ローブとの“フランス人対決”を繰り広げ、危険なロック・ガーデンを通過する際にライバルとは別のラインを選択し、先頭2台を一気に抜き去る見せ場を作ったものの、これが仇となりステアリングアームの破損でストップ。


 セミファイナル2でもマティアス・エクストローム(アプト・クプラXE)操る『e-CUPRA ABT XE1』のドライブシャフトが破損し、RXRで連勝中のクリストファーソンがまさかのトラックマーカー接触で10秒加算ペナルティを受けるなど波乱含みに。


 そして今回からファイナルが5台同時出走となったことを受け、最後の1枠を賭けた『敗者復活』の要素も加えられた“クレイジー・レース”のヒートでは、こちらも元F1王者のジェンソン・バトン率いるJBXEが大逆転での決勝進出権を獲得。


 そのJBXEには前ヒートでのドライバー交代中にタイヤ交換作業違反で30秒加算のペナルティが確定していたものの、SEGI TV チップ・ガナッシ・レーシングのサラ・プライスが1周目に姿を消したことで、ミカエラ-アーリン・コチュリンスキーが首位でスイッチゾーンに飛び込んでくる。


 STCCスカンジナビアン・ツーリングカー選手権唯一の女性ウイナーからマシンを引き継ぎ、30秒の待機時間を消化してコースに飛び出していった2021年WorldRX開幕勝者のケビン・ハンセンは、首位走行中のXITEエナジー・レーシング、オリバー・ベネットを追走する形になるも、そのベネットもジャンプの着地でマシンを壊し万事休す。


 決勝はRXR、X44の常連組とアンドレッティ・ユナイテッド、アクシオナ・サインツXEチーム、そして敗者復活JBXEの5チームで争われることとなった。


 日曜最後のファイナルで好スタートを切ったRXRのモリー・テイラーとX44のセバスチャン・ローブが、ここまでの2戦同様に“F1王者チーム対決”を形成するかと思われたが、電動SUVのオデッセイ21に一定時間のエクストラパワーを供給する“ハイパードライブ”の機能を活用したアンドレッティのマニングスが、その2台の機先を制するかのように序盤のリードを奪っていく。


 しかしコース中盤に差し掛かると、自力に勝るWRC9冠のレジェンドが主導権を握り始め、パックになっていた2番手マニングスと3番手テイラーに対し、約19秒のリードを築いてスイッチゾーンへと戻ってくる。

週末の区間最速ドライバーにボーナス5点が加算される“Super Sector”では、勝者ティミー・ハンセンが順当にその権利を手にした
セミファイナル1から開幕2戦とは様子が違うレース運びとなったRXRのヨハン・クリストファーソン
ファイナル進出を決めたACCIONA | Sainz XE Team(アクシオナ・サインツXEチーム)。慎重に“Rock Garden”を行く


■“WorldRX世界王者同士の一騎打ち”はアクシデントで決着


 するとここでX44のマシンに災いが降り掛かり、右後輪のパンクにより交換作業を強いられる事態に。メカニックと一緒にすぐさま作業に取り掛かり、仕事を完遂したローブだったが、残念ながらこれで首位陥落。代わって2周目の首位に立ったアンドレッティのティミー・ハンセンと、3連勝を狙うRXRのクリストファーソンによる“WorldRX世界王者同士の一騎打ち”が繰り広げられる。


 クロスラインでポジションを入れ替えつつ、サイド・バイ・サイドでジャンプをこなしていったふたりの勝負は、またもアクシデントによる幕切れを迎え、RXRのオデッセイ21はアグレッシブな着地の衝撃に耐えきれずストップ。ライバルの消えたティミーは冷静にフィニッシュまでマシンを運び、シリーズ初優勝を達成。


 2位に「彼らと対戦するのは本当に楽しいし、ヨハン(・クリストファーソン)のジャンプを見たとき、それは無事に済まないだろうと思っていた(笑)」と語ったコチュリンスキーのJBXEが入り、敗者復活からの連続表彰台を獲得。そして3位にはこれがチーム初ポディウムのカルロス・サインツ/ライア・サンズ組が続く結果となった。


「(走行ラインの)選択肢がたくさんあるトラック後半はとても楽しかった。狭いセクションではラップを重ねるごとに深い轍(わだち)が入り、ファイナルでは限界を超えそうになったけれど、今は素晴らしい気分だ」と、勝利の喜びを口にした兄ティミー。「このイベントが無事に実現されただけでも大成功だし、弟のケビンと表彰台に立つのは3戦連続(今季WorldRXでは開幕から2戦連続1-2)だ。本当にクレイジーだね!」


 一方、週末を通じて高い競争力を維持し、勝利に貢献したマニングスも「この結果は想像もできなかったし、文字どおり言葉もない気分よ。ティミーからは多くを学んでいるし、素晴らしいチームメイトとの仕事は本当にクール!」と笑顔を見せた。


「このトラックも今まで見てきたものとはまるで違っていて、毎ラップのように違うことが試されるので本当に面白かった。正しいラインや速度が何であるかを判断するのも難しかったし、準決勝で大きな岩を越えて逆転を狙ったサラザンの功績もあると思う。私はあれでスイッチが入ったし、週末の重要な瞬間だったと感じている」


 直近にはシーズン後半に予定されていた南米2戦のキャンセルを発表したエクストリームEだが、新たに山火事被害に苦しんだイタリア・サルディニア島での1戦を代替地とすることをアナウンス。再び“フローティング・パドック”となる貨客船セントヘレナ号にすべての機材を搭載し、10月23〜24日開催の第4戦“Island X Prix“に向け出航することになる。

現役F1王者ルイス・ハミルトン創設のX44から参戦する、9度のWRC世界ラリー選手権王者セバスチャン・ローブは、ファイナルで主導権を奪うも無念の展開に
決勝はRXR、X44の常連組とAndretti United、ACCIONA | Sainz XE Team(アクシオナ・サインツXEチーム)、そしてJBXEの5チームでの勝負に
「チームの最初の表彰台にとても満足しているが、まだ改善が必要」と3位初入賞のカルロス・サインツ

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