トゥヘル解任からのポッター招へい…チェルシーが決断した監督交代の是非

2022年9月9日(金)15時59分 サッカーキング

解任となったトゥヘル監督と新監督に就任した(右)ポッター監督 [写真]=Getty Images

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 今月7日、チェルシーはトーマス・トゥヘル監督(49歳)を解任し、翌日にブライトンからグレアム・ポッター監督(47歳)を連れてきた。あまりにも早いシーズン序盤の監督交代の正当性と、新監督の“逸話”を精査しよう。

 8月の開幕から数え、わずか33日での解任劇。少し焦り過ぎているように感じる監督交代だが、果たしてそうなのだろうか? プレミアリーグ発足以降、開幕から33日での監督交代は15番目に早い記録となる。チェルシーでは、2000年のジャンルカ・ヴィアッリの「開幕24日目」に次いで2番目に早い交代劇だ。とはいえ、トゥヘルは一昨シーズンの途中、2021年1月にフランク・ランパードの後任としてチェルシーの監督に就任しており、在任期間で考えると「589日」だった。

 開幕から1カ月で解任されたことで、与えられた時間が短く感じるが、実はチェルシーでは2000年以降で5番目に長い政権だった。最長はクラウディオ・ラニエリ(2000−2004年)の「1352日」で、続いてジョゼ・モウリーニョ(2度に渡って指揮しており1204日と927日)、アントニオ・コンテ(741日)、カルロ・アンチェロッティ(690日)となっている。ただし、短命に終わった前任者のランパードと「18日」しか違わないと聞けば、やはり短すぎた気もする。

 成績についても「どこを切り取るか」で全く違った印象を受ける。例えば、リーグ戦での通算成績を見ると、トゥヘルは63試合で35勝17分11敗。勝ちきれずに勝ち点3を取り逃す試合が多くみられ、1試合平均の勝ち点は「1.94」。これは2009年に暫定監督を任されてFAカップを制してサポーターからの人気も高かったオランダの名将フース・ヒディンクと同じ平均ポイントなのだ。しかし、アヴラム・グラント(1試合平均2.31)、モウリーニョ(2.19)、アントニオ・コンテ(2.14)、カルロ・アンチェロッティ(2.07)よりかは低く、それどころかラファ・ベニテス(1.96)や半年ほどで解任されたルイス・フェリペ・スコラーリ(1.96)をも若干だが下回っているのだ。

 それでもトゥヘルといえば、欧州制覇を成し遂げた監督である。トゥヘルは就任から4カ月でチェルシーをクラブ史上2度目のチャンピオンズリーグ(CL)制覇に導いたほか、翌シーズンにはクラブに初めて世界一(クラブワールドカップ優勝)の称号をもたらした。それだけではなく、準優勝に終わったとはいえFAカップとリーグカップでも決勝に進出しており、クラブ史上初めてCL、FAカップ、リーグカップの3つの大会でチームを決勝へ導いた指揮官となったのだ。しかも、就任から1年以内にそれを達成して見せたのである。

 だから、トゥヘル政権の“前半戦”は、ジョゼップ・グアルディオラやユルゲン・クロップにも匹敵する成績であったことは間違いない。トゥヘルはチェルシーで公式戦100試合を指揮したが、最初の50試合では「32勝11分7敗」「81得点24失点」「クリーンシート31回」だった。しかし、その後の50試合は「28勝13分9敗」「87得点53失点」「クリーンシート18回」。勝率は「64%」から「56%」までダウン。そして得点数こそ増えているが、失点は2倍以上に膨らみ、無失点に抑えたクリーンシートの回数もほぼ半減したのだ。

 こうして成績は間違いなく下降線を辿っており、今シーズンも開幕から出遅れる形となって、首位アーセナルに5ポイントのリードを許している。トゥヘル政権はやはり「どこを切り取るか」で全く印象が異なるのだが、最後の17日間を切り取ると、リーズ、サウサンプトン、そしてディナモ・ザグレブ(CL)に敗れるという言い逃れできない悲惨な成績だった。

 無論、解任の理由は成績だけではないだろう。今年5月にクラブを買収したアメリカ人オーナーとの確執も取り沙汰されていたのである。スポーツ専門サイト『The Athletic』によると、トゥヘルはクラブ幹部との補強方針のミーティングで、自分の代わりとして代理人を送ったことがあるという。一方でオーナー側も、そういったミーティングでチーム編成を話し合う際に「4−4−3」の布陣で選手をリストアップする信じられない失態を演じたそうだ。フットボールなのに「4−4−3って…」と、トゥヘル監督がアメリカ人オーナーを疑問視したのは容易に想像がつく。

 プレシーズン中、トゥヘルとオーナー側の溝は広がる一方で、トゥヘルは夏の間に解任される危機さえ覚えたという。また、選手との関係性も雲行きが怪しくなっていた。トゥヘルは夏の間に「チームに残りたい選手」と「それ以外」を分けて別々にミーティングを開いたことがあり、選手の中には“不要”のレッテルを貼られて孤独を感じた者もいたそうだ。

 さらにオーナー側は、夏にブライトンからスペイン代表DFマルク・ククレジャを獲得した際に、ブライトンを率いるグレアム・ポッター監督のキャリアや素性について必要以上に詳しかったそうだ。憶測の域を出ないが、オーナー側は既にその時から監督交代を視野に入れていたのかもしれない…。

 結局、トゥヘルは解任され、ポッターが後釜に座った。既にチェルシーの首脳陣はポッターの手腕や性格を調べつくして好印象を持っていたが、彼を高評価するのはチェルシーだけではない。リヴァプールのクロップ監督は、3月に対戦して2−0で勝利したあとに「彼は間違いなく最高の監督の1人だ」と試合後会見で太鼓判を押した。「ポッターの手腕には敬意を覚えるよ。彼らは試合に負けたが、重要なのは内容なんだ。我々の方が上だったと思うが、間違いなく手を焼いたよ。ポッターのチーム戦術とスタイルに、私はこれ以上ないほどのリスペクトを持っている。“フットボール有識者”の間では、ポッターは非常に高く評価されているんだ」

 マンチェスター・Cのグアルディオラ監督も、過去にブライトンのサッカーを手放しで褒めたことがある。「ブライトンは見ていて楽しいし、それに分析し甲斐があるんだ。私はグレアム・ポッターの大ファンさ。彼らは全選手がポジショニングを理解している。そしてボールを持ったら自由に動きつつも、何をすべきか把握している。そして、どのポジションの選手も勇気を持ってプレーしている」

 そんな一流に認められたポッター監督だが、彼にはちょっとした“逸話”がある。今は立派な髭がお似合いだが、以前は綺麗に髭を剃ってベイビーフェイスを披露していた。2019年にブライトンの監督に就任したあと、最初の2シーズンは“髭なし”で手腕を振るったが、その際のチームの勝率は「24%」。その後、2021年の夏に髭を貯えるようになると、ブライトンの勝率も「36%」へと1.5倍も上昇したのだ。

 以前、好調の理由について髭を指摘されたポッターは「私は合理的なんだ。サッカーとはピッチ上で11人同士が戦うもの。成績がどうだからといって、髭を剃るかどうかは決めないよ。でも、今のところ髭には満足しているんだ!」と語っていた。

 果たして、グレアム・ポッター新政権はどんなサッカーを披露してくれるのか。そして在任期間はどれくらいになるのか。それから、大事な髭はどうなっていくのか。チェルシーの新指揮官の一挙手一投足に注目したい!

(記事/Footmedia)

サッカーキング

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