アプローチは正反対? GT300タイトル争いの鍵を握る『ブリヂストンvsダンロップ』タイヤ開発最前線

2020年11月5日(木)6時45分 AUTOSPORT web

 2020年のスーパーGT GT300クラスは、2レースを残した時点でLEON PYRAMID AMGの蒲生尚弥/菅波冬悟組がドライバーランキングの首位に立っている。これを追うGAINER TANAX GT-Rの平中克幸/安田裕信組は、セーフティカー(SC)が明暗を分けた第6戦鈴鹿での無得点も響いて10点差と、やや苦しい状況に立たされている。


 2020シーズンはすでに何度かレポートしているとおり、GT300クラスではダンロップタイヤの躍進が目立つ形となっている。先日の第6戦鈴鹿の予選では、ウエイトハンデ24kgのK-tunes RC F GT3(新田守男/阪口晴南)がポールポジションを奪っただけでなく、ともにウエイト100kgを積むSUBARU BRZ R&D SPORT(井口卓人/山内英輝)が2番手、GAINER TANAX GT-Rが5番手と速さを発揮。


 しかも、前述のとおりSCタイミングの妙もあって両車ともポイント獲得はならなかったが、決勝でもヘビー級のウエイトハンデを抱えた2台が好ペースを維持することができたことで、ライバル勢に大きなインパクトを残した。


 残り2戦、ランキング2位と5位につけるダンロップ勢は、ブリヂストンを履くLEON PYRAMID AMGに追いつくことができるのだろうか? ブリヂストン勢としては、怪我をした高木真一にかわって松下信治が大湯都史樹と組むことになった、ランキング3位のARTA NSX GT3の動向も気になるところだ。


 ダンロップでおもにGAINER TANAX GT-Rのタイヤ開発を担当する藤田将之エンジニアは今季の好調について、2019年最終戦のツインリンクもてぎでGAINER TANAX GT-Rに投入した仕様が発端になったと語る。


「フロントになかなか荷重が乗らないという部分と、旋回中の剛性感が少し足りないという課題がありましたので、そこをケアした仕様を投入しました。それがうまくハマって、結果(優勝)が出た。今季はその進化バージョンを開発し、持ち込んでいます」


 GT-Rが慢性的に抱えていたアンダーステア症状が、これにより改善。タイヤの進化はフロントがメインだったというが、「リヤにも同じようなものを投入したところ、トラクションが改善したりと、結果的にうまくいきました」(藤田氏)という。


 SUBARU BRZ R&D SPORTとK-tunes RC F GT3を担当する久次米(くじめ)智之エンジニアは「まったく同じではないですが、同じ考え方を踏襲したスペックがBRZとRC Fにも投入されています」と語る。


 2020年のダンロップといえば、GT500でも鈴鹿でPPを獲得するなど光る速さを見せているが、久次米氏によれば「GT500は(NSX-GTだけの)スペシャルなタイヤ。我々(GT300担当)はいろいろな車種に供給しなくてはいけませんから、まったく同じ動きではないです」と両クラスでの好結果に相関はないと説明する。


 GT3規格のマシンへのタイヤ供給という観点からは、ファルケンブランドによるニュルブルクリンク24時間レースなど向けのタイヤも住友ゴム工業内の同じ部署で担当しており、GT300用タイヤはそちらとの相関が強いようだ。


 第6戦鈴鹿決勝では車重のかさむGAINER TANAX GT-Rが四輪交換をする一方、SUBARU BRZ R&D SPORTが二輪交換作戦を採ったが、この先の2レースでもピット時間短縮のための策は視野に入れているという。


「BRZに関しては、摩耗という面では余裕があるので無交換や二輪交換はできますが、あとは前後バランスなどパフォーマンスとの相談になります。BRZはリヤの低下が大きいので、二輪の場合はリヤですね。基本的に富士は、ここ最近はずっと二輪交換をやってきましたが、前回(第5戦)はちょっと重量が重くてしんどかったので、できませんでした」(久次米氏)。

2020年スーパーGT第6戦鈴鹿 SUBARU BRZ R&D SPORT(井口卓人/山内英輝)


 残り2サーキットとの相性については「もてぎはいけるんじゃないかと思っています」と藤田氏。ただ「レオンさんみたいな無交換勢と戦うのは結構厳しいかもしれません」とも漏らす。


 鈴鹿では持ち込みのセットアップもうまく機能したというGAINER TANAX GT-Rの福田洋介エンジニアも、残り2戦の寒い時期におけるタイヤ選択については「大丈夫です」と胸を張っており、決勝での戦略を抜きにした純粋なパフォーマンスとしては「戦える」状態まで持って行けそうだ。トップとの点差が開いている(17点差)SUBARU BRZ R&D SPORTにとっては、二輪交換作戦も駆使したうえで、どこまで勝負できるかということになるだろう。


■「とくに進化していない」ブリヂストンの強み


 一方、2018年はLEON CVSTOS AMGで、そして2019年はARTA NSX GT3でGT300クラスのタイトルを獲得しているブリヂストン。今季は開幕戦で埼玉トヨペットGB GR Supra GTがデビューウインを遂げただけでなく、第4戦もてぎで優勝を飾ったLEON PYRAMID AMGがここまで全戦でポイントを重ねており、オールラウンドでの安定した強さを発揮している。


 第6戦でのLEON PYRAMID AMGは苦手な鈴鹿と100kgのウエイトハンデによって予選では下位に沈んだが、SCの恩恵も受けた決勝では10位でフィニッシュし、ポイントを獲得。しかもフロント2輪交換を成立させていた。

2020年スーパーGT第6戦鈴鹿 LEON PYRAMID AMG(蒲生尚弥/菅波冬悟)


 その決勝前、今季のGT300向けタイヤの開発について話を聞いたブリヂストンの山本貴彦MSタイヤ開発部マネージャーは、意外なことを口にした。


「タイヤ開発における進化ですか? いや、そんなにはないですね」というのだ。


「ウチはもともと1台とか2台で(GT300への供給を)スタートしましたから、そこからGT3車両の経験などが増えていくなかで、(状況に合ったタイヤを)選択する精度は上がっているかもしれません。ただ、その“選択肢”の底上げがすごくされているかというと……正直、そこはあまりないです(笑)」


 にも関わらず、今季を含め近年のGT300で強さを見せているのは、GT500での長年の経験があるからに他ならない。この先も、GT300向けのタイヤに大きなアップデートの予定はないという。


「たとえば6号車さん(ADVICS muta MC86)がピックアップに苦しんでいたりというような明らかな課題に対して『どうしよう』というのはありますが、『大幅に開発をしていこう』というのはいまのところあまり考えていません」


「基本的には、GT500で開発した技術を適材適所で下ろす、というイメージです。GT300にはそれほどリソースを割けませんので、どこか一部にすごく突っ込んで開発をするというよりは、チームさんのニーズにできるだけ応える形で、GT500の技術も含めてリーン(効率的)に対応していくという形です」


 世界的にも類を見ないほど激しいGT500クラスのタイヤ開発競争。そこで得られたノウハウが、いかに“強い”かが伺える話である。地道な開発を昨年〜今年で実らせ追いついてきたダンロップとは、バックグラウンドがそもそも違うのだ。


 残りのツインリンクもてぎ、富士スピードウェイは、ともにLEON PYRAMID AMGが得意とするコースであり、これまでの戦いから考えても無交換や二輪交換は充分に可能……というよりは、もはやデフォルトの戦略ですらあるかもしれない。さらに現状の10ポイントのマージンも含めて考えれば、LEON PYRAMID AMGがタイトル候補最右翼なのは間違いない。


 だが、第6戦鈴鹿がそうだったように、予選までの優勝候補が決勝で一転……という可能性もなくはない。もちろん対抗馬はダンロップだけでなく、ランキング4位につけるヨコハマユーザーのリアライズ 日産自動車大学校 GT-R(藤波清斗/ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ組)にもチャンスはある。


 また、ブリヂストンを履くARTA NSX GT3の高木真一(※第6戦鈴鹿決勝直後に取材。その後、スーパー耐久での怪我により残り2戦の欠場が決定)によれば「次からは寒いので、タイヤ(のスペック)がガラっと変わる。鈴鹿は荷重がかかるので意外といつものタイヤで行けたんですが、寒いもてぎはまったく違うレンジのタイヤを用意することになるので、そこがどう出るか」と、ブリヂストンユーザーも“選択”への不安がないわけではないようだ。


 残り2レース、GT300のタイトルは“足元から”争われる。

2020年スーパーGT第6戦鈴鹿 ARTA NSX GT3(高木真一/大湯都史樹)

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