【インタビュー】FC東京から海外挑戦の安部柊斗、トラブル続出も貪欲に目指すステップアップ…「結果を残して上へ行く」

2023年11月22日(水)12時0分 サッカーキング

初の海外移籍に挑む安部柊斗 [写真]=Getty Images

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 今年7月、安部柊斗は「大好きなクラブ」FC東京に別れを告げ、初の海外移籍を決断した。移籍先はベルギー1部に昇格したばかりのRWDモレンベーク。異国の小さなクラブから貪欲にステップアップを目指す、25歳のボランチの素顔に迫った。

取材・文=高橋羽紋

——今年7月にモレンベークへ完全移籍することが発表されました。海外でのプレーはいつ頃から意識していましたか?
安部 2年前ぐらいだったかと思います。2021年の終わりに(当時FC東京でチームメートだった)渡辺剛選手と田川亨介選手が海外へ行き、日本に帰ってきたとき、その経験談を聞いて、自分も挑戦したいという気持ちが芽生えました。

——移籍先をモレンベークに決めた理由を教えてください。
安部 代理人を通して、「何チームか興味を示してくれている」と聞いていましたが、現実的なオファーを出してくれたのがモレンベークでした。代理人と話して、どういうチームなのか、ベルギーリーグがどういう位置づけなのかを理解して、1部でプレーできるし一番早いタイミングでオファーをもらったので、移籍を決めました。

——モレンベークは2部から1部へ昇格して1年目のクラブですが、チームに合流してみて、どう感じましたか?
安部 率直に感じたことを言えば、FC東京でプレーしていた頃より、レベルは決して高くはないかなと思います。というのも、FC東京の外国籍選手がすごかったので、どうしてもそこと比較してしまう部分があります。FC東京のブラジル人選手たちやGKのクバ(ヤクブ スウォビィク)は、レベルが相当高いんだなと感じました。

——チームに合流してから少し経ち、開幕から1週間前のタイミングで、ヴァンサン・ユーヴラール監督が突然解任されました。当時のことを教えてもらえますか?
安部 日本でいうLINEグループのようなツールに、いきなりフランス語の長文が送られてきました。翻訳機で翻訳してみると、どうやら「監督が代わります」みたいなことが書かれているようで…。すぐに代理人と話して、「これは本当に代わるね…」という感じでした。相当、驚きましたね。

——解任前に前監督から伝えられたことはありましたか?
安部 その日の夜、監督が代わると伝えられて、次の日に練習場に行ったら、もう次の監督がいました。一切、何も話さないまま、解任されてしまいました。自分のことをモレンベークに呼んでくれた監督ですし、プレシーズンマッチでリヨン(フランス)と対戦したときも、僕を45分間起用してくれて、すごく良い評価をしてもらいました。「よし、ここから頑張っていくぞ!」と思ったタイミングだったので、すごくビックリしましたし、「ああ、これが海外なんだな…」と感じることもできました。



——新監督の就任から1週間後に行われた開幕戦はメンバー外。第2節以降もベンチスタートが4試合続きました。この期間はどのような思いで過ごしていましたか?
安部 新しく来た監督にしたら、「なんで日本人がいるの?」という感じだと思うので、そこで自分が起用されるのは難しいだろうなと感じていました。開幕戦はビザの関係でベンチ入りできず、第2節からはベンチ入りして試合に絡むことはできていましたが、最初の2カ月、3カ月はちょっと難しい状況が続くかもしれないと想定していました。なので、今もそうですが、チーム練習の後、プラスアルファで自発的に2部練習を入れたりして、常に準備しているという状況です。

——新たに就任したクラウディオ・カサッパ監督からはどのようなプレーを求められていますか?
安部 監督としては、チーム全体で後ろからビルドアップして、ボールをつなぎたいと思うのですが、現実的にはパスをつなぐことができず、結局、今は大きく蹴ってしまう場面が多くなっています。監督としては「ボランチでもっとボールを受けてほしい」と思っているはずですけど、現実的には(チームとして)全然できていないという状況です。

——ボランチでボールを受けるためには、チームメイトとの連係も大切になってくると思うのですが、「言葉の壁」含め、コミュニケーションはうまく取れていますか?
安部 相当苦労していますね。もちろん、なにも準備しないでベルギーに来たわけではなく、1月から7月まで、約半年間、日本で英語を勉強してから行きました。でも、いざ行ってみると、チーム(の公用語)はフランス語だったので、まず驚きがありました。みんな英語は喋れるんですが、チーム内のコミュニケーションはフランス語なので、そこに入っていけないというのはあります。みんなが盛り上がっていても、何を話しているのかさっぱりわからないって感じです(笑)。ただ、すごく仲良くしてくれるブラジル人選手が1人いて、その選手は英語を話せるので、よくご飯に行ったり、ジムへ行ったりして、そこでコミュニケーションを取っています。徐々に、という感じではありますけど、上達してきているのかなと思います。

——みんなで食事をしてコミュニケーションを取るチームもありますが、モレンベークの場合はいかがですか?
安部 朝食、昼食は、チームで出してもらえますけど、別に全員で一緒に食べるという感じではなく、「好きな時間帯に来て、食べていいよ」という感じです。ただ、代表ウィークでリーグ戦がない週には、チームメートといろいろスポーツをして、そのあとにみんなで食事するみたいな流れが結構あります。なので、みんなで食事する機会は多いと思います。

——クラブの施設はいかがですか?
安部 1部に昇格したばかりのクラブで、練習施設も小さいし、ジムもかなり小さいですね。これから良くなっていくという話は聞いています。

——古巣のFC東京と比べると、やはり環境は全く違いますね。
安部 僕は本当に素晴らしい環境でサッカーをやらせていただいていたんだなぁ、って改めて感じることができています(笑)。



——そんな環境の変化もありましたが、第7節のサークル・ブルッヘ戦では初の先発出場。そこから5試合連続でスタメンに入りました。
安部 それまで試合に出ていた選手が、試合前日にケガをしてしまって。急遽、僕がスタメンで出る形でした。それでも、僕はいつ試合に出てもいいように、しっかり準備をしていたので、初先発でもすんなり試合に入れましたし、その試合のパフォーマンスが良かったので、そのあともスタメンで出ることができました。ただ、そこで結果を残すことができず、最近はまたベンチになったりしています。だから、ここにいると、本当に「結果を出さないといけない」と毎日思いますし、すごく危機感をもっています。

——Jリーグと比較すると、「目に見える結果」を、より強く求められていると感じますか?
安部 そうですね。本当にその通りで、日本よりも海外の方が、より結果を求められていると感じますし、そこで結果を出せば、ファン・サポーターの方々もすごく歓声を出してくれます。アシストも大事ですけど、やっぱりゴールが必要なんだな、と今はより強く感じています。

——ゴールを決めるためには、チームメートからの信頼も大事だと思います。そのあたりの手応えはいかがですか?
安部 昔から言われる「日本人にパスを出さない」みたいな感覚は、一度も感じたことがないです。毎日、自分が練習から100パーセントで取り組んでいる姿を見てくれているから、チームメートは自分にパスを出してくれているんだと思います。試合の中でも、体のキレはすごく出ていますし、体自体の調子も良いです。こっちの選手は体が強くて、まだ球際で負ける場面もありますけど、勝つことも全然あるので、やっていけている感覚はあります。

——フィジカルの強さの話がでましたが、ベルギーリーグとJリーグの違いを一番感じる部分はどのあたりでしょうか?
安部 身体能力ですかね。一番はそこかなと思います。個人のスピード感が違いました。

——プレーしていて驚きを感じることはありましたか?
安部 ベルギーでプレーして、まだ2、3カ月ですけど、一通り全チームと対戦しました。僕が一番ヤバいなと思ったのは、サークル・ブルッヘに所属するケビン・デンキー選手(トーゴ代表)ですね。モレンベークとの試合でも、先制点を決められましたし、めちゃくちゃ体が強くて、ゴツくて、足も速くて、ヘディングも強いし、すごかったです。僕はその試合がちょうど初スタメンで、剛くん(渡辺剛/ヘント)と「よかったね」って話していたんですが、僕が「9番ヤバかったです」と言ったら、剛くんも「彼がベルギーリーグで一番強い選手」と言っていました。間違いなく、自分がこれまで経験したことのない、初めての感覚でした。Jリーグの外国籍選手でも、あれほどの強さをもった選手はいませんでした。

——初めての経験も多いとのことですが、徐々にベルギーリーグに慣れてきた感覚はありますか?
安部 徐々に、ですけど、ありますね。すごく縦に速いサッカーなので、最初は疲れるなという感覚がありましたけど、少しずつ慣れてきました。これがベルギーのサッカーなんだなというのは感じています。



——では、ピッチ外のことについても伺えればと思います。ベルギーの生活にも、少しずつ慣れてきましたか?
安部 だいぶ慣れてきましたね。最初はホテル暮らしでしたが、早く家を見つけて、すぐに決めました。いま住んでいるブリュッセルは、なんでもあって、家の近くにスーパーなども比較的揃っているので、過ごしやすいです。

——モレンベークは少し治安が心配される地域です。身の危険を感じたりすることはありましたか?
安部 いろいろな国籍の方がいる地域です。少し怖い部分もあるので、夜は出歩かないようにしています。この間、ベルギー対スウェーデンのテロ事件(10月16日に行われたEURO024予選。試合会場の近くで銃撃事件が発生したため、試合中止となった)がありましたけど、家から20分のところで起きたので、危ないなとは感じました。そのとき、奥さんもベルギーに来ていて、次の日の朝に空港まで送ったんですけど、まだ犯人も捕まっていない状況だったので、空港も厳重警戒で怖かったです。まぁ、これが海外なんだなと思いますし、相当、メンタルも鍛えられていると思います(笑)。

——海外生活は1人の時間も増えると思います。日々の過ごし方に変化はありましたか?
安部 それは特にないですかね。練習がある日は朝8時ごろに家を出て、帰ってくるのは15時ごろ。日本にいるときも、そのくらいだったと思います。家に帰ったあとは、まず言語の勉強をして、1人なので夕食を作らないといけないので、スーパーに買い物へ行ったり、料理をつくったりしています。あまり慣れていないので、料理に時間もすごくかかりますし、そこまで退屈な時間はないですね。

——海外生活の寂しさはありますか?
安部 いや、今のところは特にないですね。日本はやっぱり良い国だなぁと思うことはありますけど、そこまで日本に帰りたいと強く思うことはないです。

——ベルギーリーグには日本人選手も多く在籍していますが、ほかの日本人選手と交流する機会はありますか?
安部 渡辺選手と連絡を取ったり、ご飯に行くことは多いですし、小川(諒也)選手(シント=トロイデンVV/ベルギー)も家から20分のところに住んでいるので、そこは本当に助かっていますね。小川選手の家族とは、日本にいるときから親しくさせてもらっていたので、かなり助かっています。



——海外でプレーしていくなかで、今後、日本代表も目指していく場所の一つになると思います。日本代表の試合はチェックしていますか?
安部 はい、毎試合チェックしています。見ていて相当レベルが高いなと思いますし、だからこそ、強豪国に勝って結果を残せているんだなと思います。

——安部選手のポジションも競争が熾烈だと思います。ご自身が日本代表に入るために、どんなことが必要でしょうか?
安部 チームで結果を出し続けることが大事だと思っています。逆にそれしかないです。

——明治大学の同期である森下龍矢選手(名古屋グランパス)が日本代表に選出されていますが、同期の存在は刺激になりますか?
安部 そうですね、森下の日本代表選出は刺激になりました。大学のときから、彼が頑張っているところを僕も近くで見ていましたし、2人で切磋琢磨しながらやってきました。彼が先に代表に入って、「やっぱりすごいな」っていう気持ちと、「あぁ、森下が先に入ったか」という悔しい気持ちが両方ありました。彼はJリーグで結果を残して代表に入っています。僕もこの地でしっかり結果を残せば、チャンスがあると感じています。

——森下選手とは日本代表の話をすることはありますか?
安部 この間、森下と話す機会があって、彼は「海外どう?」、僕は「代表入ったね」って話をして、「みんなレベルが高くて刺激になる」っていう話はしましたね。

——日本代表でプレーするイメージも膨らみますね。
安部 そうですね、結構イメージできていると思います。あと、僕はこのチームで結果を残してステップアップしたいです。上のチームにいくことができれば、代表という目標もより近づいてくると思います。今後、代表に行けるのか、すぐに日本へ帰るのか。まずはこのモレンベークで結果を残せるかどうかで決まりますし、自分で選んだ道なので、しっかりやり遂げてから日本に帰りたいです。



——ステップアップという話がありましたが、今後、どのような場所でプレーしたいですか?
安部 ビッグクラブでプレーしたいという気持ちはあります。ベルギーの中にもビッグクラブはあって、アウェイでスタジアムへ行ったときは、その規模の大きさを肌で感じました。「世界のビッグクラブはすごいな。この中でプレーしたいな」という気持ちになりましたし、ファン・サポーターの方々もすごく熱かったです。日本とはまた違うサポーターの熱さが海外のクラブにはあるので、「こういう環境でプレーしたいな」とアウェイに行くたびに思いますね。

——他のリーグへの憧れはありますか?
安部 今は他のリーグについて考えていないですね。ベルギーのトップクラブに行けば、UEFAチャンピオンズリーグやUEFAヨーロッパリーグ、UEFAヨーロッパカンファレンスリーグに出場できますし、今は他のリーグで活躍したいなって気持ちよりも、このベルギーという国でしっかりステップアップしたいという思いが強いです。

——安部選手は、FC東京のアカデミーから昇格できずとも、諦めずに明治大学で成長し、卒業後にトップチームに加わった経歴をお持ちです。現在所属するモレンベークも厳しい環境で苦労が多いかと思いますが、当時と似たような気持ちで上を目指している感覚はありますか?
安部 そうですね、反骨心は常に持っていますし、できると思って、自分を信じながらやっています。日頃の(チーム)練習に加えて、プラスアルファでもっとやらないといけないと思っているので、そこはブレずに取り組んでいますし、たとえ今、ベンチスタートが多かったとしても、日々継続することが大切です。そのなかで結果がついてくれば、もっともっと自分の勢いが出ると思います。まずは「継続する」という気持ちを持ちながら、いまは日々過ごしています。

——最後になりましたが、欧州挑戦1年目となる今シーズンの目標を聞かせてください。
安部 シーズン終盤までスタメンで試合に出ていたいです。そして、日本にいるときもそうでしたが、1シーズンで5ゴール以上は決めていきたいです。もちろん、クラブを降格させないという目標もあります。それを達成するために、しっかり取り組んでいきたいです。



 

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