箱根駅伝、大会新で連覇した青学大、2位駒大、3位國學院大…“3強対決”の結末、勝負を分けたものは何だったのか?
2025年1月9日(木)6時0分 JBpress
(スポーツライター:酒井 政人)
青学大が大会新で連覇を達成
“3強対決”が予想されていた今年の箱根駅伝。終わってみれば、前回王者・青学大が10時間41分19秒の大会記録を打ち立てて完勝した。
2位の駒大とは2分48秒、3位の國學院大とは6分40秒という差がついた。3強はどこで明暗をわけたのか。じっくり考察していきたい。
まずは1区。中大・吉居駿恭(3年)が飛び出し、3強は集団のなかでレースを進めるかたちになった。駒大・帰山侑大(3年)が2位で、國學院大・野中恒亨(2年)が6位、青学大・宇田川瞬矢(3年)が10位。3校のタイム差はわずか12秒で、最初の勝負どころは2区のエース対決になった。
駒大はハーフマラソンで日本人学生最高記録を持つ篠原倖太朗(4年)、國學院大はマラソン日本学生記録保持者の平林清澄(4年)、青学大は前回区間賞の黒田朝日(3年)。権太坂(15.2km地点)の通過はほとんど差がなかったが、終盤は黒田が強かった。平林と篠原を抜き去ると、日本人最高記録(1時間05分57秒)だけでなく、区間記録(1時間05分49秒)を上回る1時間05分44秒(区間3位)を叩き出したのだ。篠原が1時間06分14秒の区間4位で、平林が1時間06分38秒の区間8位。青学大が3位でタスキをつなげると、駒大が18秒差の5位、國學院大が50秒差の8位で中継した。
3区は青学大・鶴川正也(4年)が1時間01分51秒の区間3位、駒大・谷中晴(1年)が1時間02分05秒の区間6位、國學院大・山本歩夢(4年)が1時間01分54秒の区間5位。3強内の順位は変わらず、タイム差もさほどつかなかった。
しかし、4区で差がついた。青学大・太田蒼生(4年)が区間歴代2位&日本人最高の1時間00分24秒で区間賞。1区からトップを独走していた中大に急接近した。一方、駒大・桑田駿介(1年)は1時間01分24秒の区間4位、國學院大・青木瑠郁(3年)は1時間01分09秒の区間2位と好走するも、太田の快走でリードを広げられたのだ。
そして“山”でレースが大きく動くことになる。
青学大コンビが山でそろって区間賞・区間新
5区は前回1時間09分32秒(区間2位)の青学大・若林宏樹(4年)が1時間09分11秒の区間新記録。駒大は「1時間8分台」を目指した山川拓馬(3年)が1時間10分55秒の区間4位と伸び悩み、往路4位に終わった。國學院大は、「1時間10分台ぐらいでいけるかな」と前田康弘監督は話していたが、高山豪起(3年)が1時間12分58秒の区間14位と苦しみ、往路を6位で折り返した。
トップ青学大とのタイム差でいうと、駒大は3分16秒、國學院大は5分25秒。復路での逆転Vをイメージしていた國學院大の前田監督は「1分半なら逆転できる」と息巻いていたが、往路で3冠の野望はほぼ絶望的になった。
復路の戦力を考えると、青学大に迫るチャンスがあったのはスピードキングの佐藤圭汰(3年)を残している駒大だった。そして藤田敦史監督は当日変更で“切り札”を7区に投入。6区には前々回、58分22秒で区間賞に輝いた伊藤蒼唯(3年)を配置しており、「6、7区で流れを変えたい」と逆転Vの希望を3年生コンビに託していた。
6区は駒大の伊藤が区間歴代5位の57分38秒(区間2位)で快走するも、先にスタートした青学大・野村昭夢(4年)がさらに強烈だった。前回58分14秒(区間2位)と好走した野村が、今回は区間記録(57分17秒)を30秒も更新する56分47秒という驚異的なタイムで山を駆け下りたのだ。
野村が伊藤を51秒も引き離したことで、青学大と駒大のタイム差は4分07秒に拡大。原晋監督のいう「ピクニックラン」になるかと思われたが、駒大は7区佐藤のスピードが爆発する。本格的なトレーニングを開始して2か月ほどながら、区間記録(1時間01分40秒)を1分近くも塗り替える1時間00分43秒で突っ走ったのだ。
青学大との差を一気に2分27秒も短縮して、両者の差は1分40秒になった。しかし、駒大の追撃もここまでだった。
青学大は8区の塩出翔太(3年)と10区の小河原陽琉(1年)が区間賞。大会新記録で連覇を達成した。2位は駒大で、復路優勝・復路新。復路を6位でスタートした國學院大は底力を見せて、早大との3位争いを制した。
箱根駅伝へのピーキングは青学大が上だった
レースを振り返ると、今大会は“山”が勝負を分けたと言っていいだろう。
3強の5区と6区のトータルタイムは青学大が2時間05分58秒、駒大が2時間08分33秒(青学大と2分35秒差)、國學院大が2時間12分39秒(青学大と6分41秒差)。総合タイムは青学大が10時間41分19秒、駒大が10時間44分07秒(青学大と2分48秒差)、國學院大が10時間50分47秒(青学大と6分40秒差)。3強は平地区間のタイムはさほど変わらず、山のタイム差がほぼそのまま総合成績のタイム差になっているのだ。
山は青学大コンビが“想定以上”だったのに対して、駒大は5区の山川が“誤算”だった。山川は全日本大学駅伝の最終8区を日本人歴代2位で走破。2分37秒先にスタートした青学大・塩出を大逆転している。「山の神」の期待が高かった選手だが、「全日本で出し切った後に、今度は上り区間に合わせていくのが難しかった。特殊区間の準備が足りていなかったのかなと思います」と振り返った。なお、青学大・若林は全日本に出場していない。箱根駅伝へのピーキングは駒大よりも青学大の方が上だったといえそうだ。
山で大きく後れをとった國學院大も5区と6区の「読み」が甘かった。結果論になるが、エース平林が本調子ではなかったことを考えると、1区に青木を起用して、ライバル校を引き離す戦略を取った方が良かったような気がしている。いずれにしても青学大を追いかけるかたちで山に入った時点で勝負が決まったといえるだろう。
筆者:酒井 政人