美術品クラスの名器で佐賀の美食を味わう「USEUM SAGA」に行ってきた!

2025年1月31日(金)20時0分 食楽web


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「USEUM SAGA(ユージアムサガ)」というイベント名を耳にしたことはあるでしょうか? 美術館に飾るような器で佐賀の美食を楽しむためのスペシャルイベントとして、不定期に、佐賀県のどこかにたった数日間だけ出現するプレミアムレストランです。

 有田焼や唐津焼、伊万里焼で知られる焼き物の里・佐賀の器+豊かな海山の自然に育まれた佐賀食材+佐賀出身の気鋭の料理人。佐賀の魅力を結集させながらこれまで5回開催され、ローカルガストロノミーを堪能する貴重な機会として注目を集めています。

 昨年末、3年前の第1弾でシェフを務め、現在は福岡で活動する増永琉聖さんが佐賀に凱旋し、さらにパワーアップさせた技術や感性を再び表現する「USEUM SAGA REVIVAL」が開催されることに。情報を聞きつけた編集部は一も二もなく参加してきました。

佐賀が生んだ若き才能が躍動するフルコース


「USEUM SAGA REVIVAL」の舞台となった「ARKSカフェ」

 2024年12月、「USEUM SAGA REVIVAL」が開催されたのは佐賀県庁北側のARKSカフェ。各回16名限定のスペシャルコースが2日間で3回展開されました。

シェフを務める増永琉聖さんは佐賀県佐賀市出身。高校卒業後からイノベーティブレストランとして高く評価される「オーグードゥジュールメルヴェイユ博多」で腕を磨き、若干22歳で佐賀のオーベルジュ「arita huis(アリタハウス)」のヘッドシェフを務めた才気あふれる料理人です。その後も福岡の「nishimura takahito restaurant」のヘッドシェフとして研鑽を積み、一旦レストランを離れて福岡のパン業界を牽引する「パンストック」でパンの研究に打ち込みます。

 そして、この12月にパティスリー「ravi」のオープンを控える超多忙の中、「USEUM SAGA REVIVAL」で入魂の料理を振る舞ってくれます。


シェフを務める増永琉聖さん

 そして、ドリンクサービスで料理に華を添えるのは、福岡県大牟田市出身の園田静香さん。日本酒業界のカリスマ・千葉麻里絵さんの店『EUREKA!』で店長を務めるドリンクのプロフェッショナルです。

 この日のためにノンアルコールを含む8種のオリジナルドリンクと、厳選した佐賀の地酒を用意しています。


ドリンクサービスを統括する園田静香さん

【コース料理の全貌】美術品クラスの極上の皿に盛り付けられる個性豊かな料理たち


佐賀ゆかりの品で装飾された空間で、ウェルカムドリンクからコースがスタート


「セコガニ 戸矢かぶ」

 コースの幕開けを飾ったのは、見た目のインパクトも強烈な一品。ズワイガニのメスであるセコガニと、佐賀県有田町で古くから栽培されてきた戸矢かぶを使ったアミューズです。

 器はカニの甲羅を正確に再現した李荘窯業所製の磁器。あえて裏返しでアミューズの台座として使っているのもユニーク。カニの旨みがかぶのやさしい甘味、爽やかのユズの香りと一緒に口いっぱいに広がります。


「キャベツ」

 続いて登場したのは、生、炒め、長時間ローストと3種の火入れのキャベツをまとめて揚げたコロッケ風の揚げ物。キャベツとはこんなにも味わい深い野菜だったのかと驚かされます。


「栗坊南瓜 サフラン」

 スープは甘みの強いミニカボチャ、栗坊南瓜を使ったポタージュ。唐津市で栽培されたサフランで香り付けされています。世界一高価なスパイスとも言われるサフランが国内で栽培されていることにまずビックリ。上品なスープの味わいにウットリしてしまいました。器は共に224porcelain製。「キャベツ」の下に敷かれているのは、佐賀特産の名尾手すき和紙。


「東鶴ソルティドッグ」

 ウェルカムドリンクとしていただいたのは、純米酒粕焼酎 「天山マスク」と柑橘あまくさのお湯割り。熟したリンゴを思わせる香りが豊かに広がります。

 続いて、多久市で醸されている日本酒「東鶴 純米 冬支度」を使ったソルティドッグをいただきます。コクのある日本酒にレモンの酸味と粗塩の塩味、ミントの香りをプラス。個性の強い素材を繊細にまとめ上げる園田さんのセンスに脱帽です。


「しいたけ」、「トマト」

 椎茸、トマト、ナスと野菜が主役の料理が3皿展開されました。

「しいたけ」は、鰹出汁、ニンニクとネギから取ったオイルを使って低温火入れした椎茸を香ばしく焼き上げたもの。椎茸をバターで炒めて乾燥させたパウダーがたっぷりとまぶしてあります。椎茸をしっとりジューシーに仕上げながら、本来の旨みが最大限引き出されています。器は人間国宝の十四代今泉今右衛門作。一般的に人間国宝の陶芸家が料理皿のような生活食器を手がけることは珍しいが、「USEUM SAGA」のために特別に作ってもらったそうです。その美しさたるや、流石の一言。

 人間国宝である井上萬二作の碗に鮮やかに盛られているのは、トマトをトマト出汁と梅酢で浅漬け風に仕上げた「トマト」。澄んだガスパチョのジュレがかけられた、なんとも涼やかな一皿です。


「ナス」

 李荘窯業所の器に盛られた焼きナスに目の前で出汁がたっぷりとかけられたのは「ナス」。鶏をベースに牛、豚、納豆やキムチ、酒粕などの発酵食品でとられた風味豊かな出汁が、香ばしく甘味が引き出されたナスと見事に調和しています。

魚料理からメイン、デザートまで佐賀を食べ尽くす。美しい皿と料理の競演


左:「鯖」、右:「穴子 佐賀海苔」

 こちらは魚料理の3品。乳白色の素地に鮮やかな色絵が施された美しい皿で登場したのは、生の刺身を卵黄を使ったソースとピリ辛の醬(ジャン)でいただく「鯖」。分葱の油と削ったカシューナッツも絶妙なアクセントになっています。

「穴子 佐賀海苔」は穴子のベニエ(フランス風の天ぷら)に、佐賀海苔と嬉野のほうじ茶を使ったソースを合わせた一品。ふっくらと淡白な穴子はそれだけでもしみじみ美味しいですが、力強い海苔とほうじ茶の香りをまとって一気に深い味わいになっています。


「アオリイカ 牡蠣」。器は井上萬二窯

「アオリイカ 牡蠣」は、ほうれん草と小松菜のサラダ仕立て。中にはソースのように葉っぱとからめてもらうためのマリネした牡蠣、アボカドやヨーグルトと合わせたアオリイカが仕込まれています。牡蠣とアオリイカは有明海に面する太良町から。海と大地の滋味の競演です。


「レンコン 白子」。器は中里太郎右衛門陶房

 深い黒色の器に白い泡。白黒のコントラストが印象的な料理がやってきました。

 穴に鶏ひき肉を詰めたレンコンは鶏と豚の出汁でホクホクに蒸し上げられています。泡の正体はアサリ出汁をベースにした白子のソース。口当たりはやさしくも、噛み締めるほどに力強く広がるコクがたまりません。


「そうめん」。器は今右衛門窯

 口直しは、ユズの酸味が効いたジュレ状の出汁でいただく「そうめん」。使っているのは神埼市名産の神埼そうめんです。

メインは佐賀で盛んに飼養されている「みつせ鶏」


「みつせ鶏」。器は李荘窯業所

 メインはじっくりローストされた「みつせ鶏」。皮目は肉醤を塗ってカリリと香ばしく焼き上げ、身の方はニラのペーストを塗って瑞々しく仕上げています。鶏ってしみじみ美味しいなあと、思わずため息が漏れる一皿!

〆は滋味深きスパイスカレーを


「カレー」。器は中里太郎右衛門陶房

 〆の食事はイノシシのスパイスカレー。今回のコースで出た野菜の切れ端の出汁でじっくり煮込まれたカレーを、キャロットラペとたくさんのパクチーと一緒にいただきます。お米ももちろん佐賀県産。土鍋でパッツリ炊かれた甘味の強いごはんは、スパイシーなカレーと相性抜群です。

デザートは佐賀食材の愛が詰まった3皿!


左:「デコポン」、右上から「甘酒」、「酒粕」。器は3種とも「224porcelain」。

 増永シェフは今回のレシピ考案のためにリサーチを重ねる中で、数々の優れた佐賀食材への愛情を募らせたあまり、メニューはどんどん増えてしまったそうです。ここまでですでに13品。デザートもなんと3種用意されていました。

 1つ目がマリネしたデコポンとブランマンジェをデコポンのジャムと共にいただく一品。甘味と酸味のバランスが素晴らしいデコポンの持ち味を堪能できます。

 2つ目はアイスクリームデザート。餅米と甘酒で作ったアイスクリームにやはり酒粕で作ったクランブルをトッピングしています。キャラメルソースも甘酒で作ったもの。甘酒づくしの一品です。

 最後は今回、増永さんの高校時代の先輩で、佐賀県伊万里市のカフェ「LIB COFFEE IMARI」でパティシエとして働いている松尾和泉さんが焼いたプティフール。お菓子作りで余ってしまう卵白と酒粕を使ってふっくらと焼き上げられています。

 カレーですでにお腹いっぱいでしたが、デザートも自然で軽やかな美味しさなので、ペロリと平らげてしまいました。


 今回結集したスタッフは全員が20代。普段はそれぞれ別の店で活動している仲間たち。生き生きと楽しみながら取り組む様子が印象的でした

 増永シェフは、今回のイベントでの気づきについてこう話します。
「以前から感じていたことですが、佐賀の食材は“力強い”と改めて実感しました。トマトはトマトらしく、ナスはナスらしく、ただ甘いだけ、食べやすいだけではなく、しっかりした存在感があるという印象。僕はそんな佐賀食材で料理をすると、とてもしっくりくるとう感覚があります。一つひとつの素材がすでに完成されたものなので、僕の仕事はその持ち味を壊さずに寄り添うこと。試作も楽しすぎて、ついこんなに品数が多くなってしまったのですが(笑)」

 園田さんも佐賀への想いを強くしました。
「子どもの頃から両親によく佐賀へ遊びに連れて行ってもらいました。佐賀は文化も人柄も芯が強いというイメージ。増永さんが佐賀食材が力強いと言うのもよく分かります。正直、佐賀産の素材でドリンクを構成するだけになってしまわないか不安な部分もありましたが、増永さんの試食会で不安は一気に解消されました。増永さんの料理は、佐賀食材を生かす増永さんならではの料理だったから。増永さんの料理に合わせるのが私の役目だと、はっきりとした軸ができたからです。とても貴重なチャレンジをさせていただきました」

 スタッフの皆さんの生き生きとした笑顔は、いかに大きな手応えを得られたかを物語っています。

 それにしても、美味しかった! 楽しかった!!

●増永琉聖(ますながりゅうせい)
1998年佐賀県佐賀市生まれ。佐賀県立牛津高校を卒業後、2016年オーグードゥジュールメルヴェイユ博多に勤務。小岸明寛シェフ(太良町出身)のもとで研鑽を積み、2018年、「arita huis」(佐賀)に勤務、2020年よりヘッドシェフを務める。その後、福岡のイノベーティブレストラン「nishimura takahito restaurant」(福岡)のヘッドシェフに抜擢される。今年7月に同店を退職し、一旦レストランを離れ、福岡のパン業界を牽引する「パンストック」に勤務。2024年12月、パティスリー「ravi」(福岡)をオープン。

●⚫︎園田静香(そのだしずか)
1995年福岡県大牟田市生まれ。中村調理製菓専門学校(福岡)卒業後、東京都内のレストランに勤務。日本酒業界のカリスマ・千葉麻里絵氏の日本酒アプローチに惹かれ、「GEM by moto」(東京)に入社。千葉氏が考案する口内調味や日本酒ペアリングのスキルを学ぶ。その後、千葉氏の独立とともに「EUREKA!」(東京)立ち上げに参加。同店の店長として従事。

(撮影◎水田秀樹、文◎渡辺高)

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