家族が認知症になりまして 第3回 もっと「縁起でもない話」をしよう―介護、相続、お墓…LIFULL 介護編集長に聞く、“親の終活”との向き合い方
2025年2月10日(月)8時15分 マイナビニュース
家族の認知症との“精神的な向き合い方”について主に考えてきた本連載。当事者にとっても家族にとっても、“よりよい介護生活”を考えたときにどんな選択があるのか。それを実現するための費用はどのように考えればよいのか。そして、何よりも難関である「親の終活」についてきちんと話し合うにはどうすればいいのか。
今回は認知症になったときに受けられる公的サービスへのアクセス方法と種類などに注目し、「LIFULL 介護」の編集長で、各メディアで介護や高齢期の諸問題について発信されている小菅秀樹さんに、親の介護につながる基礎知識を教えていただきました。
「LIFULL 介護」編集長 小菅秀樹さん/神奈川県横浜市生まれ。老人ホーム・介護施設紹介業の主任相談員として、1,500組以上の入居をサポート。入居相談コールセンターのマネジメント、コンテンツマーケティングを経て、2019年より現職。各メディアでは介護や高齢期の諸問題について解説や監修を担当、一般向け/企業向け介護セミナーにも登壇するほか、SNSやYouTube等でも介護や老人ホームに関する情報発信を行っている。
○「認知症かも」と思ったら、何科を受診するのがベスト?
——まず、認知症の診断のために何科に行くのがベストなのか気になります。脳神経外科や精神科、もしくはもの忘れ外来などが選択肢になってくると思いますが、科によって診断後のケアに違いはあるんでしょうか。
基本的に大きく変わることはないと思いますが、認知症に特化した専門的な病院が近くにある場合はそのほうがいいと思います。やはり、認知症に関する情報量が違いますから。例えば、老人性うつ病なのか認知症なのかという線引きは難しいと言われています。一度うつ病と診断された方でも、あとあと認知症だったと診断が覆ることも珍しくはないんですね。なので、専門医のほうが知見や情報量の蓄積という面から安心だと思います。
——そもそも「認知症かも……」という段階で本人を病院に連れていくのに苦労する人が多いと思います。
そうですね。どんなに家族が言っても、本人は受診拒否するほうがむしろ当たり前だと思います。なので「最初はかかりつけ医に行きましょう」と私はいつも言っています。
——内科でもいいということですか?
もちろんです。内科は幅広く知識あるドクターがいらっしゃいますので、まずは内科の先生に診てもらって、専門的な病院を紹介してもらう。そのほうが入口としてご本人も安心されると思うんですよね。かかりつけ医を受診するときは、あらかじめ病院に連絡しておいて「実は認知症の疑いがあるので、先生からひとこと言ってもらえませんか」と伝えておくとスムーズだと思います。
——たしかに親世代は、お医者さんや権威のある人の話は素直に聞く傾向がありますね。
そう、専門職の言葉というのは強いんですよ。だから、そこを有効活用する。ふだん、病院に行っていない方であれば、地域包括支援センター(以下、包括)に連絡をするのもいいと思います。包括の職員の方はその地域にどのような病院があるのか把握していますので、まずは状況を説明して家に来てもらう。そこで「1回検査をしておくと安心ですよ」ということを第三者の立場から言ってもらうのも効果的だと思います。
○公的サービスにつながるには地域包括支援センター
——包括は、介護認定を受けるなど高齢者が公的サービスにつながるときにお世話になる機関ですよね。ただ、どの段階から相談していいのか迷います。
そもそも包括の存在を知らない人のほうが多いかもしれません。包括とは、介護・医療・保健・福祉などの側面から高齢者を支える「総合相談窓口」で、各市町村に設置されています。相談のタイミング自体は、認知症の症状が出る前からでも全く問題はないんですよ。包括には介護予防という役割があり、地域の人をなるべく「要介護」にさせたくない。例えば私の父は一昨年に亡くなったんですが、自宅には包括の人が月に1度くらい来てくれていました。高齢者が多い地域だったというのもあって、地域の情報は知っておきたいんでしょうね。ですから、認知症なのか、もの忘れなのかわからない状態での相談もむしろ歓迎だと思います。
——相談は、家族が包括を訪ねる形ですか?
対面相談だけでなく、電話でも相談できます。事業所によってはメールやLINEで対応できるところもあるようなので、まずは管轄を調べて連絡してみるといいと思います。
——デイサービスなど、介護保険サービスを利用するための介護認定を受ける場合も包括ですよね。
そうですね。役所あるいは包括に行って申請をすることになります。その後、行政から委託された訪問調査員が来るわけですが、認定を受ける際にはポイントが2つあります。ひとつは、生活の様子を知る家族が必ず認定調査に立ち会うということ。これは“業界あるある”なんですけど、調査の人がくると、本人は信じられないくらい元気になったりするんです。背筋をピンとして、「全然困ってません」となる方が本当に多いんですね。なので、家族が立ち会って、ふだんの様子をきちんと伝えること。
——わかります。他人の前だとシャキッとするんですよね。
そうなんです。そのために日頃何に困っているのか、どんな症状が出ているのかをしっかり記録しておくことも大事ですね。
——私は認定に立ち会ったんですが、父の前で困りごとを伝えるのは、本人を傷つけそうで難しいなと感じました。
わかります。なので、ふだんの状態をメモにしておいて、調査員にこっそり渡すのも有効だと思います。ちゃんと訴えないと、想定より軽い判定がつきやすくなりますから。
——やはり、症状にあったレベルをつけてもらったほうがいいんですか?
介護認定は要支援1、2と要介護1〜5の7段階にわかれていて、数字が上がるほど、よりお手伝いが必要な時間が増えるという意味合いがあります。それによって介護保険サービスを利用できる範囲も決まりますが、最近は財源の問題もあって軽い判定が出やすい傾向にあると言われています。そうすると必要なサービスが受けられないかもしれないですよね。
○介護のパートナーとなるケアマネージャーの選び方
——介護認定の結果が出ると、ケアマネージャーさんに介護サービスを受けるのに必要なケアプランを立ててもらうことになると思いますが、ケアマネージャーさんは選ぶことができるんですか?
はい。ケアマネージャーは居宅介護支援事業所に所属していて、要介護認定の結果通知と一緒に、地域にある事業所の一覧が同封されていたり、あるいは包括に行けば事業所の一覧をもらえて、そこから選ぶことになります。
——何を基準に選べばいいんでしょうか。
個人的に一番おすすめなのは、包括に推薦してもらうことです。自分で探そうと思うと、地域の居宅介護支援事業所に一軒一軒連絡することになって大変だと思うんですね。包括の人はそれぞれの事業者の情報を大体把握しているので、包括に聞くのが一番早い。
——その中でいいケアマネさんに出会うための方法はありますか?
ポイントは、「専門性」と「人間性」です。専門性は人それぞれで、例えば痰の吸引やインスリンの注射など医療行為が必要な状態なのであれば、看護師出身のケアマネージャーさんを選ぶ。あるいは認知症の症状がある場合は、介護福祉士の資格を持っていて現場経験があり、認知症ケアに対しての知見が多い人を選ぶ。包括にそういう観点で探していることを伝えればアサインしていただけると思います。
——ケアマネさんによって得意分野が違うんですね。
そうなんです。もう1つは人間性です。結局、ケアマネージャーと信頼関係を築けることが大事なので、人間性の部分は大きいと思います。例えば介護の専門用語を多く使われた場合、「わかりやすい言葉で伝えてほしい」と要望しても変わらない場合は、合わないのかなとか。それから、ご本人や家族の意見を何でも聞く人のことは業界で“御用聞きケアマネ”と呼ばれているんですけど、そういう方もあまりよくないと個人的には思います。
——要望を叶えてくれるのは、一見よさげですが……。
一見そうなんですが、それよりも、こちらの要望を聞きながら、もっといい方法がある、こうしたほうが費用を抑えられるという提案をしてくれたり、「本人の本来できるはずの能力も奪ってしまいかねません」とはっきり言ってくれる人のほうが、私はいいと思います。闇雲に介護サービスを増やせばいいというわけではないんです。ただ、契約の段階ではそこまでわからないので、ある程度付き合ってみて、合わないと思ったらケアマネージャーを変更することもできます。最初から慎重になりすぎる必要はないと思いますね。
——変更できるんですね。一度決まるとずっとお付き合いしていくものだと思っていました。
そう思いますよね。よく「せっかく包括の人に紹介してもらったから、いろいろ言いたいことはあるけど我慢している」という話も聞きますが、言いづらいことも言える関係性を築けることが、信頼に繋がっていくと思います。包括の方も「人対人」なので、当然ミスマッチが起こりうることは前提としています。ただ変更する場合は何がだめだったのかを、紹介元の包括に相談してほしいですね。そうしないと、別の方を紹介したところでまた同じことが発生する可能性が高くなりますから。
○運動や料理に特化!? デイサービスにもトレンドあり
——ケアマネさんを通してデイサービスなどの施設を決めていくことになりますが、デイサービスの選び方や最近のトレンドはありますか?
最近のトレンドとして、「特化型」が増えています。例えば、スポーツジムに近い感覚の空間で、体を動かす機能訓練を行う運動特化型。また、ここ数年では、プロのシェフと一緒に料理を作ることができる、お料理特化型のデイサービスも注目されています。料理は認知症や介護予防にいい影響があると言われているので、「機能訓練」にもいいと評判になっています。
——デイサービスというと、折り紙など子どもの遊びをしているイメージが強くて、本人も行きたがらないという問題がありますが、そういうところだと楽しく通えそうですね。
これから団塊の世代が介護サービスを利用する時代になっていくので、企業も団塊の世代がどういうサービスを好むのか研究している。みんなで集まって同じことをしましょう、というのは受け入れられないのもわかっています。今後はそれぞれの趣味趣向に合ったものを少人数で展開するものが流行るんじゃないかと思いますね。
——そういうデイサービスも、ケアマネさんに希望すれば探してくれるんですか?
探してくれます。そういう知識量が多いのも、“いいケアマネージャー”の条件かもしれませんね。最近は夜だけ見守りに来てくれるサービスなど、介護保険の枠に縛られない自由な形のサービスも増えてきています。地域の新しい情報に詳しくて、要望や関心に合わせて提案してくれるケアマネージャーは本当に頼りになります。
○介護サービスを利用する場合の平均費用は?
——介護サービスを利用する際に気になるのが費用です。うちはまだ認知症の初期なので、今後利用する年数は長いと予想すると年間どれぐらい使っていいものなのか。
生命保険文化センターの調査によると、毎月の介護費用は在宅介護の場合、平均で5万円前後です。ただし、持ち家なのか賃貸なのか、預貯金の金額など家庭の状況は違うので、平均ばかり見るのは意味がないと思います。これは完全に個人的な意見ですけれども、平均にとらわれずに、「いくら出せるか」という範囲内でやるのがいいと思いますね。当然、ケアマネージャーは経済状況を考慮した上でケアプランを組んでくださると思います。
——先々ホームに入居する場合、どの段階で考えるものですか?
世の中的には“介護が必要になったら入る場所”という感覚が強いですよね。LIFULL 介護への問い合わせも、入居する本人ではなく、お子さんからの問い合わせが9割近くというのが現状です。ただ、数年前に比べると高齢者ご本人からの問い合わせが少しずつ増えています。自分の老後の生き方に関心を持つ人が増えてきているんですね。広い一戸建てを管理するのは難しいので、早めにシニア向け住宅に住み替えたほうがいいんじゃないか、という選択をする方も少しずつ増えている。ご本人がどういう生活を望むのか、早めに話しておいたほうがいいのではないでしょうか。
——在宅介護よりもホームを選ぶ方のほうが多いんですか?
要介護者の全体からすると、在宅介護のほうが圧倒的に多いです。住み慣れた住環境から変化したくないことや、費用もありますね。在宅介護と施設介護では、かかる費用が数倍変わってきます。先ほど在宅介護は平均5万円ぐらいとお話しましたけど、施設介護の1ヶ月の平均金額は12万2千円。そこには特別養護老人ホームなどの公的なホームも当然入っていると思うのですが、特別養護老人ホームは要介護3以上でなければ入居が難しいという現実があります。しかし民間で探すと、さらに金額は上がります。
○家族で「縁起でもない話」を円滑に話す方法とは!?
——本人が望む形を叶えるためにもお金の話はしっかり話さなければいけないと思うのですが、なかなか具体的な話ができないのが現状です。貯金額などはっきり言いたがらないんですよね。皆さん、どうされているんでしょう。
私はよくセミナーで、「縁起でもない話をしよう」とお話します。介護だけでなく、例えば延命治療や相続、葬式やお墓の問題などは、皆さん、すべからく先送りされますが、そのうちに介護が始まったり、入院することになって急に話すケースが非常に多い。でも、急に話して上手くいくケースはあまり多くありません。
——では、どのタイミングで話すのがいいんでしょうか。
まずは、もっと親の生活に関心を持つこと。帰省時だけでなく、親との連絡頻度をもう少し増やしませんか。電話やLINEで週に1度連絡をして、「最近どう?」「前に病院に行ったって言ってたけど、その後生活で困ってることない?」と、気にかける言葉をかけることが大事だと思うんです。
——耳が痛い話ですね……。
多くの人がそうだと思います。親としては困っていることがあってもギリギリまで言わないか、ギリギリになっても言わないんです。「子供に迷惑かけたくない」という思いが、結果的には雪だるま式に膨れ上がった状態で子供に降ってくる。それを事前に察知する術は、コミュニケーション頻度だと私は思います。私は母親とLINEをよくしているんですが、コミュニケーション頻度を増やすことによって信頼関係が築けて、財産の話など、ふだん言えないような話もしやすくなってきました。
——お互い顔を合わせたときに話そうという意思はあっても、実際には話が進まないので参考になります。
半年に一度の帰省ですと、「久しぶりに会ったんだから、楽しい時間にしたい」となりますよね。親としては「子供たちに迷惑かからないようにしてる」なんて言いながら、実は具体的なことは何もしていないということも多い。なので、コミュニケーションをとりながら、早めに先手を打つことが大事だと思います。
加治屋 真美 エンタメ系ライター。テレビ誌ライターとして日本のドラマや映画出演者のインタビュー記事を担当するほか、日韓アイドル好きが高じてライブレポートも多く手掛ける。現在は父親が認知症になったことをきっかけに地域共生社会へ興味を持ち執筆ジャンルを拡大中。▼ポートフォリオ▶ この著者の記事一覧はこちら