「中学受験からの撤退」を決断する前に考えておくべき、後悔しないための判断基準
2025年2月18日(火)21時25分 All About
とりあえず始めた中学受験。やってみたら、成績が伸び悩み、親子関係も悪化。泥沼にハマって撤退を考える瞬間もあるでしょう。撤退を決断する前に知っておきたいこと、考えておきたいこととは。
12歳の子どもたちが合否という結果が出る試験にチャレンジしている姿を見ながら、それぞれがこれまでどんな日々を過ごしてきたのかと思いをはせると、少しうるっとしてしまいます。
とりあえずで始めると受験沼にハマる中学受験
中学受験は数年をかけて準備する家庭がほとんどなので、その道中ではさまざまな葛藤が生まれます。よくあるケースが
・子どもの成績が伸びず、親の方が焦ってしまう
・勉強しない、やる気がない子どもにイライラ
・中学受験を始めてから「親子ゲンカ」が増えて、家庭の雰囲気が悪くなった
・今の受験勉強が、本当に子どものためになっているのか分からない
こんな悩みを抱え、1度や2度は、「このまま続けていくべきかどうか、迷った」というご家庭も少なくないのではないでしょうか。
あるご家庭では、お子さんに好きなことに思い切り取り組んでほしいという思いから中学受験を選択。しかし子ども1人ではなかなか家庭学習が捗らず、上下する成績に翻弄され、ついつい言葉を荒らげてしまう日々に親の方が疲れ果て撤退を決意しました。
このご家庭も、最初は偏差値なんて気にしていなかったはずなのに、始めてみるとテストを受けるたびに届く成績表に記載される偏差値が気になり始め、知らず知らずのうちに受験の沼にハマっていってしまったのです。
受験は全てそうなりがちな面がありますが、中学受験は特に、レールを敷くのは親、実際にやるのは子どもという二重構造の中で、親子で一緒に挑むからこそ起きる葛藤があります。
そして、とりあえずで始めた結果、他者や外部のモノサシに敏感になって振り回され、成績や生活のことでケンカになり、何のために受験していたのか分からなくなっていく……。思いもしなかった事態に巻き込まれて、中学受験の迷路にハマる親子を筆者は何組も見てきました。
最近は共働きの家庭が増えているので、仕事と子どもの受験サポートの両立に悩む家庭も増えている印象です。
撤退も悪くはないが、問題の先送りは意味がない
また、近年中学受験の問題も難しくなっていて、30年以上この世界を見てきた老舗塾の代表は、「当時の最難関校の問題が今の中堅校のレベルになっていて、以前のような暗記型の問題ではなくなっている」といいます。自分も中学受験経験者だという方もいると思いますが、そんな事情を知らずに数字だけを見て、子どもの成績が上がらないと焦ってしまうと、子どもに過剰な負担をかけてしまうことにもなりかねません。
しかし、上下する成績を目の前にして悠然と構えられるわけもなく、中には、途中で中学受験から撤退する決断をするご家庭もあります。
結論として、私は中学受験をしないという選択もありだと思っています。ただ、今の苦しい状態から解放されたいという思いだけで撤退するのは考えものです。
なぜなら、それは、問題を先送りにするだけのことだからです。中学受験から撤退しても、高校受験はやってきます。
なので、この機会に、そもそも何のために中学受験をしようと思ったのかを振り返ってみませんか。
そして、中学受験と高校受験の違いをしっかりとお子さんにも話したうえで、どちらの道を選択するのが今の時点でのベストな選択かを決めてほしいと思います。
中学受験と高校受験の違いとは
その材料として、中学受験と高校受験の違いについてお伝えしましょう。そもそも、中学受験と高校受験では、受験のシステムが違います。
高校は義務教育ではないとはいえ、ほぼ全員が受験して進学するので、高校受験浪人を生み出さないための構造的な仕組みが出来上がっています。「全滅しないようにする=収容」という考え方のもとに進路指導が行われるのです。
つまり、行きたい学校を受けるというより、「受かる学校を受ける」というのが高校受験の世界のある意味、常識です。
そのために偏差値の輪切りによって受験校を振り分けられる傾向があります。その偏差値ですが、同じ学校でも高校受験の方が中学受験より高くなるのは、母集団が大きくなるからです。
よく、「中学受験でうまくいかなかったら、高校受験でリベンジさせる」という人がいますが、このようにシステムが違うので要注意です。
また、高校受験は当日のテストだけでなく、授業中の態度などが評価される内申点も重視されます。私学の推薦入試でも、学校が求める内申基準を満たしていることが、合格の可能性を高めます。さらに、女子校を中心に高校募集を停止する学校が増えていることから、より選択肢が多い中学受験を選択するという人も多いです。
こう書くと、中学受験の方がいいのかと思われるかもしれませんが、もちろん高校受験のメリットもあります。高校受験を選ぶメリットは、次の4つだと筆者は考えています。
高校受験のメリット
1. 教育費を抑えられる高校授業料無償化の範囲が広がっているので、中学から私学に行くより、教育費の負担は少ないです。塾の費用も、中学受験塾より負担は少ない傾向があります。
2. これまでの環境をリセットできる、新しい環境で人脈が広がる
中学受験を選ぶ理由として、同じような環境の人が集まるので安心という声がありますが、裏を返せば多様性に欠け、交友関係が固定化しやすいともいえます。高校受験に臨むことで、全く新しい環境に入れるのはメリットの1つでしょう。
3. 小学生から受験のための塾通いをする必要がなく、子ども時代をのびのび過ごせる
中学受験対策塾では、夜の9時過ぎまで授業があることも、少なくありません。子ども時代に遅くまで机に向かう必要がなく、ゆったりとした時間を過ごせるのは、高校受験を選ぶメリットだといえるでしょう。
4. 本人の意思を最優先できる
本来、中学受験、高校受験ともに、親が全てをコントロールするのではなく、上手にサポートする必要がありますが、高校受験の方が、より子どもの意思を優先できます。
中学受験のメリット・デメリット
一方、中学受験をするということは、中高一貫教育を選ぶということです。そのメリット・デメリットを整理してみると、メリットは、
1. 高校受験がない分、のびのびと過ごせる
2. 特色あるカリキュラムで学ぶことができる
3. 子どもから大人になっていく時期に、成長段階に応じた教育を受けながら、じっくり自分に向き合える環境を得られる
4. 同じ環境にモデリングできる高校生がいる
でしょうか。
一方デメリットは、
1. 高校受験に伴う緊張感がないため、勉強へのモチベーションを高く維持し続けることは難しく、中学受験で頑張った分、中だるみすることが多い
2. 6年間同じ環境で過ごすので、人脈が広がりにくい
3. 成長期で変化が激しい時期なので、価値観が変わったとき、学校と合わなくなったとき、人間関係でつまずいたときなど、リセットしにくい
といったことが挙げられるかなと思います。
いかがでしょうか。中学受験、高校受験のメリットをお伝えしましたが、最終的な「これが正解」は正直ありません。子どもにどちらが合っているかを見極め、子どもがどうしたいかを聞いたうえで、それぞれの家庭で判断するしかないと思います。
ただ、中学受験を選ぶということは、10〜12歳で目標に向けて挑戦することになるので、精神年齢の高いお子さん、ある程度の学習習慣が身についているお子さんの方が取り組みやすいということはいえるでしょう。
反対にまだ精神的に幼くて、勉強に向き合う姿勢が育っていない子は、高校受験を選んだ方がいいかもしれません。
しかし、中にはそういうお子さんだからこそ、サポートがきめ細かい印象のある中高一貫教育を選びたいという人もいるでしょう。そういう場合はなおのこと、世間の価値観に流されず、お子さんに合う塾や学校を選ぶ必要があります。
受験した先で何を得たいのか「わが家の受験軸」を考える
中学受験をするかしないかを考える前に、受験した先にある中高一貫教育で何が得られるのか、そこで子どもに何を経験してほしいのかを考えてみてください。わが家の軸をしっかりと持って選べば、どんな選択をしても後悔することはありません。ぜひ一度立ち止まって、「わが家の受験軸」を見直してみましょう。
受験軸とは「何のために受験をするか」「どう受験するか」という家庭での軸です。受験軸を決めることは、受験勉強の理由(動機)を決めることでもあります。
勉強の動機と成績には深い関係があるのをご存じでしょうか。ある調査では、「勉強をすることが楽しいから」「自分の夢をかなえたいから」などの自律的な動機で勉強する子どもの成績が、動機がないまま勉強をする子より高いということが分かりました。
当然の結果といえるかもしれませんが、自分で決めた軸(動機)をベースに受験に向かうことで成績も上がりやすくなるといえるでしょう。
中学受験は、とりあえずで始めるような簡単なものではありません。時間もお金もかかります。子どもが塾に行く生活が始まれば、送迎やお弁当作りなど家族の負担も増えるでしょう。難しい課題に取り組む子どもの家庭学習のサポートも必要です。きょうだいがいれば、その子の生活にも影響が出ます。
いわば、中学受験は長期間にわたって取り組む「家族ぐるみのプロジェクト」です。長期プロジェクトだからこそ、「これだけお金と時間、労力をかけたのに、この結果……」という思考にもなりやすいのが、中学受験の怖さでもあります。
でも、受験というハードルにチャレンジするということは、人としての成長の機会にもなります。
撤退を考えているなら、1度わが家の受験軸をお子さんと一緒に見直してみてください。そうして決めた撤退なら、それが高校受験で最高の合格を得る道になると思います。
※この記事は『中学受験 親子で勝ち取る最高の合格』(青春出版社)の内容から抜粋、加筆して構成されています。
この記事の執筆者:中曽根 陽子
数少ないお母さん目線に立つ教育ジャーナリストとして、紙媒体からWeb連載まで幅広く執筆。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエーティブな力を育てる探究型の学びへのシフトを提唱。お母さんが幸せな子育てを探究する学びの場「マザークエスト」も運営している。『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)など著書多数。
(文:中曽根 陽子)