黒田朝日が学生記録、日本記録保持者・鈴木健吾が復活、箱根駅伝2区で区間賞を獲得した2人が大阪マラソンを好走
2025年3月1日(土)6時1分 JBpress
(スポーツライター:酒井 政人)
マラソンでも“朝日”が昇る
近藤亮太(三菱重工)が初マラソン日本最高記録となる2時間05分39秒(日本歴代5位)を叩き出した大阪マラソン2025。もうひとり、従来の初マラソン日本最高記録を上回った選手がいる。青学大の3年生エース・黒田朝日だ。
腕時計をしない黒田は中間点を1時間02分29秒、30kmを1時間28分56秒で通過した先頭集団のなかでレースを進行。32km手前の上り坂では前に出るシーンもあり、好タイムの期待を抱かせた。
終盤は苦しそうな表情を見せたが、仲間がメッセージを書きこんだシューズを履いた黒田は、「チームメイトの思いを背負って走った感じです」と粘り、2時間06分05秒(日本歴代9位)の6位でフィニッシュ。最後はガッツポーズでゴールに飛び込んだ。
「ずっときつかったんですけど、特に30kmの上り坂を越えてからがきつかったですね。マラソン独特のきつさは今まで味わったことがない感じでした。ずっと無我夢中でしたが、なんとか良い記録と結果でゴールできて良かったと思います」
黒田は先輩の若林宏樹(4年)が2月2日の別府大分マラソンで2時間06分07秒の学生記録を樹立したことに刺激を受けていたという。「とりあえず(若林の)記録を超えたので、それは良かったと思います」と学生記録を素直に喜んだ。
30km過ぎの折り返し地点を30mほど遠回りしたため、5分台には届かなかったが、「そこまでタイムにこだわりがあったわけではないですし、勝負もあまり意識していませんした」と黒田。マラソンの楽しさを感じたか? という質問には、「もうずっときつかったです」と苦笑いした。
マラソンでも好記録を連発している箱根王者・青学大。黒田は今大会に向けて、ガッチリとマラソン練習をしてきたわけではないという。
「全体的に距離のベースを少し伸ばしてマラソン仕様にした感じです。40km走はやっていません。30kmまでです。でも年間通して(ある程度の)距離を走り込んでいるのがマラソンにつながっているのかなと思います」
黒田は高校時代に3000m障害の選手として注目を浴びると、箱根駅伝は2区で大活躍。昨年は区間賞に輝き、今年は区間記録を上回る1時間05分44秒(区間3位)で走破した。
今後はマラソンで世界大会を狙うかと思いきや、「そんなに世界にこだわってやりたいわけじゃないので、その時々だという感じだと思います」と、大学ラストイヤーを迎える来季も、「学生三大駅伝」が最大のターゲットになるようだ。そして次のマラソンは「考えていないです」と即答した。
「将来的にはどうなるかわかりません。自分のやりたいようにやろうと思います」と、3000m障害とマラソンを含めて、そのときにやりたい種目で勝負していく。
日本記録保持者が積極レースを披露
大阪マラソン2025では第100回大会の箱根駅伝2区で区間賞を獲得した黒田だけでなく、第93回大会の2区を制した選手がインパクトを残した。2021年2月のびわ湖毎日マラソンで2時間04分56秒の日本記録を樹立した鈴木健吾(富士通)だ。
2022年3月の東京マラソンでも2時間05分28秒で日本人トップに輝くも、同年7月のオレゴン世界陸上を体調不良で欠場。その後は、2023年10月のMGCを途中棄権するなど苦しい戦いを続けてきた。
今年のニューイヤー駅伝も最長2区で区間15位と振るわなかったが、大阪マラソンでは勝負を仕掛けてきた。
33kmからエチオピア勢3人がキロ2分45秒ペースまで上げると、日本勢で唯一食らいついたのだ。そして一時は他の日本勢を引き離した。しかし、その後は先頭集団のペースが上がらず、35km付近で後続集団に追いつかれた。
終盤は苦しいレースになったが、サードベストとなる2時間06分18秒で8位入賞を果たした。
「久しぶりに後半まで(トップを争う)レースに絡める走りができたのかなと思っています」と鈴木は静かにレースを振り返った。今大会に向けての仕上がりはさほど良かったわけでなかったという。
「良いときに比べると、もう一息かなと思ったんですけど、監督にも『集中力を持ってやれば、いいところまで絡める』と言われていました。今持っている力をどれだけ発揮できるのか。日本人トップよりも、行けるところまで前で勝負したいなと思って走りました。でも最後は(動きが)固まってしまって、そういう部分では力が及ばなかったなと思います」
それでも久しぶりにマラソンで力強い走りを披露した鈴木は“完全復活”への手応えをつかんだ様子だった。
「段々良くはなってきていると思います。ただ東京世界陸上を目指すには、まだまだ力が足りなかった。それでもここまで自分の状態を戻せたのは次につながると思いますし、またオリンピックを目指していきたい。MGCの勝負だけでなく、『ファストパス』もある。マラソンで勝負したいという思いで競技をしているので、チャンスがある限り挑戦し続けたいと思います」
日本陸連が定めたロス五輪の「ファストパス」の設定タイムは2時間03分59秒。日本記録保持者が再び、時計の針を動かすかもしれない。
筆者:酒井 政人