就活は情報戦の時代? 学生は「ネタバレ就活」で会社を選ぶ
2025年3月3日(月)17時6分 マイナビニュース
今年も例年通り、3月1日に2026年度の就職活動が解禁となりました。いよいよ本番を迎えた就活生たちは期待と不安を抱えながら、エントリーや説明会への参加を進めているところでしょう。
マイナビでは就活解禁直前の2月20日、「採用広報開始直前! 2026年卒新卒採用・就職活動の展望」と題し、メディアブリーフィングを開催。今期の就職活動のトレンドを予測した結果を発表しました。
この数年の就活は、学生にとって優位な売り手市場が続いています。しかし、だからといって、慢心している学生はほとんどおらず、積極果敢に行動しているようです。
その背景には「失敗したくない!」との思いが強いZ世代ならではの感情が影響しているとのこと。キーワードは"ネタバレ就活"です!
人が足りない! 採用充足率が過去最低に
メディアブリーフィングの第一部に登壇した、マイナビキャリアリサーチラボ 主任研究員・井出翔子さんは、まずはアンケート調査をもとに企業側の動向を解説しました。
昨年度の25卒では企業側の採用充足率が70%と過去最低を記録したそうです。売り手市場が加速する中で、採用難に直面する企業の苦悩が浮き彫りになりました。
26卒の採用予定数で言うと、上場企業と非上場企業で温度差が生じています。非上場企業は「前年の採用実績」をもとにするという回答が21.3%に対し、上場企業は13.9%に留まります。
昨年度で言えば、非上場企業にとっての「前年の採用実績」は、"思うように採用できなかった苦い思い出"になってしまっているケースが少なくないようです。
だからこそ、「特に非上場企業では『今年こそは何とか新卒採用を成功させたい』という強い思いが伺える」と井出さんは言います。
高額な初任給が、就活上の価値を生むとは限らない?
学生に少しでも関心を持ってもらうため、企業側はさまざまな取り組みを進めていますが、中でもこの1〜2年はニュースでも注目を集めている初任給引き上げがトレンドになっています。
25年卒では54.1%の企業が引き上げ予定と回答。先行して引き上げを実施した上場企業を追いかけ、非上場企業も福利厚生面の整備に熱が入っているようです。
初任給額は学生にとっても企業選びの判断材料の一つとなっているのは間違いありません。ただし、それが決定的な要因になっているとは限らないとの分析結果も出ています。
第二部を担当した同ラボ研究員の中島英里香さんの調査では、学生が求める平均初任給は23万7300円とはじき出されました。
26万を超える高額な初任給を求めるケースは少なく、むしろ平均より下の金額である20~21万円を求める学生が一番多いというのが興味深い点です。
安定して働ける環境を第一にするZ世代たち
初任給にそこまでこだわらないとすれば、イマドキの学生は何を基準にして企業を選んでいるのでしょうか?
そこで中島さんが着目したのは、老後の心配をテーマにした調査結果です。「老後の貯蓄が足りない」「年金がもらえないかもしれない」といった項目が上位を占めています。
若いうちから老後の心配なんて必要ないじゃない——という意見もあるかもしれませんが、Z世代ど真ん中の今の就活生は、生まれて以来、リーマンショックや東日本大震災、コロナ禍などの時代の激変期に直面してきました。
将来の不安が強いのは当然の結果と言えるでしょう。
就職活動でも"安定"重視に傾く傾向がいっそう強くなっています。
事実、2020卒以降、6年連続で「安定している会社」が企業選択のポイント第一位となり、25年卒に限っては過去最高の49.9%の学生が安定を重視している結果に。
安定の概念には、給料水準だけでなく、経営基盤の盤石さ、働く環境の良さ、自分に合った仕事内容なども含まれます。
中島さんは副業や投資にも興味を持つ学生が全体の66%に達しているというデータも示してくださいました。
つまり、「収入面で足りない部分は自力でまかなうから、暮らしの最低限のベースとなる場所は"安定"したい」という学生たちの考え方が見えてくるのです。
不確定要素を排除したいとの強い思いが、ネタバレ就活につながる
こうした時代背景の中、学生たちはどのような価値観で就職活動をしているのでしょうか。
井出さんは"ネタバレ就活"の傾向が強いと分析しています。時間の無駄や失敗を避けたい意識が強い若者の特徴を表わした"ネタバレ消費"というキーワードは、最近よく耳にします。
「何かを買うときにSNSやレビューをチェックしたり、映画や漫画を楽しむ前に結末を知ってから判断することで失敗を防いで、効率よく買い物をするというのが"ネタバレ消費"です。その流れで就職活動においても、企業のことをあらかじめよく知っておきたいという学生が増えています」(井出さん)
ネタバレするために、つまり企業を知るために、インターンシップ・仕事体験に参加する学生は過去最高水準の85.3%に達しました。
26卒の場合、9月以前の早期に参加した学生が85.8%に達し、早め早めに動いてネタバレしようという姿勢が垣間見られます。
参加プログラムの傾向にも特徴があり、会社見学・工場見学・職場見学といったリアルな働き方が見えるインターンシップ等に参加した学生は57.1%と前年比7.2%増。
仕事体験についても前年比5.7%増の38.9%と、具体的に仕事内容や働く環境を"ネタバレ"したいとのニーズが高いのが見て取れます。
無論、OBOG訪問やリクルーターとのかかわりを持ちたいニーズも高いですし、口コミサイトやSNSの活用なども当然のように行われています。
また、入社前の段階で将来の働き方を明確化させたいがゆえに、企業側でも「勤務地確約」「ジョブ型採用」「コース別採用」を打ち出すケースが増えています。
「不確定要素を排除して社会人生活を送りたい学生たちの声が、ネタバレ就活につながっている」と井出さんは指摘します。
少しでも失敗したくない、安定した職を得たい——そんな守りの気持ちが強いからこそ、売り手市場であっても学生は就活に手を抜くことなく、むしろインターンシップ等に熱を上げているのです。
そうした学生たちの気持ちを理解している企業であれば、真摯な姿勢でオープンに情報公開しているはず。
先輩社員との接点の提供なども含め、積極果敢に情報を提供している企業には、おのずと多くの学生の注目が集まる時代となったのかもしれません。
佐藤明生 企業の採用や広報・広告、SPツールにかかわる制作物でのライティングを得意とする。『マイナビ』では新卒の企業取材が主戦場。出版・広告・webを問わずに活動しており、旅行、地域情報、ライフスタイル情報誌、進学、週刊誌なども手がける。福島県会津若松市出身。 この著者の記事一覧はこちら