岡山の黄ニラ・パクチーがイタリアンに変身 「復興」の手助けになれば...名シェフが腕をふるった
2019年3月4日(月)16時0分 Jタウンネット
山形県鶴岡市にあるイタリア料理の店「アル・ケッチャーノ」といえば、いまや東北でもっとも人気の高いレストランの一つと言ってもいいかもしれない。
地元の食材を見事に生かしたイタリアンをリーズナブルな値段で提供して、全国の食通たちの注目を集めるようになった。鶴岡市のみならず山形県が美食の地と噂されるようになったのは、奥田政行シェフの功績は大きいだろう。
その現代の山形県を代表する奥田シェフが、なんと岡山県の黄ニラとパクチーに着目し、斬新なメニューを開発して披露するというではないか。
美食には目がない読者にとっては見逃せないユニークな試食会が、2019年2月25日、東京都墨田区にある東京スカイツリータウン・ソラマチの「ラ・ソラシド フードリレーションレストラン」で開催された。
この店は、奥田シェフがプロデューサーを務めている。いったいどんな試食会だったのだろうか?
「黄ニラ・パクチーはイタリアンにも欠かせない」
黄ニラとパクチーというと、はっきり言って中国料理やタイ料理などエスニックの食材である。それがイタリアンのメニューにどう使われるのか? 半信半疑の向きは多いだろう。
試食会当日招かれたのは、飲食店経営者や飲食業界のトレンドリーダーとなる料理人・バ料理人・バイヤーなど20 人以上。業界のプロに、黄ニラとパクチーを使用したフルコース8品が提供された。プロたちを唸らせた奥田マジックとは?
奥田シェフは次のようにコメントしている。
「岡山県の黄ニラ・パクチーは、それぞれ特徴があります。パクチーは、生産者の植田さんが『自家採取』にこだわり、香りがやさしくて、葉が柔らかい品種に育て上げました。
特に甘くて旨味の強い『パクチーの根っこ』は、私のスペシャリテに欠かせない食材のひとつです。黄ニラは、香りがやさしく濃厚な旨味があり、これだけで主役になります。イタリアンやフレンチなど、洋食でも広く使っていただける食材です」
フルコースは、「ズワイガニと『岡パク』と胡瓜のサラダ仕立て」からスタートした。「岡パク」とは、「岡山マイルドパクチー」の略称である。「岡パク」とバルサミコ醤油で合わせたヒラメのカルパッチョが続く。カニやヒラメは、日本海に面した庄内地方に本拠を置く、奥田シェフの手慣れた食材だろう。
「『黄ニラ』とアンディーブのサラダとさわやか健味鶏の塩麹マリネ」、「『黄ニラ』と春菊と牡蠣〜グリッシーニと一緒に食べるヘルシーカツレツ〜」と、「黄ニラ」を使用したイタリアンのメニューが続々と登場する。グリッシーニはクラッカーのような食感のスティック状の細長いパンのこと。
魚のメイン料理として、「『黄ニラ』の自家製ピクルスと舌平目のムニエル」が登場。さらに「『黄ニラ』と黄菊と黄色トマトのスパゲッティーニ〜黄色の波長。色の法則のペペロンチーノ〜」というパスタを味わうと、もう気分はすっかりイタリアン。皿の上に広がる黄色がなんともまぶしい。心の底からゆったりとくつろげる奥田ワールド全開である。
肉料理のメインは、「『岡パクの根っこ』と黒毛和牛リブロースのタリアータ」、パクチーの根なども余すことなくイタリアンのメニューの一品として饗され、パクチーの新たなポテンシャルが開拓されている。タリアータは、野菜を添えた薄切りのステーキのこと。ルッコラなどイタリア野菜の代わりに「岡パク」を使ったところが、奥田シェフならではの真骨頂と言える。
今日の「岡パク」ドルチェは、「岡パク」とだだちゃ豆を包んだ求肥とパンナコッタだった。
奥田シェフの経歴をかんたんに紹介すると、1969 年山形県鶴岡市生まれ、鶴岡の高校を卒業後、東京にてイタリア料理、フランス料理、フランス菓子とイタリアンジェラートを修行。25 歳で帰郷し、ホテルの料理長や農家レストランを経験した後、2000 年3 月、地元食材で作るイタリア料理の店「アル・ケッチァーノ」をオープンした。
たちまち地元の人気店となり、評判が評判を呼ぶ。その名声は全国に広がり、2009 年4 月、山形県アンテナショップ「おいしい山形プラザ」2 階に「ヤマガタサンダンデロ」をオープンした。その独創性に富んだ料理は、国内のみならず海外でも高い評価を得ている。
実はこの試食会は、「岡山県黄ニラ・パクチー生産者支援プロジェクト」の一環だ。2018年、豪雨によって大きな被害を受け、壊滅状態となった生産者を支援しようという「HASHIWATASHI プロジェクト」が行ったもの。
19年1月には、被災した岡山県の生産者を奥田シェフ自ら訪問。生産者から現状のヒアリングや、回復した黄ニラ・パクチーの畑を視察した上で、メニューを発案した。今回のイタリアンへの提案が、新たな市場の掘り起しにつながることが期待されている。