「額に汗しながら土器を丹念に掘り出す」イメージは日本だけ?衛星画像で遺跡を探したり、発掘未経験の学者も…多様化しつつある<考古学>の今
2025年3月14日(金)6時30分 婦人公論.jp
(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
遺跡や遺構から歴史を研究する<考古学>。日々発掘調査に出かけていると思われがちな考古学者ですが、古代エジプトを専門とする駒澤大学文学部歴史学科の大城道則教授によると、ここ数年は10日連続で時間を取ることができないほど多忙を極めているそうで——。そこで今回は、考古学者の青山和夫さん、角道亮介さんとの共著『考古学者だけど、発掘が出来ません。 多忙すぎる日常』から、大城教授のリアルな日常を一部お届けします。
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「考古学者」の定義
考古学者にとって研究の場とは、なにも発掘現場を中心とした野外のフィールドだけとは限らない。
日本人の持つ一般的な考古学者のイメージは、太陽が照りつける青空の下で額に汗しながら、その汗を首に掛けたタオルで拭い、出土した土器を竹べらや竹串で丁寧に丹念に根気よく綺麗に掘り出そうとする、健康的に日に焼けた人物というものであろう(インディ・ジョーンズ以外でという意味だが)。それは決して間違ってはいない。
しかし、これは日本人特有のイメージなのかもしれないと思うことがある。海外における「考古学者」の定義に基づけば、感覚が少し違うような気がするのだ。日本以外の国々では、古代のものを研究対象として扱っている研究者すべてに「考古学者=Archaeologist」を当てはめることができるのである。
たとえば世界には発掘経験がまったくない「考古学者」もいれば、衛星画像のデータを解析して、未発見の遺跡を特定するという手法を用いる「考古学者」もいる。後者などは完全に理系の学問分野だ。
広い意味で宇宙考古学とかロボット考古学とかもまた「考古学」の範疇(はんちゅう)なのである。考古学は日々多様化しつつある。必要に応じて文理融合という名の下に。
新しいものを採り入れる
そういう意味では私はそのちょうど真ん中を歩んでいると言えそうだ。必要があれば新しいものを積極的に採り入れることにしている。
たとえばすでに地中レーダー探査は考古学調査のデフォルトとなってしまっている感があるが、それ以外にも三次元デジタル測量やVR(Virtual Reality : 仮想現実)の専門家たちと研究することが近年目に見えて多くなった。
前者などはCTスキャンのように好きなところで好きな角度で内部を輪切りにして見ることができたりするのだ。たとえばクフ王の大ピラミッドを斜めに切ったり、縦に切ったり、横に切ったり、底から見たりできるのである。
しかも専用のソフト(たいてい高価なのだが……)と比較的高性能のパソコンさえあれば、世界中のどこからでもパソコンの画面で作業ができるのだ。またVRやAR(Augmented Reality : 拡張現実)などはすでに映画やゲームの世界をはじめとして一般社会に氾濫しており、十分に社会のなかに浸透している。
ピラミッドを透視する
自分の知らない世界の知らないテクニックを目の当たりにすることも多くなった。
素粒子ミュオンを利用したミュオグラフィと呼ばれる透視技法はその最たるものだ。
(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
この技法を使用すれば、ピラミッドのような巨大な石造建造物の内部を透視することができるのである。
それも非破壊で、しかもX線のように放射能を浴びる危険性もまったくなく。
その1秒をけずりだせ
しかし、やはり屋内や机上ではなく、自らの身体で現地に赴き、現場にその身を置いてこそという側面も考古学にはある。
誰が何と言おうとそれは特に考古学(歴史学も)という学問では重要な点だ。そこで個々人が受ける感性もまた考古学者にとって重要な要素だと思うのだ。
だから研究遂行のためならば好きでもない(むしろ嫌いな)飛行機にも乗り込む。授業と会議で溺れそうな忙しい日々のなか、時間をひねり出すのだ。東洋大学の箱根駅伝のチームスローガンではないが、「その1秒をけずりだせ」なのだ。
※本稿は、『考古学者だけど、発掘が出来ません。 多忙すぎる日常』(ポプラ社)の一部を再編集したものです。
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