人生100年時代、お金の寿命も伸ばすことが必要に。ウェルスナビCEO「終身雇用が崩れていくのと同時に退職金の平均額も減少している」

2025年3月26日(水)12時30分 婦人公論.jp


(写真提供:Photo AC)

「人生100年時代」といわれるなか、老後のお金が心配な方も多いのではないでしょうか。40万人以上の資産運用に関わってきたお金のプロ、ウェルスナビ代表取締役CEOの柴山和久さんは、「何歳までお金が必要になるのかは誰にもわからないからこそ、資産運用を続けて、お金の心配を減らすことが重要」と話します。そこで今回は、柴山さんの著書『新しいNISA投資の思考法 お金の悩みから解放される 正しい「長期・積立・分散」のはじめ方』より一部を抜粋してお届けします。

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「終身雇用は維持できない」発言の衝撃


「老後2000万円問題」報告書の炎上には、伏線がありました。

報告書が発表される2カ月前の2019年4月、日本経済団体連合会(経団連)の中西宏明会長(当時)が首相官邸で、「終身雇用はもう維持できない」と発言し、世の中に衝撃を与えました。さらに翌月には、トヨタ自動車の豊田章男社長(当時)が、「終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と発言し、大きな話題を呼びました。

経団連は、大企業を中心とする経済団体として、長年の間、終身雇用を支えてきた中核的存在です。また、トヨタ自動車は日本を代表する企業であり、経団連の会員企業の中でも特に、雇用を守ることにこだわってきた経緯があります。このため、経団連会長とトヨタ社長の発言は衝撃をもって受け止められ、大きく報道されました。

しかし、経団連会長やトヨタ社長(いずれも当時)の発言を待つまでもなく、終身雇用の制度はすでに過去のものとなっています。「老後2000万円問題」報告書を当然のことと受け止め、むしろ、「そんなことは昔からわかっていた」という意見があったのはこのためです。

終身雇用はすでに崩壊していた


終身雇用の崩壊は、まず、1990年代に就職氷河期という形で現れました。多くの企業が、社員の雇用を守るために、新卒学生の採用を大幅に削減したからです。

さらに、派遣社員や業務委託といった形での働き方が広がりました。その結果、雇用が安定している正社員と、雇用が不安定な派遣社員・業務委託という二極化が進行します。


『新しいNISA投資の思考法 お金の悩みから解放される 正しい「長期・積立・分散」のはじめ方』(著:柴山和久/ダイヤモンド社)

終身雇用は、正社員の世界の内側でしか維持できておらず、日本社会全体で見れば、すでに崩壊していたということになります。そもそも、正社員の世界とその外側で雇用の安定性を分けるのは、社会のあり方としては持続可能ではないように思います。

他の先進国の多くでは、正社員かどうかという雇用形態に関係なく、雇用は平等に安定的であり、同時に平等に不安定です。それに対して、日本の場合には、正社員の終身雇用を守ることが最優先された結果、正社員でない形での雇用がその犠牲となって過度に不安定になっています。

そして、ここまでして守ってきた正社員の終身雇用すら維持できなくなっているのは、経団連会長やトヨタ社長(いずれも当時)の発言から明らかです。終身雇用が崩れていけば、当然、それを前提とする社会の仕組みや「あるべき姿」も変わってきます。

老後の生活資金を、すべて国や会社に期待するのは現実的ではない


1960年代の高度経済成長期に成立したと言われる「日本型経営」のモデルでは、長い間、終身雇用が理想とされてきました。終身雇用の下では、高校や大学を卒業すると就職し、同じ企業で定年まで働き続けます。

そして、定年退職すると、まとまった金額の退職金を受け取ることができます。そして、年金を政府と企業から受け取って、退職金と年金で老後の生活を送ることができました。

実際、「老後2000万円問題」報告書のデータからも、現在の退職世帯の平均的な生活は退職金の取り崩しと年金収入で成り立っていることがわかります。ただし、ここで注意すべきは、終身雇用がすべての人に当てはまっていたわけではないということです。

たとえば、自分のお店や工場を経営している場合には、定年などなく、働き続けることが多くありました。それでも、終身雇用は多くの企業にとって理想とされていたため、経営の体力がない中小企業も、人材獲得のために終身雇用を掲げる時代が長く続きました。

このように、終身雇用は必ずしもすべての日本人に当てはまっていたわけではないのですが、「あるべき姿」とされ、終身雇用を前提に日本の社会制度が構築されてきました。

その代表例が退職金の制度です。しかし、終身雇用が崩れていくのと同時に退職金の平均額はだんだんと減少しています。厚生労働省の統計によれば、2007年に2280万円あった大卒の正社員の退職金の平均額は、2017年の1790万円へと、10年で2割以上減っています。年率では2.5%の減少ペースです。仮にこのペースで減少していけば、2040年には、約1000万円まで減少することになります。

また、退職金がない企業も増えています。そもそも、退職金は給与の後払い的な性格があります。その分、若いときに給与を低く抑えられているため、退職金の制度をなくすことには一定の合理性があります。

このように、仮に、今後20年間、終身雇用の制度の内側で守られるとしても、老後の生活資金を退職金に期待するのは現実的ではなくなっているのです。退職金に期待できなくなっている以上、働きながら資産運用を行い、必要な老後資金を用意しておくことが大切な時代になっています。

人生100年時代、お金の寿命も伸ばすことが必要に


医療の発展によって人間の寿命は伸びています。また、健康寿命も伸びています。1998年と2016年の体力テストを比べると、2016年の70〜74歳の体力テストの合計点は、1998年の65〜69歳の体力テストの合計点を上回っています。つまり、実際の年齢よりも元気になっているのです*1。

この結果、かつては、「定年まで勤め上げれば、国と企業が老後の面倒をみてくれる」というモデルでの「老後」が比較的短い期間であったのに対し、現在は、「老後」それ自体が伸びていっています(厳密には、年齢を重ねても元気なままの方が増えています)。

寿命が伸び、老後が長くなるのに合わせて、それを支える資産の寿命を伸ばしていくことが必要になってきます。働きながら資産運用を行って資産の額全体を増やし、退職してからも資産運用を続けることで、長い期間、資産を増やしていくことができます。

「人生100年時代」と言われるようになり、今後、健康寿命はさらに伸びていく可能性もあります。このことも、働きながら資産運用をしていくことが大切な時代になった大きな理由の一つです。何歳までお金が必要になるのかは誰にもわからないからこそ、資産運用を続けて、お金の心配を減らすことが重要です。

*1 内閣府「平成30年版高齢社会白書」

※本稿は、『新しいNISA投資の思考法 お金の悩みから解放される 正しい「長期・積立・分散」のはじめ方』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。

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