世界陸上で上位を目指す三浦、青木らが日本陸連が実施する「3000m障害測定合宿」に参加、日本のエースの手応えは?
2025年3月28日(金)6時0分 JBpress
(スポーツライター:酒井 政人)
世界と戦うために
日本陸連は3月18日から20日までの3日間、味の素ナショナルトレーニングセンターで「3000m障害の測定研修合宿」を敢行。最終日はメディア公開があり、サンショー選手たちが元気な姿を見せていた。
昨年は男子シニア選手のみを対象に行ったが、今年は初めて男女のシニア・ジュニアの有力選手が集結。男子シニアでは昨年のパリ五輪で8位入賞を果たした三浦龍司(SUBARU)、一昨年のブダペスト世界陸上で三浦とともに決勝に進出した青木涼真(Honda)らが参加した。
この合宿の意図と目的について、日本陸連の高岡寿成シニアディレクター(中長距離、マラソン担当)は以下のように話している。
「三浦選手が世界大会で入賞を続けてくれていることが非常に大きいですね。三浦選手のデータを分析して、他の選手たちが学んで強化できればと取り組んでいます。今回は世界と勝負するために障害を跳び越えることをテーマに、千葉先生から学びました。男子は最大3枠を獲得して東京世界陸上に向かいたいと考えています」
合宿では障害物を跳び越えたときのデータなどを収集しただけでなく、現役時代に男子400mハードルで活躍した城西大・千葉佳裕コーチからハードリングの技術やドリルなどのレクチャーがあったという。
3000m障害は高さ91.4cm(男子/女子76.2cm)の障害物を28回、同じ高さの水濠を7回跳び越えて、ゴールを目指すレース。陸上競技のなかでも特殊な種目だ。
三浦は通常、障害物に足をかけてレースを進めて、残り1周は障害物に脚をかけないハードリングでラストスパートを放っている。一方、世界のトップクラスは障害物にまったく脚をかけない選手が少なくない。日本陸連は「メダルを含めて入賞以上を目指すには、ハードルを跳ぶ技術が大切」と分析。ハードリング技術を磨くことで、世界に切り込んでいきたい考えだ。
エース三浦龍司が目指すもの
近年レベルが高騰している日本の3000m障害を牽引してきたのが三浦龍司(SUBARU)だ。東京五輪で7位、ブダペスト世界陸上で6位、パリ五輪で8位と世界大会で「入賞」を続けてきた。三浦の存在もあり、日本はジュニア世代のレベルも急上昇している。
今回の取り組みについて三浦は、「今年はジュニア選手も参加したので刺激がありましたし、新たな学びもあったですごく有意義な合宿になったんじゃないかなと思います」と話す。なかでも千葉コーチから学んだハードルドリルが印象に残っているという。
「ハードルドリルは新たに取り入れたいですし、強くなるヒントがあったんじゃないかなと思います。動画や測定を経て、新たな視点や知識も吸収できました。データをもとに自分を客観的に見る機会ができたのも良かったです。障害を跳んだ後の接地や姿勢に課題を感じたので、データや動画を見ながら改善していきたい。海外選手はデータを取ったりする概念はないと思うので、逆に僕らは障害を跳ぶ技術に注力している。そこは海外との差を埋めるポイントになるんじゃないかなと思います」
合宿最終日の男子シニア選手は800m×5本というメニューを実施。2本目と4本目には障害物を入れて行った。三浦は1本目が2分00秒台、2本目が2分08秒台、3本目が2分01秒台、4本目が2分08秒台。最終5本目を1分59秒台で走破すると、その後は個人練習で障害を何度も跳び越えて、感触を確かめていた。
三浦は合宿2日後に行われた順大競技会1500mでトラックのシーズン初戦に出場。鋭いスパートでトップを飾り、3分43秒59をマークしている。
3000m障害は4月26日と5月3日のダイヤモンドリーグの中国2連戦に出場予定。さらに5月18日に行われるセイコーゴールデングランプリ東京の出場予定選手として発表されている。
今年は9月に東京世界陸上が開催されるが、三浦のターゲットは明確だ。
「僕自身はメダル獲得と自己ベスト(8分09秒91の日本記録)更新を目標に掲げています。そのためにも前半シーズンは記録を重要視していきたい。早い段階で東京世界陸上の参加標準記録(8分15秒00)を切って、8分10秒前半のタイムを出すなどパフォーマンスを高めて、しっかりと勝負できる状態で世界陸上に臨みたい」
またブダペスト世界陸上ファイナリストの青木涼真(Honda)は、「自分は今回、年齢(27歳)が上から2番目。下の世代の選手がすごく多くなってきていますし、レベルが上がってきている実感があります」と日本の3000m障害の現況を話す。
動き作りやハードルドリルでは、「ジュニア選手の方が飲み込みは早かった」と苦笑いしたが、「長距離のスタッフだけでは得られない着眼点が本当に多かった」と手応えをつかんだ様子だった。
そして東京世界陸上に向けては、「初めての世界大会が東京五輪でした。そこから世界との差を一つひとつ埋めてきて、ここに来ています。前回の東京(五輪)は無観客だったので、できれば満員の国立競技場で自分の成長した姿を見せたい」と決意を語った。
青木は4月12日の金栗記念選抜陸上中長距離大会を経て、三浦も参戦する5月18日のセイコーゴールデングランプリ東京に向かう予定だ。
日本勢は早ければ5月の国立競技場で「3000m障害の測定研修合宿」の成果を見せてくれるかもしれない。
筆者:酒井 政人