伊藤若冲・国宝《動植綵絵》から“花感”あふれる4幅、百花ひらく麗らかな春を日本美術の名品とともに
2025年3月28日(金)6時0分 JBpress
(ライター、構成作家:川岸 徹)
四季の明瞭な日本では、季節を彩る花々は芸術の重要なモチーフとして古くから親しまれてきた。花を題材とした11世紀から現代にいたる絵画・工芸・書跡45件を紹介する展覧会「百花ひらく—花々をめぐる美—」が皇居三の丸尚蔵館で開幕した。
四季折々の花をテーマにした展覧会
肌寒い日はちらほらと残るものの、春の訪れを感じるあたたかな日が増えてきた。皇居三の丸尚蔵館が建つ皇居東御苑も梅や桜など春の花々が次々と開き、訪れる人々の目を楽しませている。
皇居三の丸尚蔵館は、平成元年(1989)に上皇陛下と香淳皇后によって皇室に代々受け継がれた美術品が国に寄贈されたことを機に、その保存と研究、公開を目的に開館した宮内庁三の丸尚蔵館が礎。施設の拡充のため、令和元年(2019)から新館の建設が進められ、令和5年(2023)には「皇居三の丸尚蔵館」と名称も新たに一部が開館した。
皇室ゆかりの美術品を鑑賞できる貴重な場として、国内はもちろん、海外からの観光客にも人気を集めてきたが、3月11日に開幕した「百花ひらく—花々をめぐる美—」をもって、いったんクローズ。展覧会会期終了後の5月7日から再び工事休館に入り、全館開館は令和8年(2026)の秋を予定しているという。
さて、しばしのお別れとなる前の最後の展覧会「百花ひらく—花々をめぐる美—」。タイトル通り、四季折々に咲く花をテーマにした内容で、11世紀から現代までの花を題材とする絵画や書跡、工芸品45件が紹介されている。
若冲《動植綵絵》から花感あふれる4幅
多彩な出品作のなかで最大の見どころといえば、やはり伊藤若冲による国宝《動植綵絵》だろう。皇居三の丸尚蔵館の顔であり、海外でも絶大な人気を誇る日本美術作品。特に今回は「花」をテーマにした展覧会。訪れる人々が国宝《動植綵絵》の出品を期待しないわけがない。
では、花鳥画30幅の連作である《動植綵絵》からどの幅が選ばれたのか。前期(3/11〜4/6)は《桃花小禽図》と《牡丹小禽図》、後期(4/8〜5/6)は《梅花小禽図》と《薔薇小禽図》の計4幅が紹介される。
《桃花小禽図》は桃の木と満開の花、そして枝で遊ぶ白鳩と青色の小禽(鳥)をとらえた一枚。画面から春の明るさと強い生命力が伝わってくる。《牡丹小禽図》は牡丹の花で埋め尽くされた構図が印象的。2羽の小鳥が描き込まれているが、あふれる花々でどこか窮屈そう。若冲ならではの“徹底した描き込み”が堪能できる。
後期展示の《梅花小禽図》では、満開の白梅の古木のまわりで8羽のメジロ(ウグイスとする説も)が遊ぶ。屈曲する梅の枝が力強い。同じく後期展示の《薔薇小禽図》には太湖石に絡まるように咲き誇る3種類のバラが描かれている。バラの花はその多くが正面を向き、人の眼がずらりと並んでいるかのよう。不思議な味わいのある作品だ。
皇室ゆかりの多彩な名品
若冲《動植綵絵》のほかにも、様々な分野の名品が並ぶ。《七宝四季花鳥図花瓶》は明治期に活躍した七宝家・並河靖之の代表作。透明感ある黒い釉薬がほどこされた背景から、桜を中心に多彩な花々が飛び出してくるかのような立体感ある表現が見事。1900年開催のパリ万博で日本美術の水準の高さを世界にアピールするために、明治天皇の御下命を受けて製作されたという。
福岡市生まれの日本画家・今中素友による《紅白梅図屏風》も皇室とゆかりが深い品。大正13年(1924)の皇太子(昭和天皇)のご結婚を祝って、福岡市有志を代表した頭山満より献上されたと伝えられている。金地の画面いっぱいに咲き誇る紅白梅。木の幹と枝は苔で覆われているが、これには「苔むすほど永久(とわ)に」という意味が込められている。
《堤中納言集(名家家集切)》は、藍と紫に染めた繊維が雲のような趣を見せる飛雲紙に、平安中期の歌人・藤原兼輔(堤中納言)の家集を書写したもの。春部には梅や桜、藤、山吹が、秋部には菊や女郎花が、冬部には残菊が詠まれている。花に関する記述の箇所には現代語訳のキャプションが添えられていて、内容を理解することが可能。本作の筆者は紀貫之と伝えられているが、書と料紙の特徴から11世紀後半の作と考えられている。
花にちなんだ名品がずらりと並ぶ展覧会。百花ひらく麗らかな春の季節に、作品に込められた花々の美とかたちを感じ取りたい。
※出品作はすべて皇居三の丸尚蔵館収蔵
「百花ひらく—花々をめぐる美—」
会期:開催中〜2025年5月6日(火・休)前期:〜4月6日(日) 後期:4月8日(火)〜5月6日(火・休)
会場:皇居三の丸尚蔵館
開館時間:9:30〜17:00(毎週金・土曜日は〜20:00、ただし3月28日(金)と4月25日(金)を除く)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日 ※5月5日(月・祝)は開館、3月31日(月)は臨時開館
お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://shozokan.nich.go.jp/exhibitions/2025flowers.html
筆者:川岸 徹