「コーヒーの2050年問題」にタリーズコーヒーと伊藤園はどう挑むか
2025年4月11日(金)10時0分 マイナビニュース
気候変動や需要増によって「コーヒーの2050年問題」が深刻化するなか、タリーズコーヒーと伊藤園は独自の取り組みで課題解決に挑んでいる。高品質なコーヒー豆の確保が困難になる未来に向けた両社の取り組みについて、キーパーソンに話を伺った。
○25年後にはおいしいコーヒーが飲めなくなる?
地球温暖化の影響を受け、コーヒーを生産できる場所は減少を続けている。World Coffee Research(WCR)によれば、2050年にはコーヒー豆の栽培に適した土地は半分以下になると言われており、コーヒー豆の3大品種のひとつである「アラビカ種」の生産可能地域は約75%が失われるという。これが「コーヒーの2050年問題」だ。
一方、カフェチェーンが世界的に増加するなかで、新興国・生産国・発展途上国でもコーヒーを楽しむ文化が浸透。2000年以降は高品質なコーヒー豆の確保競争が激化しており、異常気象の影響などで需要に対して供給が追いつかない年も出てきた。
こういった背景から、現在コーヒー豆は歴史的な高値を記録。アラビカ種は6〜7年前に比べ約3倍もの価格になった。いま日本で起こっている“米騒動”さながらの状況が、コーヒー市場では続いている。
この「コーヒーの2050年問題」に対して、コーヒーの品質にこだわるタリーズコーヒージャパンとそのグループ会社である伊藤園はどのような取り組みを行っているのだろうか。
タリーズコーヒージャパン コーヒーマスターの南川剛士氏、伊藤園 マーケティング本部 コーヒー・炭酸・水ブランドグループ ブランドマネジャーの相澤治氏に聞いた。
○コーヒーを大切にし、おいしさにこだわるということ
1996年にスターバックスコーヒーが日本に上陸した翌年、1997年8月7日に1号店が開店したタリーズコーヒー。1998年にタリーズコーヒージャパンとして日本法人に移管、2005年にアメリカの本社から日本におけるライセンス権を買い取り、完全独立を果たしている。
そんなタリーズコーヒーの魅力は、高品質な豆を使ったおいしいコーヒーを楽しめること。アラビカ種と呼ばれる品種を100%使用していて、とくにもっとも原種に近いとされるティピカ種へのこだわりは非常に強い。
「ティピカ種は非常に味が良いのですが、大変デリケートな品種で育てるのが難しいのです。近年は育てやすく病に強いといわれるハイブリット種と呼ばれる品種に植え替えが進んでしまい、育てている人がほぼいなくなっています。タリーズコーヒージャパンとしては、なんとかこの原種に近いおいしい品種を残したい。そこで2018年に構想し、2019年に立ち上げたのが、『接ぎ木プロジェクト』です」(タリーズ 南川氏)
「接ぎ木プロジェクト」は、数少ないティピカ種の産地のひとつであるペルーのセンフロカフェ農協と、タリーズコーヒージャパンが共同で進めているティピカ種の保護活動だ。ティピカ種の樹を病虫害に強いロブスタ種の根に接ぎ木することで、味わいの良いコーヒー豆を安定的に栽培することを目指している。
立ち上げとコロナ禍が重なり、当初はプロジェクトの存続も危ぶまれたが、生産者の努力が実り、2023年には初収穫を迎えた。そして2024年5月に数量限定「ティピカ」が店舗でテスト販売され、好評を博したという。2027年の本格販売を目指し、現在は収穫量の拡大、品質の維持・向上を進めているそうだ。
「もうひとつが、コスタリカのドータ農協で行っているマイクロロット(少量生産)プロジェクトです。小規模設備で品質の高いコーヒーを丁寧に栽培しています。コスタリカはコーヒー生産国のなかでは教育・生活水準が高く、他の生産国と同じように作っていたらどうしても価格競争で負けてしまうんですよ。もう17〜18年ほど続いている取り組みです」(タリーズ 南川氏)
生産者への還元も大きいマイクロロットプロジェクトを初めてからというもの、若い人や女性もコーヒー栽培のためにドータ地域で働くようになったという。生産者は増えた収入をもとに子どもを大学に通わせ、子どもが再びコーヒー栽培に携わる……そんな好循環も生まれているそうだ。
「タリーズコーヒージャパンは経営理念のひとつとして“地域社会に根ざしたコミュニティーカフェとなる”を掲げています。コーヒーを中心に雇用が生まれ、より経済的にも豊かになるという形で産地のコミュニティにも貢献できているんじゃないかなと思っています」(タリーズ 南川氏)
○カフェだけじゃない人気の秘密はタリーズRTDコーヒー
タリーズコーヒージャパンがコーヒーの品質を維持する取り組みを進めているのと同様に、タリーズブランドのRTD(READY TO DRINK/フタを挙げてすぐに飲める飲料。缶飲料・ペットボトル飲料など)コーヒーを販売している伊藤園もまた品質向上に努めている。実は伊藤園のタリーズRTDコーヒーには根強いファンが多い。RTDコーヒーのおいしさからタリーズを知り、店舗に訪れる方も多いという。
コーヒー飲料市場はコロナ禍で大幅に縮小し、まだ従来の水準まで戻っていない。一方で、自宅で過ごす時間の増加はコーヒーの楽しみ方の幅を広げることにもなり、ユーザーがコーヒーに求める基準は上がっている。そこにうまく刺さったのがタリーズのRTDコーヒーだ。
「我々の看板商品である『TULLY'S COFFEE BARISTA'S BLACK』は、非常にリピート率が高く固定ファンが多いんですよ。ブラックコーヒーのおいしさを一番打ち出している商品であり、“これじゃないと駄目”という方がいらっしゃるんです」(伊藤園 相澤氏)
これほどまで熱心なファンが増えた理由は、タリーズコーヒーというブランドを借りるだけでなく、ブランドをお互いに大事にし、一緒になっておいしさを追求しているためだという。両社は、コーヒーの品質を守り高め続けるための検討を頻繁に行っており、ショップ品質とRTDコーヒーのそれぞれのおいしさについて目線合わせも大事にしている。
「ご存じの通り、伊藤園は『お〜いお茶』を事業の中心とするお茶の会社です。我々も畑からおいしさをつくり上げるという考えから農業をはじめとしたさまざまな取り組みを行っており、そのこだわりはタリーズコーヒージャパンと同じなのかなと思っています。RTDは淹れたてのおいしさとはまた異なり、キャップを開けた瞬間はもちろん、そのおいしさが長続きする商品にしなくてはなりません。タリーズコーヒージャパンの力と伊藤園のお茶の知見を掛け合わせることで相乗効果が生まれていると思っています。」(伊藤園 相澤氏)
そんな両社のこだわりが表れているのがボトル缶のTULLY'S COFFEE BARISTA'S シリーズ。2024年10月に数量限定で発売された「TULLY'S BARISTA'S BLACK キリマンジャロ」だ。タリーズコーヒージャパンがタンザニア北部タリメ地区で作った特別な新豆(ニュークロップ)を使っており、香りと甘み、華やかな香りを実現している。キリマンジャロは今力を入れている商品で、発売以来売り上げも好調でタリーズRTDコーヒーのファン層を広げているそうだ。
他にも売り上げが伸び続けているのは、コーヒーにほんのりミルクを入れたようなおいしさの「TULLY'S COFFEE BARISTA'S 無糖LATTE」。今後は若い人や女性に支持されるボトル缶以外の商品をさらに強化していく予定だという。
○協働のスタンスでコーヒーの2050年問題に取り組む
昨今、日本でもコーヒーの値上げが進みつつあるが、世界的に見ればそれでもまだ進んでいないほうと言える。RTDでもコンビニでも気軽に飲めるため、それほど危機感を持っていない消費者のほうが多いだろう。現在はあくまで企業各社の努力によって、中にはコーヒーの品質を下げることにより、価格上昇が抑えられている状況だ。
今後、コーヒー豆の供給が追いつかなくなる可能性は高い。それを避けるためにコーヒーの生産者は育てやすく病には強いといわれるハイブリット種に注力しており、これは世界的に見ても必要な判断と言えるだろう。一方でおいしい品種を現在の価格で作り続けるのは難しくなっており、カフェチェーンの多くは自社農場や契約農場を増やすことで対応を進めている。
だが、ここまで紹介してきたとおり、タリーズコーヒージャパンはそれとは異なる“協働”のスタンスで取り組みを進めている。これは伊藤園が展開している「お茶」の世界に近く、両社の思いは共通したところにあると言えそうだ。
「タリーズコーヒージャパンには5つの最高を提供するという経営理念があります。『最高の豆』『最高の焙煎』『最高のバリスタ』『最高のホスピタリティ』、そして最後に『最高の…』という項目があり、従業員1人1人がその日の目標を立ててお客さまに向き合いましょうという形になっています。最高のタリーズ体験をぜひお楽しみいただきたいと思います」(タリーズ 南川氏)
「我々も、おいしさにこだわったタリーズらしいコーヒーをしっかり感じて貰う製品を今後も一緒に作っていきたいと思っています。ブラックだけじゃないコーヒーの楽しみもありますので、ペットボトルのラテや家庭用のドリップバッグなど、タリーズというブランドを愛していただけるような製品群も強化していきたいと思っています。ぜひご期待ください」(伊藤園 相澤氏)