日本の3000m障害の歴史を変えた三浦龍司がOnとアスリート契約を締結、新スパイク着用で世界陸上の参加標準記録突破
2025年5月1日(木)6時0分 JBpress
(スポーツライター:酒井 政人)
3000m障害の歴史を変えた三浦龍司
日本の3000m障害を変えてきた男が「新しい競技人生のスタート」を切った。これまでに数々の記録を塗り替えてきた三浦龍司(SUBARU)が“勝負靴”を履き替えたのだ。
スイスのスポーツブランド「On」(以下、オン)は2025年3月より三浦とアスリート契約を締結。その発表会が東京・国立競技場で行われた。
「オンは勢いのあるブランドですし、自分自身も刺激を受けています。契約できることはすごく光栄に感じますし、これが自分の新しい競技人生のスタートになると思っています」
昨季までは別メーカーを着用していた三浦だが、オンのウェアも似合っていた。
発表会が行われた国立競技場は2021年に開催された東京五輪の会場だ。4年前、三浦は無観客のなかを必死に駆け抜けた。そして予選で日本記録を塗り替えると、決勝では7位入賞の快挙を果たしている。
翌年のオレゴン世界陸上は予選で敗退したが、一昨年のブダペスト世界陸上で6位入賞。そして昨年のパリ五輪では8位入賞を達成した。近年は世界最高峰リーグであるダイヤモンドリーグ(DL)にも積極的に参戦しており、世界トップクラスの“サンショー選手”として認知されている。
今年は9月に東京で世界陸上が開催される。国立競技場でどんなパフォーマンスを発揮するのか。4年間で様々な経験を積んだ三浦は「メダル」という目標を堂々と口にした。
日本市場を狙うオンの戦略
オンは2010年にスイスで生まれて、急成長を遂げてきたブランドだ。2022年4月に東京・原宿のキャットストリートに世界で2店舗目、アジア初の旗艦店となるOn Tokyo(オン・トーキョー)をオープン。国内ではタウンシューズとしての人気を集めると、近年はトップアスリートの着用も目立つようになってきた。
まずは中距離選手にアプローチを開始。今年正月の箱根駅伝では7区を区間新で爆走した佐藤圭汰(駒大)がオンのシューズを着用していた。また2月の丸亀国際ハーフマラソンで59分30秒(日本歴代2位)の日本学生記録を打ち立てた篠原倖太朗(富士通)ともアスリート契約を締結している。
オンが三浦と契約したのは日本市場を見据えてのこと。アスリートマネジメントのスティーブ・デコーカー氏はこう語った。
「オンにとって日本は非常に重要な市場で、大きな成長の可能性があると感じています。そのため日本人トップアスリートとパートナーシップを組む必要性があると考えていました。三浦選手は世界でもベストアスリートの一人。またSUBARUチームとパートナーシップを結んでいますので、今回の契約を持って、チームとの関係性も強化することができると考えています」
またオンは北米、欧州、豪州にOAC(オン・アスレチッククラブ)を立ち上げており、そこを拠点に世界トップクラスの契約選手たちがトレーニングを積んでいる。日本人では佐藤が練習に参加しており、今後は三浦もOACでトレーニングする機会があるかもしれない。
新スパイクで東京世界陸上の参加標準記録を突破
三浦は3月23日の順天堂大競技会1500mでトラックのシーズン初戦に出場。鋭いスパートでトップを飾り、3分43秒59をマークした。オンのスパイクに関しては、「僕のフィーリングとしては凄くいいなと率直に思います。3000m障害のレースでも期待感が持てるのかな」と好感触を持っていた。
メイン種目の3000m障害では4月26日のダイヤモンドリーグ厦門大会で“スパイクデビュー”を果たした。「ダイヤモンドリーグは記録も望めますし、ここで世界陸上の参加標準記録を切って、内定を決めたいなと思っています。タイムだけでなく、順位もしっかりと上を狙っていきたい」と話していた三浦が“有言実行”のレースを見せる。
三浦はラストスパートで順位を3つも押し上げて、6位でフィニッシュ。8分10秒11をマークして、東京世界陸上の参加標準記録(8分15秒00)を悠々と突破したのだ。これで3大会連続となる世界陸上代表が内定した。
シーズン初戦で自らが持つ日本記録(8分09秒91)に迫り、今後の期待は十分。次は5月3日のダイヤモンドリーグ上海・柯橋大会、5月18日にはセイコーゴールデングランプリ東京の出場を予定している。
契約発表会では、「世界陸上は自国開催ということでアピールできる場面が大きいのかなと思っています。具体的な目標については、表彰台、メダル獲得を継続的に掲げていますし、プラスして記録も更新していきたい。そのために集団のなかで勝ち切る力をもっとつけていきたいです。将来的には8分を切ることが目標です。そして金メダルを目指していきたい。これまで叶えられなかった高い目標をオンとともに達成したいと思います」と語っていた三浦。新たなスパイクで絶好のスタートを切った。
筆者:酒井 政人