冥界の神「ハデス」も!深海で発見された新種の等脚類にギリシャ神々の名が与えられる
2025年5月1日(木)21時0分 カラパイア
Image credit: Knauber et al., Zoosystematics and Evolution 2025 (CC BY 4.0[http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/])
地球の海の奥深くに潜んでいたのは、等脚類に姿を変えた冥界の神ハデスの化身だった ーー SF的情景が思い浮かぶだろう?次の映画の主題になりそうだ。
2025年、ドイツの研究チームが、太平洋北西部、カムチャツカ半島南部の千島海溝で、これまで知られていなかった新種の等脚類を発見し、ハプロニスクス・ハデス(Haploniscus hades)と命名した。
2025年、ドイツの研究チームがロシア東部・太平洋にあるクリル・カムチャッカ海溝で、これまで知られていなかった新種の等脚類を発見し、「ハプロニスクス・ハデス(Haploniscus hades)」と命名した。
この種を含む新たな5つの新種に、ギリシャ神話に登場する神々の名前が与えられた。地球最後のフロンティアである深海に息づく小さな神々に迫っていこう。
千島海溝の深海部に新種の等脚類、冥界ハデスの名が与えられる
2025年、ハンブルク大学のアンナ・クナウバー博士ら国際研究チームは、最深部は9,550mにもなる千島海溝で、新たな等脚類(とうきゃくるい)を数種発見した。
等脚類とは、ダンゴムシやフナムシなどの仲間で、甲殻類に属する。
今回発見されたものは水深6,000mを超える「ハダル帯(hadal zone)」と呼ばれる過酷な環境に生息しており、その1種は「ハプロニスクス・ハデス(Haploniscus hades)」と名付けられた。
ハプロニスクス・ハデス(Haploniscus hades)新種。オスの基準標本(標本番号:KBII Hap137)の口器の構造。A:顎脚(がっきゃく)、B:右の大顎、C:左の大顎、D:第2小顎、E:第1小顎、F:顎脚の先端内側のふちの詳細、G:右大顎の切歯部および臼歯部の拡大、H:左大顎の切歯部、可動突起、臼歯部の拡大 ※スケールバーはいずれも0.1mm Image credit: Knauber et al., Zoosystematics and Evolution 2025 (CC BY 4.0[http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/])
「ハデス」はギリシャ神話に登場する冥界の王。死後の世界を支配する神として知られている。
この生物が暮らす場所もまさに“地獄の入り口”とも言える深さで、冷たく、暗く、恐ろしいほどの水圧がかかっている。
さらに、この生物は尾の部分を体の中に隠すという特徴があり、神話に登場する「透明になる帽子」をかぶったハデスを彷彿とさせたという。
新種ハプロニスクス・ハデス(Haploniscus hades)の線画図、A・C:メスの副基準標本(パラタイプ、KBII Hap213)
B・D:オスの正基準標本(ホロタイプ、KBII Hap137)、A・B:体の全体像(背面から見た図)、C・D:第7胸節(最後の体節)側部の形状比較 ※スケールバーはいずれも0.5mm Image credit: Knauber et al., Zoosystematics and Evolution 2025 (CC BY 4.0[http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/])
新種に与えられたギリシャ神々の名
実はこのハプロニスクス・ハデス、もともとは1963年に記載された「ハプロニスクス・ベリャエビ(Haploniscus belyaevi)」という別の種だと思われていた。
しかし研究チームが最新のゲノム解析を行った結果、「隠蔽種(いんぺいしゅ)」だったことがわかった。
隠蔽種とは、本来別種であるにもかかわらず、外見的特徴の類似をはじめとする理由から同種と判断されていた種のことだ。
そこで分類が見直され、もともと1つの種だと考えられていたグループは、全部で6種の別々の種に整理された。そのうち1種は既存の種を再記載したもので、残る5種が新種として新たに命名された。
5種の名はすべてギリシャの神々にちなんでいる。
ハプロニスクス・ベリャエビ(Haploniscus belyaevi)
→ もとの種で、今回再記載された。
ハプロニスクス・ハデス(Haploniscus hades)
→ 冥界の王ハデスの名を持つ新種。深海の王者のような存在。
ハプロニスクス・アパティクス(Haploniscus apaticus)
→ 騙しの女神アパテから命名。オスとメスの見た目がほとんど同じで見分けがつかず、まるで正体を隠しているかのようだった。
ハプロニスクス・エレボス(Haploniscus erebus)
→ 暗黒の神エレボスにちなむ。深海の闇の中に潜む姿がぴったり。
ハプロニスクス・ニュクス(Haploniscus nyx)
→ 夜の女神ニュクスから命名。エレボスの妻で、夜そのものを象徴する存在。
ハプロニスクス・ケルベロス(Haploniscus kerberos)
→ 冥界の番犬ケルベロスにちなむ。冥界の入り口を守る三つ頭の犬のように、他の種がいる海溝の外れ、「アビサル平原」に生息している。
それぞれの種名には、見た目や生息環境、そして発見の難しさなどがうまく反映されていて、ただの名前ではなく“性格”のようなものまで伝わってくる。
A:ハプロニスクス・ハデス(H. hades、新種)、B:ハプロニスクス・ベリャエビ(H. belyaevi:再記載)、C:ハプロニスクス・エレボス(H. erebus、新種) ※スケールバーは1mm Image credit: Knauber et al., Zoosystematics and Evolution 2025 (CC BY 4.0[http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/])
深海は、地球の「神話」を秘めた最後のフロンティア
これらの等脚類たちは、体長わずか数mmという小さな生き物だ。しかし、彼らは地球上でもっとも過酷な環境に生き抜いており、その存在は深海の生命の奥深さを物語っている。
北西太平洋、千島海溝およびオホーツク海における、belyaevi種群に属するハプロニスクス属等脚類の分布 Image credit: Knauber et al., Zoosystematics and Evolution 2025 (CC BY 4.0[http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/])
日本にも、日本海溝や伊豆・小笠原海溝といった深海のハダル帯があり、今後、日本周辺でも同じような新種が見つかるかもしれない。発見されたら日本の神々の名前を命名して欲しいね。
この研究成果は、ドイツの科学誌『Zoosystematics and Evolution[https://doi.org/10.3897/zse.101.137663]』に掲載された。
References: Across trench and ridge: description of five new species of the Haploniscus belyaevi Birstein, 1963 species complex (Isopoda, Haploniscidae) from the Kuril-Kamchatka Trench region[https://zse.pensoft.net/article/137663/] / Hades, Is That You? New Deep-Sea Isopod Species Named After God Of The Underworld[https://www.iflscience.com/hades-is-that-you-new-deep-sea-isopod-species-named-after-god-of-the-underworld-78958]