【東京都中野区】日曜日の午後6時から、中学生たちの学びを支える『中野よもぎ塾』

2023年5月4日(木)11時0分 ソトコト

2023年2月最後の日曜日。この日は、東京都中野区にある『桃園区民活動センター』の和室が『中野よもぎ塾』の教室だった。午後6時少し前、『中野よもぎ塾』の代表・大西桃子さんは、ホワイトボードにその日の座席表を描き始めた。中学生はそれを見て自分の席に着き、講師は担当する生徒がやるべきことを確認し、生徒の元へ。授業開始の挨拶は特になく、静かにそれぞれの勉強がスタートした。





ボランティアの講師とともに、無料塾を始める。


代表の大西さんが『中野よもぎ塾』を始めるきっかけとなったのは、学生の頃から通っていたバーのマスターからの「うちの子(中学1年生)の勉強を見てもらえない?」という一言だった。引き受けて初めて、塾に通うには思った以上にお金がかかることを知った。また、その子の妹さんは学級崩壊のために小学校2年生から学校で満足に勉強ができず、塾に通う余裕もなくて、勉強が遅れていた。「経済的や環境などの理由で有料の塾や家庭教師、通信教育などを利用できない子どもたちは思った以上に多いのかもしれない。そんな子どもたちに勉強を教えたい」、という気持ちが生まれた。


しかし、一人でできることには限界がある。勉強を教えるボランティアが集まり、サークルのような形で塾ができないか。そう考え、大学時代の友人や仕事仲間、故郷の同級生などに声をかけたところ、「やってみたい」「協力するよ」とすぐに10人以上が集まった。また、東京都八王子市で無料で塾を開いている『八王子つばめ塾』を知り、場所の確保や運営面など具体的なことを教えてもらった。


こうして2014年4月から始まった『中野よもぎ塾』は、最初の2コマ(2時間)は個別学習、3コマ目は集団授業が基本スタイル。初日こそ生徒は1人だったが、夏には10人を超え、3年目からは常に定員いっぱいの25人の生徒が通うようになった。チラシをつくって区役所などに置いたが、それよりもSNSで発信した効果が大きかったと大西さんは語る。「生徒たちの様子を少しでも親に伝えたいという気持ちで、授業の様子などを写真と文章で発信してきました。それを見てお母さんが連絡をくれることが多いです。なかには生徒から『親は高校に行かなくてもいいと言っているが、進学したい。助けてほしい』とメッセージがきたこともあります」。





勉強だけでなく、多くの学びの機会を用意。


個別授業の内容は、日々の宿題やテスト勉強から受験対策までさまざま。第一志望校の合格に向けて勉強する生徒もいれば、小学校の算数まで戻る生徒もいる。それぞれの学力や要望に沿った指導を積み重ねることで学力が伸び、勉強の方法や学習習慣を身につけることができる。








『中野よもぎ塾』でユニークなのは、3コマ目の「集団授業」だろう。句会や朗読会、英会話、キャリア教育など幅広い学びの場となっている。「生徒の多くが、親以外の大人との触れ合いや会話、一般社会に対する知識や経験が少ないことに気づきました。講師も一緒に参加するので、社会にいろいろな大人がいることを知るきっかけにもなると思っています」。





新型コロナウイルス感染症の流行前には、サマーキャンプ、クリスマス会などのイベントも多かった。特にサマーキャンプは、スケジュールやしおりの作成、メニューや予算決め、買い物など、生徒が主体となって準備を主導する。「キャンプでは勉強もしますが、最初から準備に関わることで生徒たちは勉強以外のことをたくさん学び、確実に成長していきます」と大西さんは語る。





生徒たちの学びを支えるボランティア講師には、現在100人近くが登録している。20〜30代を中心に、リタイアしたシニア世代や大学生など多彩で、多くは教師の経験はない。「子どもが好き」「教えてみたい」「得意の英語を生かしたい」「子どもの貧困解決に少しでも関わりたい」など、さまざまな思いから参加している。


北村佳付真(かつま)さんは、6、7年前から参加し、現在は副代表を務めている。塾の講師経験があるが、そのときよりも「生徒との距離が近い」ことが続けている理由のひとつだという。「個別授業なので、ときには無駄話をすることもあります。その中から、勉強に興味が持てない理由や好きなことなどを知って、生徒をより理解できるようになります。また、個人はもちろん学年ごとにカラーが違って、ひとつとして同じ年代はない。そういうところがこの塾の魅力だと思います」。





大学時代に小・中学生・高校生の遊びのボランティア経験がある副代表の大山慎さんは、コロナ禍でリモートワークが増えたことをきっかけに参加した。「『中野よもぎ塾』の雰囲気はやわらかく、いつも和気藹々としています。勉強する場所というだけではなく、生徒たちの居場所にもなっているとも感じました。塾が終わった後、講師同士で飲みに行くことも楽しいんです」と『中野よもぎ塾』の魅力を語ってくれた。


毎年新しい生徒が入塾。その繰り返しで今に至る。


この4月で『中野よもぎ塾』は10周年を迎える。「最初は全員の学力を上げて、大学へ進学してほしいと考えていました。私の中に学歴主義や偏差値信仰が知らぬ間にあったんですね」と大西さんは率直に語る。「塾で多様な生徒に接するうちに、大学進学だけが目標ではないと思うようになりました。専門学校で取得できる資格や、看護師、ネイルアーティスト、スタントマンなど、将来を明確に描いている生徒にとっては大学進学が必ずしも幸せにつながらないと、私自身も学んできました」。


そんな『中野よもぎ塾』には、無料塾を開きたいと相談に訪れる人が多いが、いちばん不安を抱くのは資金のことだ。「私たちは、基本的に区の施設を借りているので、費用はそれほどかかりません。教材はAmazonの『ほしい物リスト』で募ったり、塾から寄付していただいたり。あとは個人からの金銭的な寄付もあります。それよりも一緒にやってくれる仲間がいるかが重要。仲間がいれば、実現は難しくないと思います」と大西さんは笑顔を見せる。


今年も3月に中学3年生が『中野よもぎ塾』を巣立ち、4月には新1年生が入ってくる。これからも中学生の学びを支え、将来について考える場としてあり続ける。





『中野よもぎ塾』・大西桃子さんが気になる、学びを楽しむコンテンツ。


TV:プレバト
MBS毎日放送
芸能人の隠れた才能を専門家が査定する人気番組。『よもぎ塾』でも句会をやっているので、俳句は参考になります。特に夏井いつき先生の添削で劇的によくなるところがおもしろい。言葉への興味が深くなりました。


Website:CAMEL
www.camel123.jp
​自社で制作した映像授業をクラウド上にアップし、無料で視聴できるサイト『CAMEL』。ライブ授業があったり、メタバースを使った数学の授業があったり。生徒がアクセスしやすいですし、全国の無料塾とも提携しています。


Website:ちびむすドリル
https://happylilac.net
漢字や計算をはじめ、さまざまなプリント教材が無料でダウンロードできるサイト。中学生向けには主要5教科があります。白地図は利用頻度が高いですし、復習として小学生向けのプリントを使うこともあります。


photographs by Mao Yamamoto text by Reiko Hisashima


記事は雑誌ソトコト2023年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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