「アルムナイ採用」ってなに? メリット・デメリットを現場目線で解説
2025年5月20日(火)14時57分 マイナビニュース
最近、人事界隈でよく耳にする「アルムナイ採用」というワードをご存じだろうか。呪文めいた響きを持つこの手法は、人材確保の難易度が増し続ける中で重要になってくるという話だが、果たしてどのようなものなのか。社員の個性・才能を発掘する"タレントマネジメントシステム"を提供するカオナビ エンタープライズビジネス本部 本部長の福田智規氏に現場目線で解説してもらった。
今、アルムナイ採用が叫ばれているのはなぜか
Q.最近うわさの「アルムナイ採用」、退職者を再度雇う手法だと聞いていますが、実際どんなものなのでしょう。取り組む価値はありますか?(30代後半・人事部男性)
A. 福田氏の回答
要点さえ押さえれば、即戦力確保とそこに留まらないポテンシャルを秘めているため、十分に取り組む価値のある手法だと私は捉えています。
「アルムナイ」とは、もともと英語の「卒業生・同窓生」を表す言葉。「アルムナイ採用」とはおっしゃる通り、会社を一度退職した人たちにアプローチして、改めて採用することを指しています。会社内では「カムバック制度」「ジョブリターン制度」などの名称で制度化されていることの方が多いかもしれません。人のつながりを活用する点で「リファラル採用」に近く、コミュニティや人事制度などを整備していく必要がある点に大きな特徴がある方法です。
実際のところこの手法は日本でも目新しいものではありません。日本でも大手財閥系では数百年前からグループ内の親睦会が営まれ、転職・独立者も参加できるコミュニティが形成され、そこでの人材の往来も盛んに行われてきた歴史があります。
近年は人材の流動性が高まり、少子高齢化による採用・人材維持が急速に難化してきたことで、中小企業も含め「アルムナイネットワークを構築して、優秀な退職者を人材として獲得していこう」と考えるようになってきています。アルムナイネットワーク用のプラットフォームを販売する会社も出てきているので、この手法を導入する企業が徐々に増えているのも間違いありません。
諸刃の剣? 着目しておくべきメリット・デメリット
アルムナイ採用のメリットはなんといっても「低コストで即戦力人材を確保できること」にあります。
各社とも通常のフローとして新卒採用やキャリア採用が動いていますが、採用難易度が上がっていくとどうしても妥協が必要になってくる面もあり、ミスマッチが起こりやすくなる傾向があります。しかし、アルムナイ採用は以前自社に在籍していた人材を対象としているので、能力・業務フロー・企業文化など互いに理解できています。オンボーディングなどにかける時間も少なく済み、採用目線でのメリットが多分にあります。
また、どの会社にも増えてきている「キャリアアップのために外を見に行きたい」「新たなチャレンジをしたい」と考える優秀な人材層にも、外に出ても戻って来られる仕組みを用意することは有効です。自社と異なるビジネスを経験した人間として戻ってきてもらえれば、自社のビジネスに新たな風を吹き込むことができます。
ですが、安易な気持ちでアルムナイ採用をスタートさせると、社員の士気を下げることにつながりかねないので注意が必要です。それぞれに退職した理由があります。それがネガティブなものだった場合、当事者には「何を言ってるんだろう」と、事情を知る社員には「アルムナイ採用なんて言っても、戻ってくるわけないでしょ」と呆れられてしまいます。内外のイメージダウンを誘発してしまう結果にもなりかねません。
また、年功序列が根深い会社で急に導入すれば、役職や報酬設計がもとで内部の人との軋轢を生んでしまうリスクもあります。組織全体に影響を与えるメリット・デメリットを秘めたアルムナイ採用は、決して単純ではない諸刃の剣という一面も持っています。
好循環を作る、アルムナイ採用成功のコツ
アルムナイ採用は、ただその仕組みを作って打ち出すだけでは十分な効果は望めません。
なにより忘れてはならないのは「何らかの理由があって退職している」という事実です。退職理由が会社のネガティブな部分にあるのであれば、会社側がそれを理解し、改善していかなければなりません。「会社の外で挑戦したい」といった理由でも、退職時点よりも会社が魅力的になっていなければ「改めて入社したい」とは思わないはずです。そのため、企業がより良くなっていることが大前提で、なおかつそれをきちんと伝えられる仕組みや施策が必要になります。
さらに、こうした魅力の発信、制度設計を行う際には既存社員への配慮が大切です。「みなさんのおかげで事業成長が達成できていて、それを外に出た人たちに伝えることでさらなる成長につなげたいと考えている。アルムナイネットワークはそのためのコミュニティです」「現在はこのポジションが不足しているので、今期はこの補強を意図しています」などアルムナイ採用の意義・狙いなどを丁寧に説明すれば、理解は得られるはずです。
うまく制度推進できれば、「うちの会社は外に行くため辞めても、また一緒に働ける環境があるんだ」「また戻りたくなるほどの事業成長を、私たちは成し遂げているんだ」と、内部メンバーのモチベーション向上にもつながる可能性があります。最終的には既存社員とシナジーを生み出し、会社全体に好循環を生み出していく。それがアルムナイ採用の持つポテンシャルであり、導入する本当の意義だと私は考えています。
アルムナイ採用を進めていくにあたり、どこから手をつけたらいいかわからない方も多いと思います。私としては、いきなり採用に向かわず、まず内部を見直すために、複数人を対象に退職の理由や意見を聞いてみるというところからスタートさせるのも手ではないかと思っています。アルムナイ採用は要点さえ押さえれば、新卒やキャリア採用に比べてリーズナブルなコストで高い効果が得られる手法で、長期的な効果も見込めます。人事制度の見直しも見据えて、少しずつ進めていくのも良いのではないでしょうか。
福田智規(カオナビ) ふくだ とものり 株式会社カオナビ エンタープライズビジネス本部 本部長 大手メーカー系IT関係会社に新卒入社。主にITインフラ全般のソリューション営業業務に従事。営業企画を経験後、グループ共通サービスの企画、クロスセルなど間接販売業務も経験。大手企業向け営業ノウハウを学ぶ。2019年カオナビに入社しエンタープライズ領域の新規開拓を担当、2024年より現職。 この著者の記事一覧はこちら