不登校ジャーナリスト「週1登校」でホメられるのがつらいのは、ホメ言葉の正体が「否定」だから。帰省時に「学校はどう?」と聞かれるのがいやな場合は…
2025年5月22日(木)12時30分 婦人公論.jp
(写真提供:Photo AC)
文部科学省によると、令和5年度の小・中学校における不登校児童生徒数は34万6,482人で過去最多となったそう。しかし、自身も不登校経験者である不登校ジャーナリスト・石井しこうさんは、「学校へ行っても行かなくても、結果的にはあまり関係ありませんでした」と語ります。そこで今回は石井さんの著書『学校に行かなかった僕が、あのころの自分に今なら言えること』から一部を抜粋しお届けします。
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「週1登校」で、やたらホメられるのがつらい
学校へ行けるのは週に1度、それも放課後や、校長室に寄るだけ。親や先生から「学校へ行けただけで満点だよ」「前よりも長く学校へいられるようになったね」などとホメられる。本来はうれしい言葉。親もがんばりを認めてくれようとしているのに、どんどん学校へ行くのが苦しくなる。前よりも、もっと学校が遠く感じてしんどくなる。
そんな状況ですね。「おかしいなあ」と思うかもしれませんが、その苦しさはまっとうです。なぜなら、あなたに投げかけられた言葉は、無意識に「あなたの今」を否定するものだからです。
あなたは週に1度、学校へ行くたびにホメられますが、その一方で、ほとんどの日を欠席していること、あるいはその週に1度も「まともに行けなかった」ことを、日々苦々しく思っていませんか。週1の登校をホメられることが、逆に「ふつうになれない」「みんなと同じようにできない」と、できない自分を突きつけられている気になっているはずです。
親や先生はホメてくれますが、そのホメ言葉の正体が「否定」に変わってしまったことに、親や先生も気がついていません。信じられないかもしれませんが、親や先生も知らないことがたくさんあるのです。
ホメ言葉に苦しんでいたら…
もちろん、がんばってがんばって学校へ行きたいのだから、ホメ言葉は奮起の材料になっている、という人は、それでかまいません。ただ、ホメ言葉に苦しんでいたら、2つ、提案させてください。
1つ 「ホメ言葉で傷つく」という事実を知ること。ホメられて傷つくなんて「自分は弱すぎる」「過敏すぎる」と思わなくて大丈夫。その言葉には、傷つく要素が充分に含まれています。
2つ 「問題」から離れること。おそらく問題となっているのは「学校」でしょう。学校に週に1度だけ行く。頭で考えればこれほど簡単なことはありませんが、その週に1度があなたの心に大きな負担になっているのです。
頭で考えて「行ける」と思っても、しんどいならば、今は問題の原因である学校からは離れてください。勇気を出して離れてみたら、ぐっとラクになって、自分なりに進みたい道筋が見えてくるはずです。
しこうポイント!
ホメ言葉の正体が「否定」なので
「学校はどう?」と聞いてくる祖父母に会いたくない
不登校当事者から聞く「帰省の話」は、ろくな話がありません。
あなたのまわりにはこんな人はいませんか。
帰省中に「会社にだっていやな奴はいっぱいいるんだ」と訓辞を垂れるお父さん。有名進学校へ進んだ息子の自慢話に花を咲かせ、自己否定感に追い打ちをかけてくるおばさん。「学校へ行かなくても働けばいいんだ」と早朝から畑仕事を手伝わせようとするおじいさん。「学校はどうしたの? 行ってないって聞いたけど」とずけずけ聞くおじさん、などなど。
もしも自分が魔法を使えるなら、その存在を消し去ってしまいたいと思うキャラが、身近に1人はいるはずです。こういう「やっかいキャラ」との遭遇が不登校にとっての「帰省」なわけです。帰省時期が近づくだけで、食欲が落ちるという人もいます。
(写真提供:Photo AC)
しかもやっかいなのは、おじいさんやおばあさんという存在は帰省をさせたがるということ。孫であるあなたが大好きだから。それはよくわかっているでしょう。悪意ではなく「善意」だからこそ、帰省が断りづらく、いやなものなんです。帰省の悩みは全国的なものです。年明けやお盆明け、どれほど多くの当事者から同じような話を聞いてきたことか。
必要なのは「安全基地」
結論を言います。「帰省は希望者だけで!」が原則です。
精神科医・高岡健さんは「安心できる安全基地があるからこそ、外で冒険ができるようになる」と言います。学校で傷ついた私たちにとって必要なのは「安全基地」です。残念ながら、小うるさい祖父母宅は安全基地ではありません。ただ、それも時間によって変わります。過去、現在、未来、ずっと安全基地だという場も少なければ、ずっと危険な場も少ないものです。今はちょっと遠慮したいので、帰省は希望する人だけで行ってもらいましょう。
帰省をしない理由は体調不良(うそ)でけっこうです。ご両親のどちらかに頼み、お年玉やお小遣いだけはしっかり受け取ってきてもらいましょう。
しこうポイント!
帰省は「希望者のみで」が原則!
※本稿は、『学校に行かなかった僕が、あのころの自分に今なら言えること』(大和書房)の一部を再編集したものです。
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