コロナ禍で進んだアートの新しい見せ方、世界中で大ヒットを記録する「没入体験型」アート展が日本上陸
2024年7月31日(水)8時0分 JBpress
第一回印象派展が開催されてから今年で150周年。世界中で愛されてきた印象派の世界を冒険する没入型展覧会「モネ&フレンズ・アライブ 東京展」が日本橋三井ホールで開幕した。
文=川岸 徹
コロナ禍で進んだアートの新しい見せ方
コロナ禍の間、デジタルの力には本当にお世話になった。美術館に行きたいが、行くことができない。募る欲求を少しでも解消しようと、世界の美術館やギャラリー、アーティストのサイトを頻繁に訪ねた。そこに掲載されているのはデジタルデータ。「実物はオーラが全く違う。デジタルは所詮デジタルだ」と言われるが、これはこれで楽しい。というよりも、オンラインでここまでできるのかと何度驚かされたことか。
美術館とGoogleが共同開発した「Google Arts & Culture」を使ってオランダ・アムステルダム国立美術館をバーチャル訪問すると、ストリートビュー機能を使って館内を歩いて巡る気分を味わえた。リアルな館内と違わぬ位置に、レンブラントやフェルメールの名画が飾られている。もっと近くで鑑賞したいと思い、作品の前まで近寄ると、絵具の盛り上がり具合や絵筆のタッチまで確認可能。デジタルって、すごい。
コロナ禍が収まり、美術館は以前の状況にほぼ戻ったが、「アート×デジタル鑑賞」はアート作品の楽しみ方のひとつとして定着しつつある。しかも進化のスピードが恐ろしいほどに速い。
没入型デジタル展覧会とは?
今、従来の枠を越えた新しいアート展として人気を集めているのが「没入型デジタル展覧会」。360度すべての壁面と床面をシームレスにつなぎ合わせ、アート作品をベースにして作り上げた映像を投影。音楽や効果音、光、香りなどの要素を加えて、来場者に圧倒的な没入感を体験してもらおうとするプログラムだ。
この新しいエンタメに世界各国の企業が参入し、魅力的なプログラムを次々に生み出している。今のところ呼び方はまちまちで、「没入型デジタル展覧会」「イマーシブミュージアム」「体感型デジタルアート劇場」などと独自に銘打っている。
今回紹介する「モネ&フレンズ・アライブ」は、オーストラリアのメルボルンに本社を置くGrande Experiences社の企画制作によるもの。日本に上陸する2つめの作品で、ちなみに第1弾の「ゴッホ・アライブ」は世界100都市を巡り、900万人を動員。現在、101番目の都市・福岡(福岡三越ギャラリー)で9月13日まで開催されている。
印象派とその周辺の画家に注目
さて、「モネ&フレンズ・アライブ」を体験。優雅でいて時に力強いクラシック音楽に導かれ、19世紀半ばから20世紀初頭にかけて活躍した画家の作品が次々に登場する。“印象派の父”と呼ばれるエドゥアール・マネ、印象派を代表する画家クロード・モネ、カミーユ・ピサロ、ピエール=オーギュスト・ルノワール、エドガー・ドガ、ベルト・モリゾ、メアリー・カサット、ギュスターヴ・カイユボット。さらにポスト印象派のポール・セザンヌ、点描画で知られるジョルジュ・スーラ、ポール・シニャック。ポスターを芸術の域に高めたアンリ・ド・トゥルーズ=ロートレック。
画家の名前を聞いてぱっと思い浮かぶ作品は、ほぼ漏らすことなく登場する。次々と現れる名画を眺めながら、「あの美術館で見た」「あの展覧会に出品されていた」と思い出を振り返る時間が楽しい。
作品もただ映し出されるだけではない。デジタルならではの“仕掛け”も用意されている。ネタバレになるのでプログラムの内容を詳しく書くことは控えたいが、イメージできるようにひとつだけ例を挙げて紹介したい。モネの代表作のひとつ《積みわら》。そこに雪がちらほらと舞い始め、やがて吹雪となり、スクリーンが白色で埋め尽くされる。その吹雪がおさまると、モネが一面の雪景色をとらえた人気作《かささぎ》が現れるという趣向。
これもアートの楽しみ方
映像は1クール47分。実際の時間よりも短く感じ、まだ見続けていたいという気持ちになった。期待以上に、よく作り込んであると思う。
上映作品以外も、丁寧に作り込まれている。登場する画家をひとりひとり詳しく解説したパネル展示や、19世紀から20世紀初頭の美術動向がよくわかる巨大年表があり、映像鑑賞後の復習に便利。10月にはパリのマルモッタン・モネ美術館から約50点が来日する「モネ 睡蓮のとき」(国立西洋美術館)があるので、そこに向けて予習しておくにもいい。
会場には意外なほど若い世代の姿が多い。公式アンバサダーを務める阿部亮平さんの人気によるところなのかもしれない。きっかけはどうであれ、若者が多いのは素直にうれしい。アートへの入口は広いほどいい。それがリアルでも、バーチャルでも。
筆者:川岸 徹