酒呑童子と血の酒や人肉の饗応…日本の知られざる鬼伝説とは? ドラマ「妖怪シェアハウス」を民俗学者の畑中章宏が解説

2020年8月15日(土)21時30分 tocana

——話題のドラマ「妖怪シェアハウス」を気鋭の民俗学者・畑中章宏が解説!



 妖怪シェアハウスの一員で、ふだんはオークション会社に勤務する酒井涼こと「酒呑童子」は、京都府北西部丹後山地の「大江山」を根城に、平安京を脅かした鬼の王である。


 室町時代の絵巻物『大江山絵詞』を原型に流行した怪物退治譚で、謡曲や御伽草子、また歌舞伎や人形浄瑠璃、浮世絵の題材として広く知られるようになった。


 一条天皇の時代 (986〜1011)、都では姫君たちがさらわれる事態が相次ぎ、陰陽師の安倍晴明に占わせたところ、酒呑童子の仕業(しわざ)だとわかった。


 帝の命を受けた源頼光(みなものとのよりみつ)は坂田公時(さかたのきんとき)、渡辺綱(わたなべのつな)、ト部季武(うらべのすえたけ)、碓井貞光(うすいのさだみつ)の四天王と藤原保昌(ふじわらのやすまさ)を率いて、酒呑童子を退治するため大江山に向かう。



 山伏姿に身をやつした一行を酒呑童子は手厚くもてなし、さらになぜ大江山に至ったか理由を明らかにする。越後(新潟)生まれで、最初は比叡山に住んでいたが伝教大師(最澄)に追われて大江山に移った。しかし今度は弘法大師(空海)に追い払われて、弘法大師が亡くなったあとここに舞い戻ってきた……。


 頼光ら一行は、血の酒や人肉の饗応に応えて童子を安心させると、「神便鬼毒酒」という毒酒を童子と手下の鬼たちに飲ませて酔いつぶれたところを成敗する。しかし酒呑童子はだまし討ちだと怒り狂い、切られたあとも頼光の兜に噛み付き、「鬼に横道(おうどう)なし(鬼は道に外れたことはしない)」と罵ったという。


 茨城童子ら配下の鬼たちも残らず退治し、さらわれていた姫君たちを連れて都に凱旋する。一方、童子の首は帝が検分したのち、「宇治の宝蔵」に納められた(ちなみにこの「宝蔵」は伝承上の存在で、酒呑童子以外の妖怪の遺骸や首も納められている)。



 鬼退治の舞台となった大江山には、このほかにも2つの鬼伝説が残されている。崇神天皇の弟にあたる日子坐王(ひこいますのきみ)の土蜘蛛退治伝説と、用明天皇の第三皇子麻呂子親王の鬼退治伝説だ。


 こうした伝説を町おこしに活かすため、1993年(平成5)4月に廃坑となった銅山の跡地に「日本の鬼の交流博物館」が開館。日本国内にとどまらず、世界中の伝統芸能で用いられる鬼面や人形、屏風画などを展示し、鬼の多面性について紹介している。


 京都府宮津市の宮津駅から同府福知山市の福知山駅に至る京都丹後鉄道宮福線の大江駅から車で約15分という、決して便利とは言えないところにあるけれど、毎熊克哉演じる酒呑童子に惚れた人は訪ねてみてはどうだろう。


 酒呑童子に話を戻すと、自分の行状はともかく、頼光らの仕打ちに怒ったように人をだますことを忌み嫌う。ドラマの酒呑童子もやはり“正義感”が強い鬼として描かれているのだ。


 ところで源頼光四天王のひとりである坂田公時は、「金時」とも書き、まさかり担いだ「金太郎」が成長した姿である。あの野生児そのもののような金太郎さんが大人になり、鬼をだまし討ちしたなんて、子どもの将来はわからないものである。

tocana

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