心も体も「サザン愛」にどっぷり 鶴見「スキップビート」、マニア集う粋な店

2018年12月5日(水)6時0分 Jタウンネット

「国民的」とも称されるロックバンド「サザンオールスターズ」。彼らを支えるファン達の数もやはり随一なようで、その熱量を共有できる店が日本各地に存在している。


今回は変わった特徴を持つ店を紹介したい。横浜市鶴見区のカラオケバー「SKIPPED BEAT(スキップビート)」ではファンが集まるだけでなく、店のマスターも人気を博しているという。その噂を聞きつけたJタウンネット編集部は2018年11月23日、スキップビートを訪れ、どんな店なのか、そしてマスターは一体何者なのかを取材した。


マスターの美声も魅力だ


スキップビートはJRと京急が通る鶴見駅から徒歩15分。本町通商店街の中に店を構える。商店街がシャッターだらけになった20時からがスキップビートの本番。筆者が訪れたのが祝日の夜だったのもあり、店内はファンで大盛況だった。


飲み放題プランしかないため、事前に精算する。この時に顔合わせたのが、噂のマスターである山本英徳さん。スーツ姿にリーゼント、男らしいがっちりとした風貌。テディーボーイのようだが、筋金入りのサザンファンだ。


せっかくの大盛況だったので、彼へのインタビューより先に店の雰囲気を体感させてもらった。


まず目に入るのはファンが集まる店に相応しい、数々のサザングッズ。実はこれ、店の常連客の所有物で定期的に入れ替えられている。


タイアップ広告のポスターなど、ファンにとってはたまらない品々が並んでいる。これらをバックに客はそれぞれサザンや桑田佳祐さんの名曲を歌い上げていく。


さすがはファンが集まる店だけあって、本家のコンサートでも滅多に歌われない曲や全編英語の歌詞の楽曲などマニアックな楽曲が次々と予約に入る。しかし、メジャーなヒット曲だからと視線が冷たくなることはない。


例えば「東京VICTORY」といったヒットシングルでは歌い手そっちのけで客が振り付けを迷わず踊り、かけ声もあればシャウトする。最初は溶け込めるか不安であっても、ウエルカムに接してくれる人ばかりだ。


お祭り状態のカラオケの横でテーブル席に集まりお酒を交える若者のグループがいた。2019年の開催がアナウンスされているサザンのツアーについて演出の予想や日程などを語らい、期待に胸を膨らませている。別のグループは過去のコンサートの曲目について話し、笑い合っていた。とても筆者にはついていけない話題で、同意を求められても頷く一方だ。


言いたい放題やり放題、普段できないコアなワンナイトを思う存分に楽しんでいる。


この日訪れた人にインタビューを行った。質問は「この店の魅力とは」。


千葉県の20代会社員の男性は、


「色々な世代が集まるから、様々な世代のサザンの話が聞ける」

そして神奈川県の20代女性。彼女は開店時からの常連だといい、その上で、


「マスター」

と端的に回答してくれた。


その山本さんは客のリクエストに応じて自らが歌うこともある。この日はKUWATA BANDの「MERRY X'MAS IN SUMMER」を熱唱。重厚かつキレのある歌声で店内はこの一番の大騒ぎ。歌でも魅せる粋で優しいサービスだ。この日は桑田さんが提供した中村雅俊さんのヒット曲「恋人も濡れる街角」も歌唱。文字通り店内はマスターの思うまま。思わずチークダンスを踊ってしまいたくなる甘美な雰囲気に変えてしまった。


マイク置いた山本さんはカウンターから優しく慈愛に溢れた視線で客を見守っている。時折、客との談笑もしながら、宴は閉店まで続いた。


1か月のスピード開店


マスターのインタビューは客足が若干落ち着いた閉店後の18年12月1日未明に改めて行った。まず、これだけの店を作り上げるまでの話について聞いた。


マスターが最初にサザンオールスターズの触れたのは、小学生のとき。当時住んでいた沖縄県は民放のチャンネルが少なかったといい、


「ザ・ベストテン(TBS系)を観ないと学校の話題についていけない」

と話した。この番組に頻繁に出演していたサザンを観て「面白いのが出てきた」というのが第一印象だった。


その後、24歳で上京し、転機が訪れたのは12年。あまりのサザン愛をみかねた上司から横須賀市にある「居酒屋佳祐」という店を紹介された。早速、その店に向かったマスターは嬉しかった反面、当時はカラオケができない店だったのが引っかかった。


「こういうのがないなら鶴見にお店作っちゃうよって。ちゃんと居酒屋佳祐の店主に話して、その1か月後にオープン」

サザンのファンが集まれてカラオケができる店——。構想から実現までわずか1か月のスピード開店だ。店名については自身の英徳(えいとく)の名前と楽曲タイトルをひっかけて「匂艶 THE EIGHT CLUB」などを候補にしていた。しかし、中学3年生の時に初めて買ったレコードのタイトルであり、英語のフォントにしても映えるとの理由で現在の店名に決まった。


スピード開店だったが、同業の知り合いがいない、宣伝のために使うSNSもやったことがないゼロからのスタート。さらに「ファンでない」と入れない店であることもあって、当初の客足は伸び悩んだという。しかし、現在でも頻繁に店に訪れるサザンのトリビュートバンド「いとしのエリーズ」ボーカルの兼近TOWAさんらの尽力があり、店の知名度をあげた。


その知名度は留まるところを知らず、


「子どもの入学式でも父兄の人から『スキビのマスターですか?』って聞かれた」

ファンだけでなく地元住民からも知られる存在にまで成長した。


関東はもちろんのこと出張で東京を訪れた際、必ず訪問するという地方からの客も絶えない。それだけの人々が口をそろえて言うのが「マスターに会いたい」。


「特別なことは何もしていない」

しかし、ファンであれば誰に対しても色っぽく、マイルドに振る舞う。がっかりしないマスター像を徹底的に作り込んでいるかのようだ。その姿に憧れの先輩、恋人、兄貴など自分にとっていてほしい「存在」を当てはめているのかもしれない。そして、それを寛大に受け入れてしまうのだ。


充実した日々に思えるが、会社員のままスタートしたこともあり、こんなこともあった。


「店作った時に会社に報告したら怒られた。ただ、1年だけ時間をください。1年で部下を育てますって言った」

当時いた会社で所長だった山本さんは宣言通り部下を1年で所長まで育て、退職。会社に対しての責任もとった上で店に没入した。


「俺の遊び場、みんなのたまり場」を掲げるスキップビート。まだまだ遊び足りていないかとの質問に、


「満足はできない。ずっと遊びを求め続ける」

仕事、遊び、そして自分自身。何に対しても真っ向からぶつかり勝負に出る。その愚直なまでに誠実な生き方は山本さん本人より訪れる人の方がわかっている。


「ちょっとエッチでオシャレなマスター」を目指しているというが、エッチはともかく着飾らない内面のオシャレはルイ・ヴィトンより人を誘う。


ファンを標的にしたビジネスの場合、大元のタレントの人気に乗っかるだけで接客やサービスが不十分なケースもある。しかし、スキップビートの場合、山本さんが本気で訪れた客と向き合ってくれる。表向きはサザンのファンが集まる店であっても、山本さんの存在が何よりのサービスであり、店にとって最大のウリなのかもしれない。


(Jタウンネット編集部 大山雄也)

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