「勉強しなさい」と言われるタイミングが絶妙だった…「クイズ王」伊沢拓司の実家にあった本、流れていたテレビ
2025年1月10日(金)9時15分 プレジデント社
※本稿は、QuizKnock『QuizKnock 学びのルーツ』(新潮社)の一部を再編集したものです。
伊沢拓司さん(『QuizKnock 学びのルーツ』より)
■幼いころから親による「学び」への方向付けがあった
僕の実家は、とくにエリートというわけじゃないんです。お金持ちでもないし、父親こそ一応、早稲田大学を出てはいますけれど、卒業までだいぶかかったらしいですから(笑)、勉強とか学問に対してすごく熱心ということはない。家に漫画とか映画とか音楽とか、「文化資本」があった、みたいなこともないんです。ピアノは後から買ったけど弾けるのは自分だけだし。
ただ、その反動かもしれないですが、両親にはカジュアルな向学心みたいなものはありました。すごく難しい本を読んだりはしないけれど、TVで見るのはバラエティ番組よりも教養番組とか大河ドラマが多かったり。
NHK大河ドラマの『利家とまつ』を親と一緒に見た記憶がありますけれど、子どもが自分から見る番組じゃないですよね。そういう意味では、親による「学び」への方向付けはありましたね。
■「勉強を教える」ではない教育
小学1年生のときには、家にあった織田信長の歴史漫画を読んだことをよく覚えています。実は僕が歴史に興味を持ったきっかけがその歴史漫画なんですが、それもブックオフで100円で売られていたものを、親が買って家に置いておいたんですよ。
このときに、家に置いてあるのが不良もののバトル漫画だったら、少なくともこの時点での僕は歴史に興味を持ちませんでしたよね。友情とか人付き合いとか、もっと大切なものを学んでいた可能性はありますけど。
結局こういうことの積み重ねはあって、学びに向かいやすい環境や雰囲気が用意されてたんですよね。
それが僕の、無意識のものも含めた考え方の癖や方向性、つまり「マインドセット」を形作ってきた気がします。特段勉強を教えるとかそういうことではなくても、それが自分が受けてきた教育だったように思いますね。
■小学校時代は一人の時間が長かった
とはいえどちらかというと、学校とか家の外の環境が自分に与えた影響が大きかったように思います。最寄りの小学校が県下一のマンモス校だったので、親が無理して私立に入れてくれたんです。片道1時間、電車通学でした。
当時はスマホもない、ケータイも性能はしょぼくて色々な情報を手に入れることは難しいということで、本を読むしかやることがない。でも、歩いている時間は本も読めません。なんなら家に帰ってきたって、地元の友達は学校が違うから一人で遊ぶしかない。親も働いてるからいなかったりする。兄弟もいない。
つまり、「一人の時間」が圧倒的に長かったんですよね。その間は考え事をするか、一人で遊ぶしかない。それが大きな意味を持ったと、今になって思います。
子どもが複数人集まると、何かを共同でやるわけです。木に登る、穴を掘る、鬼から逃げる。共通の課題を見つけ、それを解決する方向に動くわけですね。スポーツとかゲームもそうですけど。そしてそこには、言い出しっぺがいる。
でも僕は一人でしたから、遊びの課題が外から与えられないんですよ。「○○しようぜ!」と言ってくる友達がいませんから。だから、僕は自分で自分に課題を与えるしかなかったんですね。
写真=iStock.com/arekmalang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/arekmalang
■一人ならではの「課題」を設定した
そこで僕は、勝手に一人で課題を設定して、それをクリアするということを繰り返していました。課題といっても、「講談社火の鳥伝記文庫を読破する」とか「好きな漫画の1話ごとのレビューを書く」とか、勝手気ままなテーマ設定でしたけどね。
それに、別に優等生だったわけじゃないので、「親の目を盗んでカードゲームを買う」とか「こっそりランドセルにゲーム機を入れて家を出て、通学中に遊ぶ」といった課題もたくさんありました(笑)。でも課題は課題ですよね。
自分で課題探しをして、それを解決しようとする癖付けができたので、自分への自信とか、自主性みたいなものは育ちましたよね、経路の良し悪しはともかく。外からテーマが与えられないわけですから、自分で探すしかない。だから僕は自発的に、課題を探してそれをクリアするということを繰り返していたんです。それも今の僕への伏線ですね。
■「管理」と「放任」の絶妙なバランス
共働きといっても、両親は僕を放任していたわけではないんです。「勉強しなさい」と言われることはけっこうありました。
ただ、言うタイミングが上手かったですね。誰でも遊びの最中に「勉強しなさい」って言われたら嫌じゃないですか。でも両親は、僕がゲームに夢中になっている間は放っておいて、一段落してだらだらし始めたら「そろそろ勉強しなさい」と声をかける。そんな感じで、僕が言われたら渋々にでも納得せざるを得ないタイミングで言い出すわけです。
といっても、小学校高学年になると勉強もそれなりに難しくなってくるので、一緒に机に座って問題を解くようなことはありません。たまに現れて「勉強したら?」と言って去るといった風に、上手に僕をマネジメントしていたと思います。
そうそう、余談なんですが、QuizKnockのみんなを見ていると、やはり親の影響は大きいなとは感じますね。教育に携わっている人が多い。須貝(駿貴)なんてお父さんは学校の先生だし、そうか、鶴崎(修功)もそうですね。
■「学びへのマインドセット」を提供したい
今まで話してきたようなことって、なんというか、具体的なメソッドじゃないですよね。僕は親から勉強法とか時間の使い方を叩きこまれたわけじゃなくて、育った環境によって漠然としたマインドセットを手に入れ、それが今も活きているんです。
具体的にいうと、「学ぶことは楽しいんだ」という信念とか、自発的に課題を探そうとする癖とか。
ちょっと残酷ですけど、そういう環境によるマインドセットって、手に入れるのは簡単ではないと思います。他者依存の要素も多いし、運も絡むので。
お金なら、コツコツ働くとか、ビジネスを成功させるとか、ある程度論理性の中で増やしていける。勉強法とか単なる知識なら、本を買って読めばいい。
でも、マインドセットはお金では買えないんですよ。なにかのセミナーにちょっと参加したとしても、簡単に手に入るものではない。その意味では、学びへのマインドセットを手に入れられた僕は、とても恵まれていたと思います。
そして、そのマインドセットこそが、僕がQuizKnockで多くの人に伝えたい、もっというと「実装したい」ものなんです。
QuizKnockが伝えたいのは、勉強法や知識だけじゃないんです。いや、もちろんそういうことも大事だし、僕たちの活動で新しいことを知ってくれたらすごく嬉しい。だけど、僕が本当に身に付けてほしいのは、学びへのマインドセットです。
■マインドセットは一朝一夕では身に付かない
僕が自分が育った環境について話してきたのは、それがたまたま学びへのマインドセットを得やすい環境だったからです。両親に学びへのモチベーションがあり、家に本があり、自由な時間がある、みたいな。
これは偶然得たものだし、その環境を再現するのはカンタンではないし、環境を再現しても同じようになるかはわかりませんよね。たとえば地域だけ見てもそうで、日本には書店がぜんぜんないような場所も少なくありません。そういうところで生まれ育ったら、読書習慣を身に付けるのはけっこう大変ですよね。僕もブックオフに救われましたし。
あるいはご両親の習慣。たまたま、僕の両親は新聞を読んだり歴史ドラマを見たりする習慣がありましたけれど、そうでないご家庭だって多いでしょう。そもそも歴史ドラマが教育につながるかもわからないし、バラエティを見ていたほうが語彙が増えるみたいなこともあるかもしれない。
マインドセットが一朝一夕では身に付かないのは、結局のところだいぶ運要素が大きくて、かつゆっくりゆっくり育まれるしかないものだからかなと思います。
じゃあどうやって手に入れればいいのかというと、これはもう幸運を祈りつつ環境を整えて、何かしら芽が出てきたらそれを伸ばすために習慣化させていくしかないですね。「新しい知識を手に入れるって楽しい」「学ぶってエキサイティングだ」と感じる経験を積み重ねれば、時間はかかりますが、学びへのマインドセットが身に付くはず。
成功体験の繰り返しがキーになるわけで、そのためのツールの一つとしては、クイズは有効だろうな……みたいなことがひとつ、QuizKnockのやりかたへとつながってきますね。
■クイズ王みたいになる必要はどこにもない
クイズは学びへのマインドセットを身に付けるのに適した要素を持っていますよね。
学ぶ楽しさを体得する一番シンプルな方法は、成功体験を積むことです。「わかった!」「問題が解けた!」とか、ちょっとしたものでいいんですけど、成功体験による自己の肯定が学ぶモチベーションになり、また学んで成功するからまた自己肯定感がたかまって、いいサイクルが生まれるわけです。
QuizKnock『QuizKnock 学びのルーツ』(新潮社)
学びの成功体験は本当になんでもいい。小さな成功の積み重ねが、モチベーションを繋いでくれます。そして、クイズはすごく手軽に成功体験を得られるんですよ。短い時間で出来て、その場ですぐに正解/不正解が出ます。試行回数を稼げて、偶然も含めた小さな成功体験を得やすいんですよね。うまくいけば短時間で何度も気持ちがいいわけです。
別にクイズ王みたいになる必要はどこにもなくて、一問の正解を喜べれば、それは成功体験であり、ほんのちょっと学びへとポジティブな一歩を進めたことになります。そういう小さな成功をきっかけにして、少しずつ学びの楽しさを知り、最終的にはポジティブな習慣付けが行われたら嬉しいですね。
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QuizKnock(クイズノック)
伊沢拓司が中心となって運営する、エンタメと知を融合させたメディア。「楽しいから始まる学び」をコンセプトに、何かを「知る」きっかけとなるような記事や動画を毎日発信中。YouTubeチャンネル登録者は235万人を突破(2024年10月時点)。
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伊沢 拓司(いざわ・たくし)
クイズプレーヤー
TBS系列の人気クイズ番組「東大王」でおなじみのクイズプレーヤー、起業家、タレント。1994年、埼玉県生まれ。1994年、埼玉県生まれ。暁星小学校、開成中学・高等学校、東京大学経済学部を経て、同農学部大学院に進学。TBSのクイズ番組『東大王』で活躍。2016年に立ち上げたwebメディア『QuizKnock』で編集長を務め、19年には株式会社QuizKnockを設立。CEOに就任,
YouTubeチャンネルの制作やウェブメディアの運営を行っている。近著に『勉強大全』(KADOKAWA)など。
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(QuizKnock、クイズプレーヤー 伊沢 拓司)
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