「結婚、出産、セックス、交際を拒否」日本より赤ちゃんが生まれない韓国で起きている若い女性の"静かな撤退"
2025年4月11日(金)11時15分 プレジデント社
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■世界最低水準の出生率、日本と韓国の共通点
厚生労働省は2月に、2024年の日本の出生数が過去最少を記録したと発表した。読売新聞は、出生数は全ての都道府県で前年より減少し、少子化は想定より15年早いペースで進んでいると報じた。日本の2024年の正確な出生率はまだ確定していないが、2023年時点では1.20であり、依然として日本は世界最低水準にある。
同じ東アジアの韓国の数字は日本より低い。ただ、2024年の出生率は前年の0.72から0.76へと9年ぶりに微増した。これはコロナ禍による出産の先送りが原因と主に見られているが、少子化がゆっくりと改善しているとの意見もある。
日韓はともに非常によく似た社会を形成しているが、両国の最新の社会構造を比較することで、少子化を引き起こす共通の理由が浮き彫りになるのではないか。そこで韓国で少子化の事情に詳しい女性政治家2人に取材した。
■学部レベルの大学名が一生ついて回る、歪んだ学歴主義
日韓両国に共通するのは、大学院ではなく、“学部レベル”の大学名が一生ついて回る学歴主義だ。
韓国政府大統領直属の少子高齢社会委員会のメンバーで与党・国民の力(PPP)に属するオク・ジウォン委員は、「韓国はやり直しのきかない国」と語る。
「韓国の教育制度は、小中高12年間、他人と競争し続けることを教えています。そこで学ぶのは、負けるのは自分か相手かというゼロサムゲームです」(オク委員)
韓国では大学間の編入が可能だが、イ・ヒョウォン・ソウル市会議員によると、ほとんどの大学生が「最初に入った大学名を記録から消すために、もう一度入試を受け直す」そうだ。韓国でも日本の「仮面浪人生」と同じ現象が起きている。学部よりもレベルの高い大学院へ進むことを「学歴ロンダ」と日本人が呼ぶように、最初に入った学部の大学名が韓国でも重要視される。オク委員はそんな韓国を「一発勝負社会」と呼ぶが、日本も似たり寄ったりのところがある。
■塾が禁止になったら、夜間にスポーツをさせる韓国の保護者たち
日本と韓国の受験戦争は似ているが、韓国のほうがより過酷だ。コリア・タイムズによると、86%の韓国の小学生が塾や予備校に通っているという。一方、チャイルド・ネット・リサーチ(CNR)のレポートによると、日本の小学生の通塾率は平均30%ほどだが、小2から小6にかけて塾に通う子どもが増えていき小6になると43%に届く。
イ市議は韓国の塾事情について次のように説明する。
「韓国政府は、私教育よりも公教育を優先しようと努力してきました。例えば、夜10時以降の塾、そして学年をはるかに超えた内容を教えることを禁止にしました」
しかし、これが正反対の結果を生んだ。夜の塾が禁止になると、保護者は代わりに子どもをスポーツなど塾ではないお稽古事に行かせるようになったのだ。
金敬哲(キム・キョンチョル)氏が書いた『韓国 行き過ぎた資本主義』は、政権がころころ変わり、その度に教育政策が変わる政治的不安定さが人々をますます不安にさせ、「信じられるのは自分のみ」と、韓国の親たちは学歴にすがるようになったと分析している。小学校5年生で高校1年生の数学を先行学習し、1日2、3軒の塾を回る子どもたちもいるという。
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ファイナンシャル・タイムズによると、現在、6歳未満の子どもたちの半数が塾に通っているという。
「塾産業があまりにも確立されているため、韓国政府は塾産業をつぶすのは不可能だと理解しました。また、働く親が増えたことで、塾が放課後の子どもの居場所にもなっており、もはや子育ての一部として機能しています」(イ市議)
韓国政府は塾産業を排除するよりも「塾と共生する」方向へ舵をきり、塾における生徒の安全確保などに力を入れるようになった。
日本と韓国は、家庭の経済力によって受けられる教育の質に格差が生じ、「教育の機会均等」が損なわれている。日本語の「親ガチャ」という言葉もこのような不公平感から生まれた。このような社会は、若者から将来の希望を奪う怖れがある。
■母親に美容整形クリニックへ連れて行かれた男性
韓国社会における競争の激しさは、外見に対する過剰なまでの意識「ルッキズム」をも生み出している。筆者の知人である30代前半の韓国人夫婦はともに二重まぶた手術を受けていた。夫は自分の一重まぶたを気にしていなかったが、18歳になったときに母親自らが彼を美容クリニックに連れていき、手術を受けさせた。彼らは言う。
「韓国では就職や婚活のために容姿を“改善”することが当たり前になっています。親が子どものスペックを高めるために、整形手術を勧めるのも珍しくありません」
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ちなみに、この夫は博士号をもつエリートだ。彼は性格も明るく、話もうまい。それなのに、スペックを上げるためにさらなる容姿改善が必須だというのだ。
前出のオク委員によれば、履歴書に写真の添付が求められることから、就職面接のために整形手術を受ける人もいるという。履歴書に学校名を省く「ブラインド採用」を導入する企業もあるが、「大学名を隠しても写真はまだ要求される」のが現状だ。
日本も、美容整形クリニックがティーン向けに二重まぶた手術の広告を電車内に吊るすなど、韓国ほどではないが、美容整形が正常化常態化されつつあるように見える。実際に筆者の知人の娘さんはすでに二重まぶたなのに、「高校を卒業したら、目をもっと大きな二重まぶたにする」と話していた。彼氏や親が「そんなことをしなくても」と止めていたが、言うことを聞かずにこの春休みに手術をしてしまった。
両国とも、就活や婚活で自分達の外見や学歴を「スペック」と呼ぶ点まで共通している。これは、「一発勝負社会」がさらに進んだ形であり、人々は自分の体までも競争のための「商品」として扱わざるを得なくなっている証拠ではないか。
■結婚しない、セックスしない、子どもを産まない、男性と交際しない
最新の統計では、韓国の独身者の約65%、日本の約46%しか結婚を希望していない。また韓国の独身者約75%、日本の独身者でも約70%に恋人がいなかった。一方で、恋愛リアリティショーは人気だ。 このような状況から、日韓の恋愛・結婚離れの一因には、人間関係を築き対立を乗り越えるコミュニケーション能力の不足がうかがえる。
韓国独特の少子化要因として、オク委員は「4Bムーブメント」を挙げる。これは韓国の若い女性たちが「結婚しない、性的関係を持たない、子どもを産まない、男性との交際をしない」という選択をするムーブメントだ。韓国語で「Bi」は「〜しない」を意味する接頭辞だ。「このムーブメントは、男女不平等に怒る女性たちが、社会から沈黙の撤退をすることを選んだという意味です」とオク委員は説明する。
韓国の少子化問題をさらに複雑にしているのが、この深刻な男女対立だ。それなのに政府はジェンダーギャップに対して積極的に改善しない。
与党に属するオク委員は、「2022年のソウル市長選挙では、20代の若い男性の約80%がPPPに投票したので、党はジェンダー問題に触れないようにしています」とその理由を明かす。
また、オク委員は、兵役制度が男女対立を助長していると言う。男性は兵役に行かなくてはいけないのに、女性が男女平等を叫ぶことに一部の若い男性が反発しているのだ。一方で、社会経済的には女性が不利な状況も明らかだ。現実には韓国の男女間賃金格差は31.2%と最悪であり、日本の21.3%を大きく上回る(OECD加盟国データ)。
このように男女それぞれの不満が社会で交錯し、対立を深めている。
「2024年の韓国議会選挙では、男女対立の新たな解決策として、女性の徴兵制を主張する野党が現れました。PPPを支持する若い男性は強く賛成しましたが、全体的には、国民のほぼ半数が反対したんです。世論が真っ二つに分かれている事実が男女分断を物語っているのでは」(オク委員)
日本でもオンラインで男女対立を目にするが、韓国ほど顕著ではない。こうして見ると、日本よりも過酷な受験戦争、男女賃金格差や男女分断が、韓国の少子化が日本よりも進んでいる要因のひとつになっているのかもしれない。
■新卒一括採用のある日本、ない韓国
日韓の少子化率の差異を考える上で無視できないのが、若者の雇用状況と企業間格差の問題だ。ニッセイ基礎研究所の金明中(キム・ミョンジュン)研究員は日本の大卒者就職率は98.1%に達しているのに対し(2024年4月)、韓国の大卒者就職率は69.6%(2022年)と、約30ポイントもの開きがあることを指摘している。これは、日本にはある新卒一括採用が韓国にはないことから起こる差だという。
さらに企業規模による賃金格差も両国で異なる様相を見せている。大企業の大卒初任給は中小企業の1.52倍にも達する。一方、日本の同様の格差は1.13倍にとどまっている。
この数字が示すのは、韓国の若者がより激しい就職競争に直面しており、また「大企業に入れるか否か」で生涯賃金に大きな差が生じるという現実だ。新卒一括採用のある日本のほうが相対的に就職の安定性が高く、企業間格差も小さいことが、出生率の違いに影響しているのかもしれない。
けれども、この新卒一括採用は諸刃の剣であり、人材を固定化し流動性を阻害する「一発勝負社会」を引き起こしているのだ。
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■「少額の児童手当のために子どもをもとうとは思えない」と言う韓国のシングルたち
なぜ日本の出生率は韓国より高いのか。その理由は、日本の社会がわずかながらも労働市場の安定性が高く、男女対立がやや緩和されているからかもしれない。しかし、両国とも「一発勝負社会」という共通の課題に直面している。
韓国の出生率が2024年に9年ぶりに上昇したのは、コロナ禍の影響による出産の先送りが原因と見られるが、イ市議は「若者の結婚と子供を持つことに対する見方がゆっくりと変化している」可能性も示唆する。
だが、ソウルで筆者が取材した子どものいない独身男女たちは、「無料のタクシー券や少額の児童手当がもらえるからって、子どもをもとうとは思えませんね。お金だけの話ではない。結婚も子どもも、あまりにもしんどすぎる」と口を揃えて言った。
日韓両国の少子化問題を解決するためには、政府の政策だけでなく、社会全体の改革が必要だ。皆が一斉に「よ~いドン!」と走り出すような一発勝負のライフコースではなく、寄り道や道草をしても敗者にならないような多様な生き方を社会が受け入れる時が来ている。結婚してもしなくても、子どもがいてもいなくても、誰もが自分らしく息苦しさを感じない社会――それは若者、特に女性たちの「静かな撤退」が私たちに投げかける最も重要なメッセージではないだろうか。韓国の現状は他人事ではない。日本社会も今、この問いに真摯に向き合う時である。
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池田 和加(いけだ・わか)
ジャーナリスト
社会・文化を取材し、日本語と英語で発信するジャーナリスト。ライアン・ゴズリングやヒュー・ジャックマンなどのハリウッドスターから、宇宙飛行士や芥川賞作家まで様々なジャンルの人々へのインタビューも手掛ける。
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(ジャーナリスト 池田 和加)
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